癌患者の生存期間は癌の進行度によって決定し、局在診断のみならず、胸膜転移やリンパ節転移の有無の評価が重要です。過大な手術侵襲や術後治療を回避できる事は患者に有益であり、医療経済的にも寄与します。特に、微小な胸膜播種性病変や早期の悪性胸膜中皮腫に対する、画像診断や手術時の可視診断は限界があり、確実かつ客観的な評価、診断システムの開発が希求されています。
我々は、正常組織が放つ緑色自家蛍光と、悪性腫瘍組織で起きる蛍光発生物質の減少による色調の変化を観察する光学的診断を研究してきました。しかし、病変自体の描出は可能であっても、境界線が不鮮明である事など、精度向上の必要性がありました。そこで、光感受性物質である5ALA(5-aminolevulinic acid)を利用した胸腔内悪性病変に対する診断法の開発を行っております。体外より摂取した5ALAは、ヘムの前駆体であるProtoporphyrin IXに代謝され悪性細胞内に留まり、630nm程度の赤色~ピンク色の発光作用を呈する。本研究の結果、微小な胸膜悪性病変の正確な局在診断が可能となる以外にも、肺癌胸膜浸潤因子(pl因子)の正確な診断により、縮小手術である区域切除の適応等も決定できる可能性があります。
肺癌胸膜浸潤例
将来への展望として以下の3点を挙げる。
1. 肺癌センチネルリンパ節生検への応用:肺癌領域リンパ節の位置、色調より、乳癌に比べセンチネルリンパ節生検の研究は進展していないのが現状です)本研究の結果は、腹部も含めた他臓器分野にも大きな示唆をもたらすと思われます。
2. 悪性胸膜中皮腫に対する光線力学的治療(PDT)への応用:早期の悪性胸膜中皮腫の局在診断が可能になり、異常蛍光を発生する物質を特定できれば、極めて予後不良であり、未だ治療法が確立されていない悪性胸膜中皮腫に対し、低侵襲な光線力学的治療(PDT)という新たな治療法が可能になります。
詳しくは呼吸器センターにお問い合わせください。
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