耳鼻咽喉科豆知識

扁桃病巣感染症

扁桃摘出術(扁摘)によってどの程度治るのでしょうか?

1. 掌蹠膿疱症(図2,図3)

掌蹠膿疱症皮疹が手掌および足蹠に限局して多発する難治性の皮膚疾患です。すでに20世紀初頭より扁摘が極めて有効であることが報告されています。当科での検討でも改善率は90%以上と極めて高い結果が得られました。また、扁摘の後、皮疹が一過性に悪化した場合、また発症から手術までの期間が短い場合、皮疹の消失も術後早期に認められます。扁摘はこの病気に対して最も推奨すべき治療法であると考えられます。

【図2】
図2 掌蹠膿疱症における皮疹の改善

【図3】
図3 掌蹠膿疱症における扁桃摘出術後の改善度

2.胸肋鎖骨過形成症

本疾患は胸骨、肋骨、鎖骨に原因不明の異常骨化をきたす疾患です。主な症状は、胸肋鎖骨肥大部の疼痛で、緩解・増悪を繰り返し徐々に進行します。単独で発症することは稀で、約80%に掌蹠膿疱症を合併します。扁摘の有効性は掌蹠膿疱症と同様に極めて高く、過去の報告では胸部痛の改善を示した例が81%と非常に高い改善率を示しています。

3. IgA腎症(図4)

【図4】
図4 IgA腎症における扁桃摘出術後の改善度

本疾患は糸球体腎炎の中で最も頻度が高い病型であり、当初は予後良好とされていました。しかし、最近になって発症後20年で20〜40%が腎透析に陥ることが判明し、画期的な治療法の確立が待たれています。従来、急性上気道炎や急性扁桃炎の際に尿所見の悪化を認める患者さんが20〜30%あり、扁桃との関連性が注目されてきました。実際に扁摘の有効性は高く、血尿は82%、蛋白尿は68%の高い頻度で消失しています。特に、急性扁桃炎や扁桃誘発試験によって尿所見の悪化がみられる場合や発症早期で腎病変が比較的軽度な場合に扁摘が有効であると言われています。さらに扁摘とステロイドパルス療法によってIgA腎症が高率に寛解することが報告されています。

疾患 病態 改善率
掌蹠膿疱症 足底、手拳の無菌性膿疱 90%
扁桃病巣感染症
IgA腎症 幼少時からの血尿 70%
放置すると腎機能障害
胸肋鎖骨過形成症 胸肋鎖骨の腫脹、疼痛

90%

掌蹠膿疱症と合併し易い
アレルギー性紫斑病 青痣(紫斑)の多発 70%
紫斑病性腎炎の合併
尋常性乾癬 鮫肌(乾癬)の多発 70%
難治性、再発性
ベーチェット病 自己免疫疾患 70%
口内アフタ、目の炎症など
リウマチ性関節炎 自己免疫疾患 70%
朝のこわばり、関節痛
アキレス腱炎 アキレス腱の炎症 70%

4. その他の疾患

3つの病気の他に、いくつかの疾患で扁摘が著効を呈した症例が報告されています。それらの疾患と扁摘の有効率について、アレルギー性紫斑病、尋常性乾癬、ベーチェット病、リウマチ性関節炎などは60〜70%と言われています。これらの疾患においても上気道炎による症状の悪化や持続性の咽頭痛を伴う症例には、扁摘が有効な場合も多く、当科でも積極的に手術を行っております。