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消化管外科の特徴

旭川医大消化管外科は食道癌・胃癌・大腸癌をはじめとする消化管の悪性腫瘍の手術を中心に行っていますが、虫垂炎、腸閉塞などの急性腹症や外傷にも対応しています。

当科は日本内視鏡外科学会技術認定医の指導のもと、腹腔鏡下手術を積極的に行い、『体への負担の少ない手術・より精緻な手術』を目指しています。

腹腔鏡下手術とは、腹腔鏡と呼ばれるカメラを腹腔内に挿入して、テレビモニターを観ながら行なう手術です。この手術は小さな創だけで行なえるため、従来の開腹手術と比べて術後の痛みが少なく美容的にも優れています。また、腹腔鏡による拡大視効果による非常に精緻な手術を可能とすることから、近年大学病院を中心に多くの病院で腹腔鏡下手術は行われています。

 

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消化管外科 科長
角 泰雄

対象の病名

【上部消化管】胃がん、食道がん、胃粘膜下腫瘍、胃・十二指腸潰瘍などの上部消化管(食道・胃・十二指腸)疾患に対して治療を行っています。
その他に、鼠径部ヘルニアや腹壁ヘルニアに対する手術も行っています。

【下部消化管】大腸癌(結腸癌、直腸癌)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、大腸良性疾患(憩室、過長症等)小腸腫瘍等に対して治療を行っております。
その他腸穿孔(外傷含む)、腸管壊死等の急性腹症にも対応しております。

スタッフの紹介

  • 長谷川 公治

  • 庄中 達也

  • 北 健吾

  • 谷 誓良

  • 大原 みずほ

  • 武田 智宏

  • 島崎 龍太郎

  • 高畠 宏規

最適で最高の技術支援

当科では、3D内視鏡システム・8K内視鏡システム・da Vinci surgical system Xiなどの最新機器を使い分け、最適で最高の技術支援のもと手術を行っています。

①『8K内視鏡システム』を用いた高繊細内視鏡下手術

当科では現在、8K内視鏡を用いた腹腔鏡手術を食道癌、胃癌、大腸癌に対して行っています。現在8K内視鏡を持っているのは国内でも数施設しかありません。8K内視鏡は、現在一般的に普及しているフルハイビジョン(2K)の16倍の画素数のもとでの映像を70インチの巨大モニターに映し出します。通常のフルハイビジョン映像に比べ非常に繊細ではっきり見えることが特徴です。消化管の癌は摘出すべき臓器やリンパ節がありますが、その近くには残すべき神経や血管なども存在しています。我々は8K内視鏡の技術を用い、適切に「摘出すべき臓器、適切な切離ラインの認識」を行い安全で確実な手術を行っています。


②『3D内視鏡システム』を用いた腹腔鏡下手術

通常の内視鏡システムは2Dでの映像ですが、当科では2018年後半より3D内視鏡システムも積極的に導入しています。現在は1台体制ですが、2020年6月より4台体制となります。3D内視鏡システムの特徴は、両眼立体視での鉗子操作となります。そのため、通常の2Dと比べると鉗子操作が非常にスムーズとなり、より安全な腹腔鏡下手術を行うことが可能となります。

 

③『手術支援ロボットda Vinci surgical system Xi』を用いた手術

ダヴィンチは最先端の手術支援ロボットです。約1cmの小さな創より内視鏡カメラとロボットアームを挿入し、高度な内視鏡手術を可能にします。術者は3Dモニター画面を見ながらあたかも術野に手を入れているようにロボットアームを操作して手術を行います。当施設は、手術支援ロボットを用いた直腸癌手術に対する施設基準・術者基準を満たしており、2019年より通常の保険診療のもとでda Vinciを用いた『ロボット支援下による直腸癌手術』を開始し、30例以上(2020年4月現在)に行っています。今後も積極的に同手術を施行していく予定です。

 

④Reduced Port Surgery (単孔式腹腔鏡下手術・Needlescopic Surgery)

右側結腸癌に対しては、腹腔鏡下手術で用いるトロッカーのサイズ・大きさを減らす『Reduced Port Surgery』も日本内視鏡外科学会技術認定医指導のもと導入しています。このアプローチ方法により、術後の整容性の向上を目指しています。ただし、技術的に難易度が上がるため技術認定医もしくは技術認定医の指導のもとに安全に行える症例に対して施行しています。

 

⑤『内視鏡ホルダーロボットEMARO®』を用いた省力化

現在、外科医不足は外科領域全体の大きな問題です。旭川医大は腹腔鏡下手術での人員を削減するために内視鏡ホルダーロボットEMARO®を用い、省力化を図っています。EMARO®は世界初となる空気圧駆動の内視鏡ホルダロボットです。現在ta TME(transanal TME: 経肛門的アプローチによる全直腸間膜切除)と呼ばれる直腸癌の手術を中心に使用され、その安定した視野で手術が安全に行えるだけでなく、外科医の負担を大きく軽減しています。実際、da Vinci surgical systemとの組み合わせによるta TMEでは、通常5人の外科医が必要ですが、3人での手術が可能となっています。

その他、当科では患者さんへの負担を軽減しながら治療効果を上げるための先進的な取り組みを数多く行っています。
 

上部消化管 診療内容

内視鏡外科手術(内視鏡をお腹に入れて行う腹腔鏡手術や、内視鏡を胸の中に入れる胸腔鏡手術)を積極的に取り入れた外科治療を行っています。全ての患者さんが対象にはなりませんが、胃がん、胃粘膜下腫瘍、食道がん、腹部ヘルニア(鼠径部、腹壁)などに対して行っています。内視鏡外科手術は3〜12mmの穴を腹部または胸部にあけて内視鏡を挿入し、その穴から細い鉗子などの道具を用いて手術を行います。この手術方法により、

1)従来の手術より創が小さくてきれい
2)手術後の痛みが少ない
3)手術後の体力回復が早い
4)入院期間が短く社会復帰が早い

などのメリットがあり、患者さんの負担が少なくなるものと考えられます。また、臓器や血管を大きなテレビ画面(8K内視鏡では特に大きく超高精細な画面)に映し出して手術を行うため、従来の手術よりも出血が少なく精緻な手術が可能であることも大きなメリットとされています。

一時は日本国内において、高難度の腹腔鏡手術後に複数の患者さんが死亡したという事例が報道され、腹腔鏡手術が危険な手術であるかのような印象を与えかねないことがありましたが、当科ではすでに保険収載されている手術、および病院内の倫理委員会で承認された手術のみを対象としており、患者さんごとにそのメリットと危険性などにつき消化管外科スタッフ全員で議論し、患者さんへ十分に説明・同意を得たうえで手術を行っています。疑問の点、不安な点があれば遠慮なく担当医に相談してみてください。
 

胃がん

胃がんの患者さんが最適な治療を受けられるように日本胃癌学会では『胃癌治療ガイドライン』、『胃がん治療ガイドラインの解説』が作成・出版され、学会のホームページにも公開されています。

とくに『胃がん治療ガイドラインの解説』は、一部若干内容が古くなっていますが、胃がん治療を受ける患者さんやご家族様用に書かれていますので、是非とも胃がんと診断をされたら購入またはダウンロードして読んでいただき、理解を深めていただければと思います。当科でも基本的にこのガイドラインに沿って治療が行われますが、前述のように患者さんへの負担を少なくするために、早期がんのみならず一部の進行がんの(がんが他臓器に浸潤していないものやリンパ節に多く転移していない)患者さんでは、腹腔鏡手術を行っています。腹腔鏡手術では創は非常に小さくなっています。

さらに、早期がんの患者さんに対しては、可能であれば機能温存手術(胃の機能をできるだけ損なわない手術)も積極的に行っています。例えば、従来胃を全部切除することが多かった胃上部の早期がんに対し胃の中下部を温存する腹腔鏡下噴門側胃切除術や、胃の出口を含め3分の2を切除することが多かった胃中部の早期がんに対し胃の出口を温存する腹腔鏡下幽門保存胃切除術などがあります。

また、腹腔鏡手術の対象とならず開腹手術を必要とする患者さんにおいても、創を小さくする努力をしています。侵襲を少なくすることで早期離床や早期リハビリテーションが可能で、さらに早期から食事を再開することで、体の中にある腸も早期リハビリテーションを行い、体全体の早期回復を目指しています。現在、胃癌手術における術後入院期間は8〜12日です。

診断されたときすでに進行がんである患者さんには、現在標準的な治療である術後補助化学療法(抗がん剤治療)を行う他、一部の患者さんでは手術前に化学療法を行い治癒率の向上を図ることもあります。

また手術後残念ながらがんが再発してしまった患者さんに対しても、最新のガイドラインや臨床試験の結果に基づく治療を行うと同時に、辛い症状で緩和医療が必要となった際にも緩和ケアチームと協力して治療を継続して行うことを目指しています。
 

食道がん

食道がんの患者さんにとって最適な治療がなされるように日本食道学会では食道癌診療ガイドラインを作成しています。当科においてもこのガイドラインを参考にしつつ、様々な進行度や余病をもった一人一人の患者さんに対して最良の治療法を選択していきます。

我々担当医は患者さんにとっての最大の理解者であり、情報提供者になります。食道がんと診断をされましたら、是非、積極的に情報を集め、説明を受け、率直に話し合い、十分に理解して、治療に積極的に向き合っていくことが重要であると考えています。

食道がんの治療法には、内視鏡治療、手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)の4つがあります。ある程度進んだがんでは、手術が可能であれば術前化学療法と手術を組み合わせた治療が標準治療として行われます。この場合、術前化学療法開始から手術まで8週間前後の期間があります。

食道がんに対する手術は、食道の大部分と胃の上部、周囲のリンパ節を摘出し、胃(または結腸など)で食道の代わりを作るので、頸部、胸部、腹部の3つの領域に及ぶ大きな手術となり、手術時間も長く術後合併症の発生も他の臓器と比較すると多くなります。また胃がんや大腸がんなどと異なり、手術以外の治療法も根本的治療として選択される場合がありますので、全身状態(体力)などを含めて治療法の決定に際しては、内科、外科、放射線科の専門医と相談をしてから治療法が決定されることがあります。この場合は、各専門医の話を十分に聞いていただくことをお勧めします。

当科では食道がんに対する手術も、可能な限り内視鏡(胸腔鏡、腹腔鏡)手術を行っており、術後の早期回復に努めています。
 

LECS(レックス、腹腔鏡・内視鏡合同手術)

GIST(ジスト、消化管間質腫瘍)などの胃粘膜下腫瘍では、リンパ節へ転移することが少ないため、胃の部分的な切除(局所切除術)が行われます。
また比較的悪性度が低いと考えられるものに対しては腹腔鏡手術を行いますが、腫瘍ができた場所によっては従来の腹腔鏡手術では胃の機能を大きく損なうことがあるため、近年、外科と消化器内科が協力して腹腔鏡と内視鏡(いわゆる胃カメラ)を同時に使用することにより、正常な胃壁の切除量を最小限にするLECSという手技が開発され、当科でも消化器内科と協同して行い胃の機能温存に努めています。
また、2020年より十二指腸の病変に対するLECSも健康保険が適用され手術が可能となりました。
 

チーム医療

胃や食道といった上部消化管疾患の手術後には、胃の働きが弱まることで食事に伴いさまざまな症状が出たり、食事量が減り体重の減少や栄養素の不足から日常生活に支障をきたすことがあります。当院では「胃切除後障害対応施設(胃外科・術後障害研究会ホームページを参照)」として、そのような手術後の支障を減らすために、手術前後から退院後まで、看護師のほか管理栄養士や理学療法士、薬剤師などと連携して活動に取り組んでいます。

 

下部消化管 診療内容

腹腔鏡手術を中心とした外科治療を積極的に行っております。全ての患者さんに適応とはなりませんが、大腸癌手術の約80〜90%の患者様にはメリットがあり適応としております。

患者様のメリットとしては

1)傷が小さくて痛みの回復が早い
2)腸が動き出すのが早い
3)腹腔内の術後癒着が少ない

等があげられます。また手術を行う我々も、大きなハイビジョン画面に映し出される術野を手術スタッフ全員で把握しながら神経、血管を確認し操作するため従来の開腹手術より出血が少なくより精緻な手術が可能となります。

腹腔鏡手術に伴う事故例が報道され腹腔鏡手術の安全性に疑問を持たれることもあるかもしれません。
当科では保険収載とされている手術を対象としており、また患者様個々人の状況に合わせた手術選択をし、スタッフ全員でのカンファレンスの後に患者さんへのインフォームド・コンセントを行って手術を施行しております。

手術の適応、方針等疑問点がございましたら気軽にご相談ください。
 

大腸癌

大腸癌に対する治療指診として大腸癌研究会による「大腸癌治療ガイドライン」が作成されておりガイドラインに準拠した加療を行っています。
患者さんにもわかりやすく説明された「患者さんのための大腸癌治療ガイドライン」も発売されています。
大腸癌に対する手術方法は手術のみならず抗がん剤治療も見据えた上で症例ごとに適切な方法で行っております。
当科は日本内視鏡外科学会技術認定医の指導のもと、安全な内視鏡手術を行っています。
術後入院期間は結腸癌7〜10日前後、直腸癌で8〜14日程度です。
直腸癌に対しては術前放射線化学療法、側方リンパ節郭清、ロボット支援手術、ta-TMEなど多岐にわたりますが、患者さんにあわせたオーダーメイドの治療を行っています。
また他臓器に高度に浸潤するような進行した癌に対しては開腹手術となることが多いですが婦人科、泌尿器科協力のもと根治術を目指しております。
残念ながら初診時の時点で他臓器への転移(肝・肺等)を認めるいわゆるstageⅣの患者様、術後再発をされる患者様がいらっしゃいます。
大腸癌は他臓器転移、再発があっても切除によって根治を望める可能性のある数少ない消化器癌です。我々は化学療法と手術療法を合わせながら常に根治を目指しております。

根治が不可能であった患者様にも最適な化学療法を行うことにより以前よりかなり長く予後が見込めるようになりました。
化学療法及び緩和医療につきましても当科及び関連施設と連携して患者様に合わせた治療を心がけております。

また疾患上人工肛門となることもあります。 当科は人工肛門ケアに長けた、皮膚・排泄ケア認定看護師もいます。 不安な点などがありましたら御相談ください。
 

炎症性腸疾患

昨今、潰瘍性大腸炎、クローン病といった炎症性腸疾患は内科的な治療法が功を奏し、以前程の手術適応は多くはなくなりました。
しかし潰瘍性大腸炎の内科的治療抵抗性の方、癌を発症した方には大腸全摘術が必要となります。適応のある方には腹腔鏡下大腸全摘術を行っております。
また適応のある患者様にはJパウチ−肛門吻合という、残存する腸粘膜がない状態(発がんする腸がない)で肛門を温存することも可能です。

クローン病は小腸型と大腸型、肛門病変を有するものがあります。いずれにしても病勢コントロールは内科的治療が不可欠であり、外科治療は内科的治療に抵抗性であった場合に行います。病変のある腸管を切って繋いでもまたそこには病変が現れるため再手術率の高い疾患と言われています。それを前提に出来る限り再手術のいらない吻合(狭窄しにくい吻合)を取り入れております。
また術中に腸管から直接内視鏡を挿入し、消化器内科医による小腸の観察なども行い治療をしております。肛門病変(痔瘻・肛門周囲膿瘍)も一般的な方より複雑であり、繰り返し、やがて肛門機能(肛門をしめる筋肉・括約筋等)を失ってしまいます。
出来る限り肛門機能を温存する術式(seton法)を中心として緊急にも対応し行っております。
 

良性疾患

大腸憩室炎、憩室穿孔、S状結腸過長症(S状結腸捻転)等を対象としています。大腸憩室は最近の日本人に増えております。
時に炎症を起こしたり、穴が空いたりします。無症状であれば特に治療は必要としませんが、症状がある場合には治療が必要となります。
発症時に腹膜炎となってしまった場合には緊急での手術が必要ですが、部分的な炎症で収まった場合には後日待機的に腹腔鏡で手術を行うことが多いです。

上部消化管グループ手術件数

【食道疾患】

2019年上部消化管グループ手術件数 12件
食道亜全摘 (うち胸腔鏡8) 8
下部食道胃全摘 1
下部食道噴門側胃切除 3

 

【胃疾患】

2019年上部消化管グループ手術件数 55件
胃局所切除 (うち腹腔鏡0) 2
幽門側胃切除 (うち腹腔鏡18) 27
噴門側胃切除 (うち腹腔鏡2) 2
幽門保存胃切除 (うち腹腔鏡8) 8
胃全摘 (うち腹腔鏡13) 15
胃空腸吻合 (うち腹腔鏡1) 1


 

下部消化管グループ手術件数

【大腸疾患件数】

2019年下部消化管グループ手術件数 182件
開腹(大腸癌) 10
腹腔鏡(大腸癌) 164
潰瘍性大腸炎 2
クローン病 6


 

【大腸癌部位別】

2019年下部消化管グループ手術件数 186件
結腸癌 103
直腸癌 83

 
主な大腸疾患の手術件数