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SHIP INTERNATIONAL HOSPITAL(バングラデシュ)医学部医学科5年 篠原 ラピス 真

SHIP INTERNATIONAL HOSPITAL(バングラデシュ)医学部医学科5年 篠原 ラピス 真

SHIP INTERNATIONAL HOSPITAL(バングラデシュ)医学部医学科5年 篠原 ラピス 真

SHIP INTERNATIONAL HOSPITAL(バングラデシュ)

医学部医学科5年 篠原 ラピス 真

〇はじめに
2026年2月14日から2月23日の日程で、バングラデシュの首都ダッカにあるSHIP INTERNATIONAL HOSPITALで臨床実習を行いました。私は医療を通して国際社会に貢献したいという漠然とした思いがあり、在学中に留学の機会が設けられている国際医療人枠で入学しました。また私は母が日本人で父がバングラデシュ人という背景があります。自分のルーツでもあるバングラデシュについて、社会、文化、医療をいつか自分の目で見てみたいと考えておりましたが、バングラデシュへの留学といったプログラムはありませんでした。しかし、本学で知り合った方のご家族が偶然バングラデシュで医師として働いており、その病院での実習機会を設けていただき、留学が実現しました。

〇日程
2月14日(土)~2月16日(月)移動日
2月17日(火)~2月19日(木)臨床実習
2月20日(金)、2月21日(土)観光等
※バングラデシュは金曜日と土曜日が休日。
2月22日(日)、2月23日(月)移動日

日本からバングラデシュの移動はバンコクを経由しましたが、航空便の接続が悪く長時間の移動となりました。また日程は、2月12日に行われた大統領選挙に伴う暴動、2月後半のラマダン(断食)、病院の都合などを考慮して決定しました。本学の実習期間中の留学となってしまいましたが、特例で振替を設けていただきました。

〇バングラデシュについて
バングラデシュはインドの東側に位置する国で、日本と比較すると国土面積は約0.4倍、人口約1.4倍、人口密度約3.3倍で、都市国家を除いた人口1,000万人以上の国の中では世界で最も人口密度が高い国です。公用語はベンガル語で、イスラム教徒が約9割を占めます。通貨はタカ(1タカ=約1.25円)で物価は非常に安く、1日500タカもあれば十分に食事ができるほどでした。
1971年にパキスタンから独立して以来、世界最貧国とされていましたが、縫製業などを中心に経済成長を遂げ、貧困率が減少傾向にあります。しかし依然として経済格差、児童労働、女性の地位、自然災害への脆弱性といった課題を抱えています。生活環境としては交通渋滞が常態化しており、排気ガスで霧がかかっています。また治安についても、デモや政治的な集会などでバスに火炎瓶が投げ込まれるといった事案が発生することもあるそうで、常に注意が必要です。
食生活については、カレーやビリヤニ、チャイなどスパイスを基本とした料理が多く、全体的に糖質と脂質が非常に高いと感じました。スイーツも驚くほど甘く、街中では日本よりも肥満傾向にある方を多く見かけました。これは食習慣に加え、リキシャ(三輪自転車)などの手軽な移動手段が普及しており、日常的な運動習慣が少ないことも要因の一つではないかと感じました。
医療に関しては爆発的な人口増加に対して医師・看護師が不足し、また医療機器などのリソース不足により、非常に厳しい状況にあります。国民皆保険制度がないため、質の高い医療を提供する私立総合病院は受診料が高額で、貧困層には手が届かないそうです。一方公立病院はほぼ無料で診察を受けることもできますが、収容能力を遥かに超える患者が押し寄せ、病室に入りきれない患者が、廊下や階段の踊り場にシーツを敷いて入院生活を送ることもあります。また、清掃が行き届いていない、費用的な問題で注射針を使いまわす(滅菌はする)といった問題点もあり、院内感染のリスクが非常に高い状況になっています。

〇SHIP INTERNATIONAL HOSPITALについて
今回留学させていただいた病院はシップヘルスケアホールディングス(医療・保健・福祉・介護・サービスの事業を展開する日本の株式会社)がバングラデシュ人のパートナー及び国際協力機構(JICA)との共同出資によって運営する病院です。日本製の医療機器や医療ガス供給システムの導入、高い建築基準や衛生管理基準等を結集し、バングラデシュで需要が高い疾患に重点を置いて質の高い医療を届けています。2020年6月にCOVID-19専用の病院として運営を開始し、COVID-19の感染が収束してからは毎日患者さんが数人しか来ない状況となっていたそうです。しかしながら、2023年に日本の心臓血管外科医である現院長が就任し、病院運営の助言、医療人材の育成に力を入れ、現在は心臓血管外科だけで年間約500例の手術を行うほどになりました。スタッフが約450人で日本人スタッフは10人弱働いており、医師や看護師、臨床工学技士や事務など多種にわたり、現地スタッフの教育を行っています。

〇実習内容
今回の実習先は日本の医療に近いものを導入しているため、実習の雰囲気は日本の大学病院に近く、英語版の臨床実習といった感じでした。期間中は主に心臓血管外科を回り、院長先生に同行させていただきました。
バングラデシュでの移動は難易度が非常に高く、朝7時に現地のドライバーが運転する病院のバンで宿舎を出発し、日本人スタッフの方々と共に病院へ通いました。道中は未舗装の箇所も多く、車が大きく跳ねて天井に頭をぶつけることも多々あり、現地の交通事情について身をもって体感しました。

8時に病院に到着すると、CICU(心臓血管集中治療室)と病棟の回診を行い、続いて外来を見学しました。外来では、現地の医師が患者さんのベンガル語を英語に通訳し、それを受けて日本人医師が英語で診断・説明を行うという連携が取られていました。外来終了後はすぐに手術室へ移り、1日2件ほどのペースで冠動脈バイパス手術(CABG)やファロー四徴症の心内修復術、血液透析のための自己血管内シャント作成術などを見学しました。
手術室では、日本人医師が現地の医師や看護師へ熱心に手技を指導する姿が印象的でした。また、現地には臨床工学技士の国家資格制度がないそうで、日本の技師の方が付きっきりで現地の技師を育成している様子も拝見しました。手術後も夕方の外来、そして夕回診と続き、すべての業務が終了するのは19時頃でした。日本人スタッフの方々は誰よりも早く出勤し、最後に帰宅するという多忙な日々を送られており、その献身的な姿勢から多くのことを学びました。また、実習全体や様々なスタッフの方と会話を通して、日本と異なる点が多くあることを知りました。

・リソースの制限と工夫:資金的な制約から使い捨て(ディスポーザブル)のガウンは使用できず、オートクレーブなどで滅菌したリユース品を徹底して活用していました。
・輸血制度の不在:日赤のような献血の制度がないため、自己血もしくは約450人のスタッフの中から適合する血液を準備できるまで手術は行えないそうです。
・宗教への配慮:イスラム教の戒律に基づき、分娩介助や帝王切開、女性の尿カテーテル交換などは女性スタッフしか行えないそうです。また、信仰心の高い方は非常にあごひげが長いため、マスクを鼻と口を覆うものに加えて、あごひげを覆うものの2つをしていました。
・ラマダンの影響:断食期間は夜明け前に食事をとり、仮眠してから出勤するため出勤時間が遅くなる。また、外来に来る患者さんも少なかったです。
・環境対策:蚊を介した感染症対策として、院内には蚊の駆除を専門とするスタッフがいることにも驚きました。留学の時期はデング熱が流行の時期ではなく、たくさん刺されましたが罹患はしなかったです。
・医学教育:バングラデシュでは医学部6年間のうち5年間を座学に費やし、実習は最終学年のみである、また日本でいう初期研修が5年間も設けられている。

〇日常生活
・食事
実習期間中の昼食は、職員食堂でいただきました。現地スタッフや患者さん向けの食事は毎日カレーが基本ですが、日本人スタッフ向けには日本食が用意されており、細やかな配慮がなされていました。一度だけ現地のカレーをいただきましたが、非常に刺激の強い辛さで、ハーフである私でさえ毎日食べ続けるのは難しいと感じるほど本格的なものでした。
実習時間外には、地元のビリヤニ店や外国人向けのフードコートも利用しました。地元の方々で賑わうお店では200タカ(約250円)ほどで驚くほど大量の美味しいビリヤニを味わうことができましたが、一方で、衛生面や価格設定が外国人向けに配慮された施設とのギャップもありました。
また、留学期間がラマダン(断食月)と重なったため、親戚の家で日没後の食事を体験する貴重な機会がありました。日中の断食を終えた直後は、まずフルーツなど胃に優しいものから食べ始め、次第にスパイスの効いた料理や脂質の多いメニューへと移り、最終的には非常に多くの量を摂るのが一般的です。一晩のうちに一日分以上の食事を摂るようなこの食習慣が、現地で生活習慣病が増加している一因ではないかと思いました。

・観光
休日はダッカ市内の名所を巡りました。ダッカ大学、Ahsan Manzil(国立博物館)、Jatiya Sangsad Bhaban(国会議事堂、有名な建築家が作った)、Tara Masjid(星の装飾がちりばめられたモスク)に訪れましたが、大学以外は休館日や入場制限などで内部の見学はできませんでした。しかし、街を歩くだけでも多くの発見がありました。街中は人と車両で溢れ返り、絶え間ないクラクションの音に圧倒されます。また、人口に対する処理能力が追いついていないためか、路上に散乱するゴミの多さも深刻な課題であると感じました。
一方で、近代的な大型ショッピングモールは非常に清潔で、富裕層の方々で賑わっており、街中との経済格差を肌で感じました。特にバングラデシュ発のライフスタイルショップ「Aarong」は、洗練された雑貨や衣服が揃っており、観光客のみならず現地の方々も足を運んでいました。
モスクや商業施設の出口には多くの物乞いの方々がいましたが、この慣習はイスラム教の五行の一つである「喜捨(持てる者が持たざる者に分け与える)」という教えと深く結びついています。必ずしもネガティブなものとしてだけでなく、社会的な相互扶助の一環として捉えられている点は、日本との大きな文化の違いだと感じました。
また礼拝の時間になると大通りに敷物が敷かれ、大勢の人が祈りを捧げるために交通が遮断され、一部の方はその横を歩いて通っていました。宗教が生活の根幹にありますが、信仰のあり方が人それぞれであることを実感しました。その一方で、バザールで働く幼い子供たちの姿も多く見かけ、児童労働という社会課題の根深さを目の当たりにする機会ともなりました。

〇実習を終えて
今回の実習は、これまで情報としてのみ知っていたバングラデシュの現状を、当事者意識を持って見つめ直す貴重な機会となりました。衛生環境やリソース、教育体制といった山積する課題に対し、日本の医療スタンダードを現地の文化と融合させながら提供しようとする病院の取り組みは、私にとって大きな希望となりました。文化や宗教観が異なる地での病院運営には多くの困難が伴いますが、創意工夫を凝らして質の高い医療を届け続ける姿勢は素晴らしいと感じました。
これまで漠然としていた国際社会への貢献という思いが、今回の実習を通じて明確なビジョンへと変わりました。将来、私自身が医師として研鑽を積み、力をつけた暁には、自分のルーツであるバングラデシュのような地域を支え、医療の架け橋となれるような働き方を目指したいと考えました。

〇謝辞
最後に、今回の留学を支援していただいた本学の先生方、国際企画係や教育企画係の皆様、多忙な業務の中温かく指導してくださったSHIP INTERNATIONAL HOSPITALの院長先生をはじめとするスタッフの皆様に心より感謝を申し上げます。