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ポメラニアン医科大学(ポーランド) 医学部医学科6年 瀧澤 爽月

ポメラニアン医科大学(ポーランド) 医学部医学科6年 瀧澤 爽月

ポメラニアン医科大学(ポーランド) 医学部医学科6年 瀧澤 爽月

ポメラニアン医科大学(ポーランド)

医学部医学科6年 瀧澤 爽月

2025年8月7日から9月7日にかけて、ポーランドのシュチェチンにあるポメラニアン医科大学で4週間の臨床実習を行いました。私は、国際医療人枠で大学に入学しており、入学当初は海外の医療にとても興味がありましたが、コロナ禍の影響もあり挑戦する機会やモチベーションが下がってしまっていました。しかし、先輩方の留学体験記を読み、留学に挑戦することができるのはこれが最後のチャンスだと考え、プログラムの参加申込を決めました。

〇ポーランド・シュチェチンについて
シュチェチンは、ポーランドの北西部に位置するポーランド7番目の都市で、ドイツとの国境に近い場所にあります。アジア人を街で見かけることはほとんどありませんでしたが、治安も良く、日本語と離れた環境で生活ができたことは貴重な経験になりました。
公用語はポーランド語、通貨はズロチ(1ズロチ=約40円)で物価は日本とほとんど同じくらいでした。また湿度が低く、北海道よりも過ごしやすい気候でした。晴れの日はとても日差しが強く暑かったですが、雨の日は半袖では寒く温かいコートが必要なほどで、服装の調節が難しいこともありました。

〇実習
小児科(5日間)、産婦人科(5日間)、小児外科(5日間)、一般外科・腫瘍外科(5日間)の計4つの診療科で実習を行いました。実習は主に手術や外来の見学でしたが、身体診察をさせていただいたり、手術に助手として参加させていただいたりと、診療に直接関わる機会も多くありました。
院内では先生も患者さんもポーランド語を話すため、先生の英語での説明無しでは何が話されているのか全くわかりませんでした。しかし、先生方は英語が第2言語であるため、比較的聞き取りやすい速さ・理解しやすい言葉での説明が多かったです。非英語圏での実習は、患者さんの言葉を理解できないというデメリットもありますが、英語が理解しやすいという点で英語圏よりも挑戦しやすい環境だと思いました。

・小児科(5日間)
小児科実習では、回診、救急診療、理学療法、希少疾患の学習など、多様な経験をさせていただきました。内分泌疾患、先天性代謝異常症の患者さんが主に入院しており、先天性副腎皮質過形成、Rett症候群、Gaucher病、PKAN(パントテン酸キナーゼ関連神経変性症)、フェニルケトン尿症,ムコ多糖症のⅥ型(Moroteaux-Lamy症候群)などの多様な疾患を持つ患者さんと接することができました。
前半は、教授や医師の回診に同行し、先天性副腎皮質過形成症やフェニルケトン尿症などの代謝疾患を中心に、多くの患者さんについて学びました。教授が英語で丁寧に説明してくださり、病態や検査結果を理解しながら実習に取り組むことができました。
理学療法士の業務にも同行し、発達段階に合わせたリハビリの方法や、家庭で継続できる運動療法の重要性を学びました。また、Rett症候群やPKANなど希少疾患の患者さんと関わる機会もあり、疾患だけでなく個々の生活背景を知る大切さを実感しました。
救急部では聴診や身体診察を体験し、初期対応の重要性を学びました。さらに、小児外科とのコンサルテーションに同行する機会もあり、他科との連携の様子を拝見することができました。
1週間を通して、小児科医療の幅広さと、多職種が協力しながら子どもの健康を支えていることを改めて感じました。

・産婦人科(4日間)
産婦人科では、帝王切開や婦人科手術、自然分娩の見学など、多岐にわたる経験をすることができました。初日は手術室や分娩室の案内を受け、日本との違いを感じながら帝王切開に参加しました。術中の補助も経験し、縫合方法の違いがとても印象的でした。ポーランドでは分娩恐怖症のために帝王切開を希望する人が多く、帝王切開の割合が半数ほどだと聞きました。実際に帝王切開術は1週間で10件以上見学でき、一部手術では助手として吸引や縫合のサポートをさせてもらいました。また、自然分娩の現場にも立ち会い、呼吸法の指導や産婦さんのサポートの様子を間近で拝見することができました。手術中の止血方法や帝王切開の適応、無痛分娩の課題など、現地ならではの医療事情を知る機会にもなりました。
婦人科手術では、卵巣腫瘍摘出術や腹腔鏡手術に立ち会いました。気腹後に突然バイタルが低下し、緊急対応が行われる場面にも立ち会い、予期せぬ事態に迅速に対応する重要性を学びました。その他にも、膣縮小術や子宮鏡検査など、幅広い手技を見学しました。
1週間を通して、産科・婦人科それぞれの医療の魅力と、文化の違いを強く感じた実習でした。

・小児外科(4日間)
小児外科での1週間では、手術と外来の双方を通して多彩な症例に触れることができました。手術では、停留精巣の再手術や腸管穿孔後の皮弁形成術を見学し、小児外科が泌尿器や形成外科領域も幅広く扱うことを実感しました。小児特有の繊細な器具の使い方や、精巣を傷つけないための術中の工夫が印象的でした。
外来では骨折、多指症、神経損傷、咬傷など多様な症例を経験しました。特に小児の骨折診療では、橈骨動脈の触知や手の温度など救急評価のポイントを学びました。また、指の奇形や多指症の治療方針、成長に合わせた装具作成の実際を拝見することができ、小児外科ならではの長期的視点の重要性を感じました。最終日には、皮膚欠損に対する処置や黒子の切除など形成外科的手術にも立ち会い、創のデザインや縫合の工夫など細かい手技を学びました。
1週間を通して、ポーランドでの小児外科が扱う領域の広さと、子どもの成長を見据えた治療の奥深さを感じる実習となりました。

・一般外科・腫瘍外科(5日間)
外科での1週間では、ロボット支援下手術から腹腔鏡手術、泌尿器科手術まで幅広い領域を見学し、多くの学びを得ることができました。
一般外科・腫瘍外科では、直腸がんのロボット手術や腹腔鏡下胆嚢摘出術とNissen手術、乳房部分切除術などを見学しました。ロボット手術では、アーム配置や視野確保などロボット手術特有の工夫を知りました。また、放射線治療後の手術時期、尿管損傷への注意、インジゴカルミンによる血流確認など、がん手術に必要な知識を学びました。
乳房部分切除術では術野で先生の手術補助を行うことができました。腫瘤の触感を実際に感じ、画像と病変の関係を理解する良い経験となりました。
外科で大きな手術がない時には、泌尿器科の手術を見学しました。ロボット支援下前立腺摘出術では、実際にポートを立てる経験をさせてもらい、腹膜を切開する際の感覚や安全なスペース確保の重要性を体感しました。また、尿道狭窄に対する手術や尿管カテーテル留置、腎移植後の尿管狭窄への対応などを学びました。予定した術式が組織の状態により変更される場面もあり、柔軟な判断の重要性を感じました。
外科では特に先生が丁寧に説明をしてくだり、質問もしやすい環境でとても勉強になりました。
1週間を通して、外科手術の幅広さと、状況に応じた判断・工夫が求められる奥深さを強く実感する実習となりました。
               
今回のポメラニアン医科大学での臨床実習では、全体として日本とは異なる医療体制や患者・家族との関わり方を直接体験でき、とても貴重な学びとなりました。採血や理学療法では家族が積極的にケアに参加しており、医療者と協力しながら子どもを支える文化の違いを強く感じました。また、稀な代謝疾患の診療が多く、詳細な検査や国際的な遺伝子解析など、専門性の高い医療に触れることができました。異なる環境で学ぶことで、自国医療を客観的に見直す機会にもなり、非常に有意義な実習でした。

〇生活や交流
生活は、大学の寮で生活し、一人一部屋与えられた状態で生活しました。トイレとバスは2人で共用、キッチンや洗濯機などは寮全体での共用でした。寮の周りにはZabka(ポーランドのコンビニ)やショッピングモールもあったため、生活で困ることはありませんでした。また、私達の寮は少し郊外にありましたが、街の中心部にもバスで15分ほどで行けたため、外食なども便利でした。ポーランドの交通は、トラムとバスが基本的な移動手段で、乗る際にはチケットの提示などは必要ありませんが、事前に時間購入もしくは定期購入して乗車しました。購入するとすぐにチケットが有効になってしまい、購入のタイミングを間違えてしまうと、改めてチケットを買う必要があったため気を付ける必要がありました。シュチェチン到着時は、工事のため寮から最寄りのトラム停留所が利用できませんでしたが、臨床実習の終盤に工事が完了しました。来年以降は、さらに移動しやすい環境になりそうです。食事に関しては、外食をすることもありましたが、テイクアウトをしたり、寮で軽く料理をしたりすることもありました。食事は、ポーランド料理のピエロギやジュレックなどを楽しむことができました。

シュチェチン市内では、美術館や博物館への訪問や、シュチェチン城や教会などの観光を楽しみました。また、シュチェチンのお祭りも見ることができました。ポーランドでは、土曜日は美術館や博物館が無料であるため、土曜日の訪問をお勧めします。また、日曜日は基本的にお店が閉まっており(Zabkaを除く)、必要なものがあれば、土曜日に買い物を済ませる必要がありました。また、先生にPoznanという都市に連れて行ってもらい、週末を楽しむことができました。ポーランド最古の都市であり、ヤギのからくり時計や旧市街のある綺麗な街でした。Poznanでしか食べられないRogalというクロワッサンを食べたり、城を見学することで歴史を感じ、充実した休日を過ごすことができました。

交流は、学部長室長のMrs. Olena Voznyakを始めとして、その他、ポメラニアン医科大学の学生や先生などと交流を深めることができました。先生とは上記のとおり一緒にPoznanに行ったり、学生とは学校生活についてお話をするなどして親睦を深めることもできました。Mrs. Olena Voznyakは毎週のように、私達を気にかけてくださり、食事をご一緒したり大学の博物館に案内していただいたり、更にはシュチェチン湾へのドライブに連れて行ってくださったりと、大変お世話になりました。ポーランドでは9月が新学期の始まりであるため、休暇期間と重なってしまい、実習や休日に学生と会う機会が少なかったのが少し残念ではありましたが、実習先やMrs. Olena Voznyakが開いてくださった食事会でお話できたのが、貴重な機会で嬉しかったです。

〇感想
ポメラニアン医科大学への留学は、医療だけでなく文化や価値観の違いを肌で感じる貴重な時間となりました。医療現場では、家族が積極的に治療に参加する姿や、医学生も積極的に意見を交わす環境を経験し、医療は技術だけでなく人との協働によって成り立つことを実感しました。言語や生活習慣の違いに戸惑うこともありましたが、それらを乗り越える過程が自分自身の成長につながったと感じています。また、医療現場だけでなく、ポーランドで生活したことで異文化に関わることができたことも大きな学びになりました。今回の留学で得た視野の広がりを、今後の学びと医師としての歩みに活かしていきたいと思います。

最後に、今回の留学に関わり支援してくださった西川学長や東副学長を始め、佐藤先生、国際企画係の皆様を含めた多くの方々に感謝申し上げます。ポメラニアン医科大学で私達を受け入れてくださった先生方、Mrs. Olena Voznyak、学生の皆様にも厚く礼申し上げます。本当にありがとうございました。