ランパーン病院(タイ)医学部医学科5年 辻田 悠希
ランパーン病院(タイ)医学部医学科5年 辻田 悠希
ランパーン病院(タイ)医学部医学科5年 辻田 悠希
ランパーン病院(タイ)
医学部医学科5年 辻田 悠希
〇はじめに
2025年8月31日から9月15日まで、タイ王国ランパーン県にあるランパーン病院で2週間の臨床実習を行いました。本学と同院との国際交流協定が昨年締結され、今年度から正式に留学プログラムが始動したことを受け、参加の機会を得ました。私は将来、研究活動を通じて海外で活躍し、国際的な視野を広げたいと考えてきました。そのため、入学後は友達と英語の勉強をしばしばやっていましたが、実際に海外に行く機会がなく、モチベーションを失っていきました。そんな中、5年生の春にタイで臨床実習ができるプログラムができたことを知りました。最初は臨床医学や日常会話の不安から躊躇しましたが、ここで行動しなければ今後もずっと英語に不安を抱えて生きていくことになる、コンフォートゾーンから抜け出さないといけないと思い、申し込みを決意しました。
○日程
8月31日~9月15日
8月31日(日)移動日、病院案内
9月1日(月)~ 5日(金)救急科実習
9月6日(土)~ 7日(日) 観光等
9月8日(月)~ 12日(金)心臓血管外科実習
9月13日(土)~ 15日(月) 観光等、移動日
○留学費用
本プログラムで10万円分の費用支援があったことに加え、旭川医科大学基金の学部学生海外留学助成事業でも助成していただき、計16万円弱の航空費全額を賄うことがきました。
パスポート発行費用、保険代、宿泊費、食費、お土産代、観光代など、自己負担は6万円台に収まりました。経済的な支援があったことで安心して留学に臨むことができ、関係者の皆様に感謝申し上げます。
○留学前の準備
英語に関してはAI英会話アプリを主に活用し、留学中に想定される状況を設定し、会話の練習を繰り返しました。AI英会話アプリはオンライン英会話よりも費用が安く、復習も容易な点が利点です。また、直前期には英語での独り言を習慣づけました。日常生活で自分が考えていることや動作を英語で口に出し、分からない表現はすぐにChatGPTの音声入力で調べて修正する、という学習を繰り返しました。さらに、Instagramで英会話や医療英語に関するTipsを教えてくれるアカウントを多数以前からフォローしており、SNSを開いても英語に常に触れる環境にしていました。
学内の臨床実習が始まった1月からフランス語を独学で勉強していたので、タイに行くことが決まった5月からはタイ語も勉強してみたいと思うようになり、文字の書き方、発音の仕方から勉強をスタートしました。現地で流暢に使うには至りませんでしたが、文字や発音の仕組みに触れた経験は貴重でした。今後タイに行く人は、日常会話の簡単な言葉を言えるように準備をしたほうがいいかもしれません。現地の人がとても喜びます。
○実習内容
・救急科実習
救急は時間帯がmorning shift (9:00 ~ 16:00)、evening shift (16:00 ~ 24:00)、night shift (24:00 ~ 8:00) の3パターンあります。基本的には救急科のThanin先生のシフトの時間に合わせて行動しました。私の場合、ランパーン県の隣のチェンマイ県から来ている医学生、中国の医学部に留学中でelective studentとして来たタイの医学生、救急科に専門分野を変えるためにやって来たタイの医師の3人と一緒に行動しました。
基本的には、タイの実習生が問診、身体診察、カルテ記入、治療方針等を医師と話し合って決定し、私はその方針に従い参加する形でした。実習生が逐一英語で説明してくれてタイ語がわからなくても問題ありませんでした。他にも、患者の身体診察、欧米人の患者に対して英語で問診と検査結果報告を行いました。実習後には、その日に学んだことや、うまく話せなかった表現、分からなかったことをノートに記録し、復習に努めました。
また、大学病院では経験できない貴重な手技を体験させていただきました。具体的には、ジフテリア・破傷風のワクチン注射、ジクロフェナクの臀部注射、腹水患者に対する腹腔穿刺などです。さらに、英語で行われる症例検討会や、救急レジデントの実技試験模擬演習にも参加することができました 。
・心臓血管外科実習
1日に2~3件の手術があり、心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)、冠動脈バイパス手術(CABG)、低侵襲心臓外科手術(MICS MVR)、大動脈弁置換術(AVR)といった手術を主に経験しました。朝8時からカンファレンスがありその日に行う術式を医師や看護師で確認した後、回診を行い、9時過ぎから手術がスタートしました。1件目が終わったあとに昼食休憩をとり、すぐに次の手術を行うという流れで、19時頃に終了しました。私が実習したときは、日本人医師の土井田進先生が既に手技を学びに来られており、お忙しい中手術方法の説明や現地での生活などについてお話を伺うことができました。また、著名な心臓外科医であるNuttapon先生のOPCABを視察するためにフィリピンから来られた、心臓血管外科医のAnthony V. Manlulu先生と一緒に見学するという貴重な機会にも恵まれました。Anthony先生は私の基本的な質問にも丁寧に答えてくださり、手術手技だけでなくコメディカルの方々にも積極的に質問するその姿勢から、多くのことを学びました。Nuttapon先生の手技も目の前で見ることができ、とても充実した実習生活を送ることができました。
○日常生活
・寮
タイでの滞在は、病院の敷地内にある医師用の寮でした。1日わずか50バーツという安価な宿泊費で、病院まで徒歩5分という便利な立地でした。寮には冷蔵庫、洗濯機、電子レンジも完備されており、不便を感じることはありませんでした。必要なものは病院内のセブンイレブンで買うことができました。
・食事
朝は病院内にあるセブンイレブンで売っているサンドイッチ(地元でも美味しいと評判なようです)をよく食べていました。昼は、救急科では、実習生と一緒に近くの屋台でご飯を食べたり、カフェに行ったりしました。また心臓血管外科では、昼食が病院で医師休憩室に用意されていたので、ドクターと雑談しながら食事をとることができました。夜も仲良くなった実習生と外食する機会が多かったです。
・観光
救急科のevening shiftで夕方まで時間があるときや、土日は実習生と観光ができました。
タイ北部で最も美しい寺院といわれるワット・プラタート・ランパーン・ルアンは病院から車で30分ほどの場所にあり、タイに現存する最も古い木造建築物です。馬車に乗る体験もできました。
1年で約1週間しか開催されない、Thailand Festival Experience “Vijit”にも行くことができました。ランパーンの歴史がわかる美しいプロジェクションマッピングや、寺院、橋のライトアップを見ることができました。
また、救急科の先生に隣県のチェンマイまで車で1時間半ほどかけて引率していただき、ジムで自分の趣味のアームレスリングをしたり、Pongyang Adventure Parkでジップラインやローラーコースターに乗ったりして楽しみました。
バンコクのトランジットで時間があったので、地下鉄でワット・ポーに向かいました。王宮の南側にある有名な涅槃仏を拝観し、タイ古式マッサージを体験しました。その後、雄大なチャオプラヤー川を渡し船で渡り、ライトアップされたワット・アルンを観賞しました。
○実習を終えて
今回の実習を通じて、日本とタイの医療制度の違いを肌で感じることができました。
特に驚いたのは、救急科での医学生の役割です。タイでは、医学生が患者さんの問診から身体診察、カルテ記入まで一貫して行っており、その責任範囲の広さに驚かされました。また、タイの医学教育が基本的にすべて英語で行われていることを知り、グローバルに活躍できる力を養っていることに感銘を受けました。さらに、医療費の負担の関係で、軽症の患者さんでもクリニックではなく大規模な病院を訪れるケースが多く、救急科が常に逼迫しているという現状も目の当たりにしました。
心臓血管外科では、先生方の熟練した手術手技を間近で拝見し、深い感銘を受けました。また、医師が指示を出さなくても次に必要な器具を察して手渡したり、手術後の皮膚縫合まで担当したりする看護師さんのプロフェッショナルな仕事ぶりも大変印象的でした。さらに、フィリピンやインドネシアから来られた先生方と交流する機会にも恵まれ、それぞれの国の心臓血管外科の現状や制度について直接お話を伺うことができたのは、自身の国際的な視野を広げる貴重な経験となりました。
今回の留学に向けて、事前に英会話や医療英語を練習したことで、現地の実習生や先生方とためらうことなくコミュニケーションを取ることができ、大きな達成感を得ることができました。この経験を通じて、改めてコンフォートゾーンから一歩踏み出すことの重要性を実感し、挑戦してみて本当に良かったと心から思います。
○謝辞
この留学プログラムに関して声をかけてくださった心臓血管外科の紙谷教授、ランパーン病院で尽力してくださった潮田先生、今回の留学の綿密な日程調整や病院とのやり取りをしてくださった国際企画係の方々、今回私を受け入れてくださった救急科のThanin先生、心臓血管外科のNuttapon先生、丁寧に現地の心臓外科手術内容等を教えてくださった土井田先生、心臓外科の実習中常に喋りかけてきてくださったフィリピンのAnthony先生、たくさんの交流をしてくださったタイの先生方、タイの学生方、旭川医科大学基金にご寄附をいただいた方々、皆様のお陰で充実した留学生活を送ることができました。本当にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。