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ポメラニアン医科大学(ポーランド)医学部医学科6年 辻本裕美

ポメラニアン医科大学(ポーランド)医学部医学科6年 辻本裕美

ポメラニアン医科大学(ポーランド)医学部医学科6年 辻本裕美

ポメラニアン医科大学(ポーランド)

医学部医学科6年 辻本裕美

〇はじめに
2024年8月18日から9月8日にかけて、ポーランドのシュチェチンにあるポメラニアン医科大学で3週間の臨床実習を行いました。私は大学受験以来、これといって英語の勉強はしておらず、将来海外で働きたいという気持ちもほとんどありませんでした。しかし、4月 にこの留学プログラムの募集を知り、自分にも海外で学ぶチャンスがあるかもしれないと考え応募しました。

〇ポーランド・シュチェチンについて
シュチェチンは、ポーランドの北西部に位置する湾岸都市で、ドイツとの国境に近い場所にあります。観光地ではないのでアジア人の私たちは目立ちますが、全体的に治安も良く、暮らしやすかったです。
公用語はポーランド語、通貨はズロチ(1ズロチ=約40円)で物価は日本とほとんど同じくらいでした。気候はだいたい北海道と同じくらいのイメージですが、特に朝はひんやりと涼しく半袖では寒いと感じるほどなのに対し、昼から夕方にかけては晴れていると太陽の光が強く、とても暑かったです。カラッとした空気の中で、強い日差しが肌を刺すような感覚でした。

〇実習
小児科(4日間)、産婦人科(4日間)、小児外科(4日間)、一般外科・腫瘍外科(3日間)の計4つの科で実習を行いました。実習は主に手術や外来の見学でしたが、身体診察させていただいたり、手術に助手として参加させていただいたりと、診療に直接関わる機会も多くありました。
院内では先生も患者さんもポーランド語を話すため、先生が英語で説明して下さらない限り何が話されているのか全くわかりません。しかし、ポーランド語でのやり取りが行われている間は少しだけ頭を休めることができる時間でもありました。英語のリスニングに集中し続けるのはとても疲れるので、これは英語があまり得意でない私にとっては逆に助かりました。個人差はかなりありますが、先生 方も英語ネイティブではないため比較的聞き取りやすい速さ・理解しやすい言葉で話してくださる方が多かったです。非英語圏での実習は、患者さんの言葉を理解できないなどのデメリットもありますが、語学力のハードルが少し下がるため、挑戦しやすい環境だと思いました。

・小児科(4日間)
こちらの小児科では内分泌疾患、糖尿病、先天性代謝異常症、心血管疾患といった幅広い小児疾患の診断と治療が行われています。病棟や外来では、糖尿病、ホモシスチン尿症、甲状腺機能低下症、プラダーウィリ症候群、思春期早発症などの多様な疾患を持つ患者さんとお会いすることができました。希少疾患の患者さんも多く、NAGS欠損症や複合型グリセロールキナーゼ欠損症といった聞いたことのないような疾患の患者さんもいました。こういった希少疾患の診断には、遺伝子検査が積極的に活用されているとのことでした。
外来では1人の患者に対して十分な時間をかけて診察しており、私たちが見学したときは1人あたり30分程でした。診察の際には、まず患者さんに下着以外の服を全て脱いでもらい、体全体の視診から始めます。私たちも先生に続いて、同じように身体診察させてもらいました。英語が話せる子供さんも多く、保護者も快く受け入れてくれたので、緊張しながらもなんとか診察出来ました。病棟では、先生の通訳の下で患者さんや保護者に問診を行うという場面もありました。
小児科の教授のProf. Maria GiżewskaはJICAの活動で札幌を訪れた経験もある方で、ポーランドとアイヌ民族の関係などの興味深いお話も伺うことができました。

・産婦人科(4日間)
産婦人科では、2人一緒ではなく1人ずつ分かれて実習しました。手術見学が主で、卵巣嚢腫の腹腔鏡手術、子宮内膜搔爬術、子宮頚管縫縮術などを見学しました。外科系の診療科では実際の処置を見ながら先生が解説してくれるため、内科系より理解しやすいと感じました。
ポーランドでは分娩恐怖症のために帝王切開を希望する人が多く、日本より帝王切開の割合が多いようでした(正確な数字は忘れてしまいました)。実習中は特に分娩が少ない期間だったため自然分娩の見学はできませんでしたが、帝王切開術はたくさん見学でき、そのうち数回ほど助手として参加させてもらいました。さらに、外来では妊婦さんに対し実際にエコーを操作させてもらい、貴重な経験ができました。また、カーテンも何もない状態での内診が日本とは全く異なり、衝撃的でした。

・小児外科(4日間)
小児外科では18歳以下の子どもを対象に、手の外科、泌尿器科、腫瘍外科の症例を扱っています。手術見学では、親指の伸展障害、羊膜索症候群、合指症/多指症、軽度の尿道下裂、包茎の手術や、胸腔鏡を使った膿や水のドレナージなど多くの手術を見学しましたが、特に手の手術が多かったように感じます。術野が狭い手術が多く、見やすいポジションを探すのが大変でした。
外来では、捻挫や骨折だけでなく、巨趾症で母趾ほどに大きい示趾を手術で取り除いた患者、先天的に親指が欠損しているため示指を母指として移植した患者、血管奇形のある患者、アペール症候群による合趾症の患者など、多種多様な疾患の患者がフォローアップのために通院していました。
同時期にスペインからの留学生と、ポメラニアン医科大学英語コース5年生の学生も実習していました。海外の学生たちは積極的に(時には若干話を遮りながらも)先生に質問しており、我々もこの姿勢を見習うべきだと感じました。

・一般外科・腫瘍外科(3日間)
最後に一般外科・腫瘍外科で実習しました。腹部や胸部における様々な手術を行っており、腹腔鏡下子宮内膜症性嚢胞摘出術、乳がん術後の腋窩リンパ節郭清術、乳がん術後のインプラントを併用した広背筋皮弁法による乳房再建術、腹腔鏡下胆嚢摘出術を見学しました。特に乳房再建術はたまたま日本で見る機会がなく、初めての見学だったため非常に興味深かったです。病棟では虫垂炎の保存的治療を受けている患者の診察や、ドレッシング材の交換、ドレーン抜去、ストーマ装具の交換などの処置を見学しました。

今回の実習では日本とポーランドの違いを数多く感じました。その多くは国民性の違いから来るものだと思います。病棟では複数人部屋にカーテンがなく、特に小児科で同室の患者と保護者が共に生活している様子は賑やかでした(もちろん診察の際には必要に応じて同室の患者さんには退室してもらいます)。外来でも診察の際には服を脱がせるし、婦人科の内診もカーテンはありません。外科のDr.Maciej Romanowskiが、仕切りの無い相部屋での生活はプライバシーの点で良くない面もあるが、入院中に話し相手がいることは重要だと話していたのが、日本にはあまりない考え方だと私は感じ印象に残っています。どちらにも一長一短があるので、良い面は日本でも導入出来ればと思います。また、日本やイギリスでは1つの建物に全ての診療科が集まっているのに対し、ポーランドでは診療科ごとに別々の建物があるという違いもあります。後者では、スタッフ同士が見知った関係のため働きやすい、患者の元に移動する手間が少ないなどのメリットがあるとのことでした。
さらに、小児科・小児外科では父親が付き添いで来院する割合が日本より高いと感じました。平日の昼間でも父親がベビーカーを押す姿を街中でよく見かけ、湖に行った際には平日の夕方にもかかわらず家族で水遊びや水泳を楽しんでおり、プライベートの時間を大切にする文化が感じられました。

〇生活
大学の寮に宿泊しました。水回りは2人で共用ですが各自に個室が与えられ、快適に過ごせました。キッチンとランドリーは寮全体で共用です。
小児科、小児外科、一般外科・腫瘍外科がある病院へはバスで、産婦人科がある病院へは徒歩で通いました。雨の日にはバスやトラムが遅れることが多いそうですが、毎日ほぼ時間通りに運行していました。寮から徒歩10分圏内にスーパー、コンビニ、パン屋などが揃っており、また市内にはバスやトラムが張り巡らされているためショッピングセンターにも簡単に行けて、生活に困ることはほとんどありませんでした。
実習は13~14時頃に終わる日が多く、よく市内散策に出かけました。日没が20時頃と遅くずっと明るかったため、治安が良さも相まって街中でも安全に過ごすことができました。市内の中心部にあるお店では店員さんも英語が話せて英語メニューがあることが比較的多かったのですが、英語が全く通じないお店もよくありました。
ポーランド料理は、ピエロギ(餃子のような料理)、コトレト(カツレツ)、プラツキ・ジェムニャチャーネ(ポテトパンケーキ)などを食べ、とても美味しかったです。隣国ウクライナ料理のお店もあり、ボルシチがとても美味しかったです。

〇交流
2日目の夕方に、Dean’s OfficeのMrs. Olena Voznyak、ポメラニアン医科大学の英語コースの学生2人、卒業生2人との食事会があり、3週間を通して皆さんとの交流がありました。皆さんとても親切で、特にMrs. Olena Voznyakには身の回りのサポートをしていただいたほか、シュチェチン湾にも連れて行ってもらいました。学生さんには試験勉強で忙しい中、買い出しや週末のトレッキングなどに、また卒業生には週末に片道4時間半かけてグダニスクまで車で連れて行ってもらいました。グダニスクはポーランド最大の湾岸都市で、グダニスク・グディニャ・ソポトの3つの隣接する湾岸都市はまとめて”Tricity”と呼ばれています。グダニスクは観光客で賑わっており、シュチェチンとは異なる雰囲気を楽しめました。
また、2週目の月曜日にはポメラニアン医科大学を訪れ、大学内にあるMuseum of the History of Medicineを見学しました。電源を使わない視野を測るための器械、シュチェチン初の電子顕微鏡、かつて使われていた硬い産婦人科用の椅子、手作りの人工心肺など、貴重な歴史的物品が所狭しと並べられており、興味深かったです。

〇最後に
募集から採用、そして実際に留学に行って帰ってくるまで、本当にあっという間でした。留学の準備期間がマッチングと重なったこともあり、留学に向けて万全の準備ができたとは言えなかったのは反省点です。しかし、2人で周りに日本人どころかアジア人すらいない環境で3週間も過ごし、異国の価値観や文化に触れることで、自分の殻を一枚破ることができたのではないかと思います。特に、将来海外で働くという選択肢がより現実的なものとして考えられるようになりました。語学力の面では、正直なところ3週間という短い期間では劇的な向上を得ることは難しいですが、リスニングやスピーキングに全力で取り組む経験はとても重要だと実感しました。実習だけでなく観光も楽しむことができ、シュチェチンやポーランドを満喫できたと感じています。これを読んでいる方も、海外に少しでも興味があるなら是非留学に挑戦してみてください。
最後になりますが、旭川医科大学の西川学長、東副学長、本間教授、神田講師、国際企画係の皆さま、そしてポメラニアン医科大学のProf. Sebastian Kwiatkowski、Prof. Maria Giżewska、Dr. Maciej Romanowski、Dr. Kaja Giżewska-Kacprzak、Mrs. Olena Voznyakと本当にたくさんの方にお世話になりました。そして、3週間ともに行動し様々な場面で引っ張ってくれた藤井さんにも感謝しかありません。皆さまにこの場を借りて感謝申し上げます。ありがとうございました。