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研究実績・成果

研究実績・成果

2026年05月08日
研究成果

研究成果の公表 小児科学講座 赤羽 裕一 助教 

MECP2重複症候群の分子病態解明 ― miR-199aに着目した新たな治療戦略の可能性

研究の概要

 MECP2重複症候群(MDS)は、X染色体上に存在するMECP2遺伝子のコピー数増加により生じる先天性の神経発達障害であり、主に男性に発症します。重度の知的障害、てんかん、筋緊張低下、反復性呼吸器感染などを特徴とします。MeCP2は神経細胞において遺伝子発現を広範に制御するエピジェネティック因子であり、その発現量は極めて厳密に調節される必要があります。しかし、コピー数異常に起因する分子病態は十分には解明されていません。本研究では、マウスモデルおよび患者iPS細胞由来神経細胞を用いて解析を行い、microRNAの一種であるmiR-199aがMeCP2の下流で発現上昇していることを明らかにしました。miR-199aはmTORシグナル経路などを介して細胞成長や代謝を調節する分子であり、その機能を抑制することで神経細胞の形態異常の改善が認められました。さらに、患者iPS細胞由来の大脳皮質オルガノイドにおいて神経活動の異常が観察され、miR-199aの抑制によりこれらの異常が部分的に改善することが示されました。MeCP2はその発現量のバランスが極めて重要であるため、直接的に制御する治療法には技術的・安全性の観点から課題が伴います。一方で、下流分子に着目するアプローチは、新たな治療戦略の一つとなる可能性があります。本研究は、MDSの分子病態の理解を深めるとともに、治療法開発に向けた新たな視点を提供するものです。

【用語説明】
エピジェネティック: DNAの配列を変えずに遺伝子発現を調節する仕組み
iPS細胞: 様々な細胞に分化できる人工的な幹細胞
microRNA: タンパク質に翻訳されない短いRNAであり、遺伝子発現を制御する分子
mTORシグナル経路: 細胞の成長や代謝を調整する重要なシグナル経路
オルガノイド: 幹細胞から作られる、臓器の構造や機能を部分的に再現した三次元組織

論文発表の概要

 本研究成果は、2025年11月21日に国際学術誌 iScience にオンライン掲載されました。

【研究に関するお問合せ】

旭川医科大学 小児科学講座 助教 赤羽 裕一