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研究実績・成果

研究実績・成果

2022年12月27日
研究成果

研究成果の公表 病理学講座免疫病理分野 大栗 敬幸 准教授

このたび、本学病理学講座(免疫病理分野) 大栗敬幸准教授の研究論文がUICC(Union for International Cancer Control:国際対がん連合)の機関誌「International Journal of Cancer」のホームページに速報として掲載されました。

抗炎症薬で癌組織内の免疫環境を改善する - 乳酸排出を抑制し、T細胞応答を増強させる -

乳酸排出を抑制し、T 細胞応答を増強させる

2022 年 12 月 10 日、本学病理学講座免疫病理分野の小坂朱講師、大栗敬幸准教授、小林博也教授の研究論文が UICC(Union for International Cancer Control: 国際対がん連合)の機関誌「International Journal of Cancer」のホームページに速報として掲載されました(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ijc.34394)。


本研究は、非ステロイド性消炎鎮痛薬(COX-2 選択的阻害剤)であるセレコキシブが腫瘍組織内の免疫抑制性細胞による乳酸の分泌を抑制することによって、キラーT 細胞の働きを高めることを乳癌マウスモデルを用いて明らかにしたものです。また、免疫を活性化させる化合物 (cGAMP)とセレコキシブの併用治療によって、癌特異的 T 細胞応答をより強く活性化させることも明らかにしています。

論文タイトル

“Celecoxib promotes the efficacy of STING-targeted therapy by increasing antitumor CD8+ T-cell functions via modulating glucose metabolism of CD11b+Ly6G+ cells” (セレコキシブは免疫抑制性好中球のグルコース代謝を変化させて癌特異的キラーT 細胞の増殖を助けることによって、STING 標的治療の抗癌作用を高める。) 

著者

癌の治療法として免疫反応を利用した癌免疫治療法が期待されています。癌免疫治療法の効果的な抗癌作用を得るには、癌組織内に到達した癌特異的キラーT 細胞が機能的に活性化する必要があります。


核酸誘導体の化合物である cGAMP は STING(Stimulator of interferon genes)を介して I 型インターフェロンなどの炎症性サイトカインを誘導し免疫を活性化することが知られており、当研究室では、癌組織にcGAMP を直接投与することによって、癌組織近傍のリンパ節でキラーT 細胞が効果的に分裂・活性化することを明らかにしてきました(参考文献 1)。


しかし、一部の癌組織で見られる骨髄由来免疫抑制性細胞(MDSCs)がキラーT 細胞の機能を阻害し、癌細胞の増殖を助けることが知られています。例えば、MDSCs は T 細胞の栄養源として重要なグルコースを大量に消費するだけではなく、その代謝産物として乳酸を癌組織内に排出します。乳酸はキラーT 細胞の機能を妨げることが報告されており(参考文献2)、癌組織内における乳酸の蓄積は効果的な抗癌作用を得るための大きなハードルとなっています。


シクロオキシゲナーゼ 2(COX-2)は炎症部位で誘導されプロスタグランジン E2 の産生を促し、炎症や疼痛を発生させます。COX-2 選択的阻害剤(セレコキシブ)はこれらの症状を緩和させるために開発された薬剤で、すでに関節リウマチや腱鞘炎などに対して非ステロイド性消炎・鎮痛剤として使用されています。


本研究では、セレコキシブが MDSCs におけるグルコース代謝に関わる遺伝子群の発現を変化させ癌組織内への乳酸の排出量を低減させることを世界で初めて明らかにしました(図)。


このセレコキシブの新たな効能を cGAMP を用いた免疫活性化療法に組み合わせることによって、癌の増殖を効果的に抑制できることを乳癌マウスモデルを用いて明らかにしました。本研究によって癌特異的 T 細胞の働きをサポートするセレコキシブの代謝調節剤としての新たな可能性が示され、今後の応用研究が期待されます。

参考文献

  1. Kosaka A, et al. CD47 blockade enhances the efficacy of intratumoral STING-targeting therapy by activating phagocytes. Journal of Experimental Medicine 2021;218(11):e20200792.
  2. Fischer K, et al. Inhibitory effect of tumor cell-derived lactic acid on human T cells. Blood 2007;109: 3812-9. 

用語解説

骨髄由来免疫抑制性細胞(MDSCs: myeloid-derived suppressor cells)
癌細胞の増殖に伴う炎症反応によって骨髄から癌組織に集積し、癌特異的キラーT 細胞の働きを抑制する細胞群。Ly6G 分子をもつ好中球系の細胞や Ly6C 分子をもつ単球細胞系の細胞に分けられる。

cGAMP: cyclic guanosine monophosphate (GMP)-adenosine monophosphate (AMP)の略。cGAMP は cGAMP 合成酵素(cGAS)によって細胞質内の二本鎖 DNA が感知されると GMP と AMP を基にして合成さ れる。その後、cGAMP は小胞体に局在する STING に結合し種々の転写因子を活性化させ免疫応答を誘導す る。cGAS/cGAMP/STING 経路はウイルスに対する生体防御反応に重要であることが知られていたが、近年 では、癌に対する免疫応答にも重要な役割を担っていることが明らかになってきている。

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お問合せ

研究に関するお問合せ

旭川医科大学 病理学講座(免疫病理分野)
准教授 大栗 敬幸(おおくり たかゆき)

  • TEL:0166-68-2381

本プレスリリースに関するお問合せ

旭川医科大学総務課広報基金係

  • TEL:0166-68-2118