研究実績・成果
研究実績・成果
研究成果の公表 社会医学講座公衆衛生学・疫学分野 吉岡英治 准教授 (9/13英文PR追加)
このたび、本学社会医学講座公衆衛生学・疫学分野 吉岡英治准教授等の研究論文が学術雑誌The Lancet Regional Health-Western Pacificに掲載されました。
新型コロナ感染症の流行により、2020年4月から2021年12月までの期間で、自殺者が増加~自殺者の増加は若い世代や女性でより顕著~
旭川医科大学社会医学講座 吉岡英治 准教授の研究グループは、北海道大学環境健康科学研究教育センターの Sharon Hanley 特任講師と共同で、2021 年 12 月までの期間における、新型コロナ感染症の流行が日本人の自殺率の推移に及ぼす影響を解析し、自殺率が増加したことを明らかにしました。そして特に、女性や若い世代で自殺者の増加は顕著でした。
この研究では、2020 年 4 月から 2021 年 12 月までの期間をパンデミック期間として、この期間における自殺の過剰死亡の推定値を算出しました(過剰死亡とは、もしパンデミックがなければ起こらなかった可能性のある死亡者数を意味しています)。パンデミック期間の日本人の自殺者の総数は男性22304 人、女性 11836 人でしたが、過剰死亡数は男性 1208 人、女性で 1825 人でした。性別年齢別の分析で、特に過剰死亡数が多かったのは、男性の 20-29 歳(自殺者数 2740 人、過剰死亡数 466 人)、40-49 歳(3901 人、423 人)、女性の 30-39 歳(1277 人、421 人)、60-69 歳(1538 人、396 人)、20-29歳(1469 人、352 人)でした。
発表の概要
1.研究の背景
新型コロナ感染症のパンデミックにより、日本を含めたほぼ世界中の人々の日常生活や社会活動が大きく制限されています。そして、このようなパンデミックによる変化が人々のメンタルヘルスに大きな影響を与えており、その結果自殺者数が増加した可能性があります。これまで、日本におけるパンデミック期における自殺者の解析は 2020 年のデータを用いたものに限られていましたが、本研究では 2021 年 12 月までのデータを用いて、自殺率の推移を調べています。
2.研究の成果
この研究では、厚生労働省自殺対策推進室が公表している自殺統計の月別自殺者数データ(暫定値)を用いています。そして、分割時系列解析(Interrupted time series analysis)という解析手法で、パンデミック前(2016 年 1 月から 2020 年 3 月)とパンデミック発生後(2020 年 4 月から 2021 年 12 月)における、自殺率の推移の変化を調べました。解析は、性別、年齢階級別に実施し、パンデミック期間における自殺の過剰死亡の推定値を算出しました(過剰死亡とは、もしパンデミックがなければ起こらなかった可能性のある死亡者数を意味しています)。
主要な解析結果は次ページの表で示しています。パンデミック期間中の自殺による過剰死亡数は、男性で1208 人、女性で 1825 人と推定されました。年齢別の分析では、男性は 20-29 歳と 40-49 歳で、女性は 20-29歳、30-39 歳、60-69 歳で特に過剰死亡が多くみられました。本研究の結果は、COVID-19 のパンデミックは日本の自殺率に大きな影響を与え、その影響は女性と若い年齢層で最も顕著であることを示しています。
3.社会的な意義
日本では、パンデミック発生以降、困窮した人々に対して政府などから様々な支援が行われました。しかしながら、こうした支援が本当に追い詰められた人々にはきちんと届いていない可能性があることを、この研究の結果は示していると考えています。今後、コロナ禍における自殺の調査をさらに進め、適切な支援のあり方などを提言してゆきたいと考えています。
表 2020 年 4 月から 2021 年 12 月までの自殺者数、自殺の過剰死亡数の推定値、過剰死亡数の割合
自殺者数 | 過剰死亡数※ | 割合# | |
---|---|---|---|
男性 | |||
80 歳以上 | 1528 | 148 | 9.70% |
70 から 79 歳 | 1891 | 325 | 17.20% |
60 から 69 歳 | 1538 | 396 | 25.70% |
50 から 59 歳 | 1826 | 322 | 17.60% |
40 から 49 歳 | 1783 | 285 | 16.00% |
30 から 39 歳 | 1277 | 421 | 33.00% |
20 から 29 歳 | 1469 | 352 | 24.00% |
20 歳未満 | 515 | 89 | 17.30% |
全年齢 | 11836 | 1825 | 15.40% |
女性 | |||
80 歳以上 | 2330 | 163 | 7.00% |
70 から 79 歳 | 3068 | 94 | 3.10% |
60 から 69 歳 | 2790 | -49 | -1.80% |
50 から 59 歳 | 3769 | 66 | 1.80% |
40 から 49 歳 | 3901 | 423 | 10.80% |
30 から 39 歳 | 2891 | 76 | 2.60% |
20 から 29 歳 | 2740 | 466 | 17.00% |
20 歳未満 | 744 | 34 | 4.60% |
全年齢 | 22304 | 1208 | 5.40% |
※:もしパンデミックがなければ起こらなかった可能性のある死亡者数の推定値。
#:過剰死亡数を自殺者数で割った値。
論文情報
論文タイトル
Impact of the COVID-19 pandemic on suicide rates in Japan through December 2021: An interrupted time series analysis
掲載誌
The Lancet Regional Health — Western Pacific
論文種別
Original Research
著者
Eiji Yoshioka, Sharon J.B. Hanley, Yukihiro Sato, Yasuaki Saijo
DOI 番号
https://doi.org/10.1016/j.lanwpc.2022.100480
URL
https://www.thelancet.com/journals/lanwpc/article/PIIS2666-6065(22)00095-5/fulltext
お問合せ
研究に関するお問合せ
旭川医科大学社会医学講座公衆衛生学・疫学分野
准教授 吉岡 英治(よしおか えいじ)
- TEL:0166-68-2402
- E-mail:e-yoshi*asahikawa-med.ac.jp
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北海道大学社会共創部広報課広報・渉外担当
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