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研究実績・成果

研究実績・成果

2023年09月13日
研究成果

研究成果の公表 生化学講座 川辺 淳一 教授

このたび、本学生化学講座 川辺淳一教授の研究論文がNature Springer出版社からの科学雑誌Stem Cell Res Therapyに掲載されました。

健康寿命の鍵を握る骨格筋を維持するために!
生命の泉=毛細血管の新しい役割の解明

 超高齢化社会の日本において、日常生活に支障なく健康で人生が送れる「健康寿命」と「平均寿命」とには約10年の隔たりがあります。いかに健康寿命を平均寿命に近づけ、質の高い人生を送るようにするのか、今後の大きな課題です。

 「骨格筋」は体重の半分を占める最大の組織ですが、加齢にともなう骨格筋量や筋力の低下は身体の脆弱化や運動能の低下、糖尿病などの代謝異常、さらに癌も含め全死因の死亡危険率を上げることが知られています。すなわち、骨格筋の量と機能を高く保つことが健康寿命を延ばす条件であることが示唆され、“日常生活の中で、どのように骨格筋量が維持されているのか?”、その機序を明らかにすることが、上記の課題解決のヒントになると考えられます。

 旭川医科大学生化学講座の川辺淳一教授の研究グループ(脈管研究クラスター)は、これまで毛細血管を構成する周細胞(ペリサイト)の中から特別な幹細胞を見出し、組織再生や老化に関する研究をすすめてきました。今回、ペリサイトが筋幹細胞として新しい筋細胞を供給して、恒常状態(日常生活)における骨格筋量の維持に関与することを明らかにしました。本研究は8月17日にNature Springer出版社からの科学雑誌Stem Cell Res Therapyに掲載されました。

 本研究の知見から、毛細血管は、単に血液を運ぶ導管としてだけでなく、新しい筋細胞を生み出す「臓器」として、日常生活における骨格筋の維持に重要であり、ひいては健康長寿のための基盤的な臓器であることが示唆されました。「生命の泉」といえる毛細血管に視点をあてた、加齢に伴う骨格筋萎縮の病態解明や健康長寿をめざす新しい治療開発が期待されます。

 以下のアドレスから論文をご覧できます。
 https://stemcellres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13287-023-03433-1

【研究の背景】

 数多くの研究から健康長寿の人は毛細血管が豊富という共通する身体的特徴があることが示され、よく「老化は血管から」とも言われています。しかし、毛細血管が豊富なのは健康の結果なのか原因なのかは不明です。

 我々は、これまでの研究の中で、毛細血管を構成するペリサイト(注釈)の中に、血管細胞や筋細胞に分化する能力をもつ特殊な細胞の存在を見出してきました。今回、生体内の組織が日常生活の中で正常に維持していく上で、このような再生能を持つ細胞の役割を明らかにしようと検証しました。

【研究成果の概要】

 本研究の検証のために、まず、マウス生体内の毛細血管ペリサイトを蛍光標識すると、仮に別の種類の細胞に変化・分化しても蛍光によって追跡することができる「ペリサイト追跡マウス」を用いました。 同マウスの成体時点でペリサイトを標識した後に通常飼育すると、ペリサイトが骨格筋、特に「遅筋」群に非常に高い頻度で分化することが判明しました。次に、生体内のペリサイトを死滅誘導することができる「ペリサイト死滅マウス」を用いて、別視点での検証実験をしました。同成体マウスのある時点でペリサイトを死滅誘導させ通常飼育すると、「遅筋」選択的に骨格筋が萎縮することが確認できました。これらのことから、日常生活の中で毛細血管ペリサイトが絶えず新しい筋芽細胞を骨格筋組織に供給しながら筋量が維持されていることが明らかになりました。

 ちなみに骨格筋には速筋と遅筋の二種類があり、速筋は瞬時に大きな力を発揮できますが、収縮性を持続しづらく疲れやすい特徴があります。一方、遅筋は、収縮スピードが遅く瞬時に大きな力を発揮できませんが、酸素や糖・脂質を利用し多くのエネルギーを産生し、疲れることなく長時間にわたって繰返し収縮することができる特徴があり、基盤的な生命活動に関わる姿勢保持筋や呼吸筋などに多く分布しています。また、インスリンによる血糖低下作用にも糖代謝が高い「遅筋」が深く関わり、インスリン作用が低下する糖尿病病態と遅筋量減少との関係も報告されています。国民病ともいえる糖尿病も健康長寿を妨げる大きなリスク疾患ですから、骨格筋の中でも「遅筋」量維持に関わるペリサイトは、新しい糖尿病治療標的としても魅力的です。

【まとめ】

 今後、血液の導管として体中の細胞に栄養や酸素を供給すると共に、健康寿命の鍵となる骨格筋細胞を創み出す「毛細血管」研究を進め、“健康寿命を延ばし、質の高い人生を送る”という重要な課題の解決に近づけたいと考えています。

注釈)毛細血管は髪毛の1/3程度の大きさですが、体中に張り巡らされ、長さでいうと全脈管の9割以上を占める「最大の臓器」ともいえます。毛細血管は内皮の管の周囲に周細胞(ペリサイト)が覆う構造をしています。 ペリサイトは、毛細血管の壁の補強や血管径を変えて循環量を調節する細胞として認識されていましたが、最近、ペリサイトの一部に様々な細胞に分化する幹細胞の存在が報告され注目されています。 

論文情報

論文名; NG2-positive pericytes regulate homeostatic maintenance of slow-type skeletal muscle with rapid myonuclear turnover. 
掲載紙; 
著 者;Takamitsu Tatsukawa , Kohei KanoKei-Ichi NakajimaTakashi Yazawa , Ryoji EguchiMaki KabaraKiwamu HoriuchiTaiki Hayasaka , Risa MatsuoNaoyuki Hasebe , Nobuyoshi AzumaJun-Ichi Kawabe 
DOI;10.1186/s13287-023-03433-1

URL;https://stemcellres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13287-023-03433-1

本研究に関連する受賞等

第31回 日本老年学会総会 優秀ポスター賞 (内田紗瑛子、鹿野耕平)
第30回 日本血管生物医学会総会 優秀賞 (竜川貴光)

研究活動体制および研究資金

本研究は、講座や専門領域の枠を超えた「脈管研究クラスター」(生化学、循環内科、血管外科、腎臓内科、神経内科、皮膚科講座など)の一連の活動の成果です。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業」(基盤B17H04170、萌芽研究17K19368、基盤C22K07018 研究代表者:川辺淳一、若手研究19K16969、22K15723 研究代表者:鹿野耕平)の支援を受けて実施しました。

HP掲載図.jpg

【研究に関するお問合せ】

旭川医科大学生化学講座教授 川辺 淳一
TEL:0166-68-2352

【本プレスリリースに関するお問合せ】

旭川医科大学総務課広報基金係
TEL:0166-68-2118