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研究実績・成果

研究実績・成果

2023年06月01日
研究成果

研究成果の公表 生理学講座(自律機能分野)入部 玄太郎 教授

このたび、本学生理学講座(自律機能分野) 入部玄太郎教授の研究論文がイギリスの科学雑誌「The Journal of Physiology」のオンラインサイトに掲載されました。

心負荷時に産生される活性酸素種の生理的な役割を解明!~心不全病態解明の新たな切り口~

旭川医科大学生理学講座自律機能分野の入部玄太郎教授と岡山大学学術研究院医歯薬学域システム生理学の成瀬恵治教授、同・貝原恵子技術専門職員の共同研究グループは、心筋に伸展負荷を与えたときに産生される活性酸素種が負荷に対抗して心筋の収縮力を増加させる働きがあることを明らかにしました。本研究成果は 4 月 14 日にイギリスの科学雑誌「The Journal of Physiology」のオンラインサイトに掲載されました。


心臓における過剰な活性酸素種(酸化ストレス)は心不全の増悪因子として知られています。一方で微量の活性酸素種は生体に必要な生理活性物質なのですが、その心臓における役割はよくわかっていませんでした。今回の発見は、これまで心臓においては悪名高かった活性酸素種が、実は常に変動する心臓の負荷に直ちに対応して適正な血液を拍出するために必要な縁の下の力持ちであったことを示しています。


本研究成果は、心不全の酸化ストレスの成り立ちについても新たな知見を与えるものと考えられ、心不全病態の新たな側面の理解につながることが期待されます。

以下のアドレスから、論文をご覧いただけます。
https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/JP284283

ポイント

  • 心負荷時に産生される活性酸素種の生理的な役割を明らかにしました。
  • 心負荷時に産生される活性酸素種は心臓の収縮力を上げ、負荷下で必要な血液の拍出を維持するために必要なものであることがわかりました。
  • 過剰な活性酸素種は心不全を増悪させる酸化ストレスでもありますが、生理的に必要な活性酸素種の研究が進むことで心不全病態の新たな側面の理解につながることが期待されます。

発表内容

<現状>
心筋細胞に伸展刺激を加えると、細胞膜上の NADPH オキシダーゼ 2(NOX2)から直ちに活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)が産生されることが報告されています。心筋の収縮にはカルシウムが必要ですが、この伸展誘発性 ROS は心筋細胞内のカルシウム貯蔵庫である筋小胞体からのカルシウム放出チャネルであるリアノジン受容体機能に影響を与えることが分かっています。しかし、実際の心筋収縮・弛緩の過程にどのような影響があるかは分かっていませんでした。


<研究成果の内容>
旭川医科大学生理学講座自律機能分野の入部玄太郎教授と岡山大学学術研究院医歯薬学域システム生理学の成瀬恵治教授、同・貝原恵子技術専門職員の共同研究グループは、心筋細胞の両端を掴んで引っ張る、という特殊な細胞操作技術を用いて心筋細胞に一時的な伸展刺激を加え、その時の収縮性などの力学特性及び細胞内カルシウム濃度の変化を詳細に検討しました。その結果、遺伝子レベルで NOX2 を持たないマウス(NOX2 欠損マウス)は通常のマウスに比べて細胞伸展時の収縮性が低いことがわかりました。また、NOX2 欠損マウスでは心筋細胞が伸展された状態で収縮させると、細胞内カルシウム濃度の上昇速度が遅く、これが原因でNOX2 欠損マウスでは収縮性が落ちるのではないかと考えました。


これを確認するために、コンピューターシミュレーション用の心筋細胞数理モデルに活性酸素種がリアノジン受容体の活性化に及ぼす影響を組み込み、細胞実験と同様のシミュレーション実験をコンピュータ上で行いました。すると実際の細胞実験とほぼ同じ結果が再現できたことから、伸展誘発性活性酸素種はリアノジン受容体の活性化速度を上げることで伸展時の心筋の収縮性を維持しているのだと考えられました。今回の結果は、心筋伸展時に NOX2 から産生される活性酸素種は、一時的な伸展負荷に対抗して心筋収縮をサポートするという、生物が生きていくうえで合目的な作用を持っていることを示しています。


<社会的な意義>
通常、過剰な活性酸素種は酸化ストレスとして心不全の増悪因子であり、心不全治療の対象とされます。しかし生理的に必要な活性酸素種の働きを解明した私たちの研究成果は、心不全病態の新たな側面を明らかにし、心不全治療における酸化ストレスの扱い方に新しい視点をもたらす可能性があります。

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研究者から一言

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入部教授
 心臓研究の分野では活性酸素種はほとんどの場合悪者扱いで、あの手この手で袋叩き状態です。生物の進化上、悪いことしかしないヤツは体の中にはいないはずですので、少し活性酸素種のことを不憫に思っていました。なので、今回の活性酸素種の働きを発見したときは、普段は悪さばかりする不良生徒がバスでお年寄りに席を譲ったのを見たときのようなほっこりした気分になりました。

論文情報

論 文 名:Stretch-induced reactive oxygen species contribute to the Frank–Starling mechanism
掲 載 紙:The Journal of Physiology
著 者:Keiko Kaihara, Hiroaki Kai, Yumiko Chiba, Keiji Naruse, Gentaro Iribe
D O I:https://doi.org/10.1113/JP284283
U R L:https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/JP284283

研究資金

本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業」(基盤 B・26282121,基盤C・21K12640,研究代表:入部玄太郎、基盤 A・21H04960,研究代表:成瀬恵治、研究活動スタート支援・21K20886,若手研究・22K16125,研究代表:千葉弓子、基盤 C・17K01359,20K12598,研究代表:貝原恵子)の支援を受けて実施しました。

お問合せ

研究に関するお問合せ

旭川医科大学 生理学講座(自律機能分野)
教授 入部 玄太郎(いりべ げんたろう)

  • TEL:0166-68-2332
  • E-mail:iribe*asahikawa-med.ac.jp

岡山大学 学術研究院医歯薬学域システム生理学
教授 成瀬 恵治(なるせ けいじ)

  • TEL:086-235-7112
  • E-mail:knaruse*md.okayama-u.ac.jp

迷惑メール防止のため「@」を「*」に変えています。

本プレスリリースに関するお問合せ

旭川医科大学総務課広報基金係

  • TEL:0166-68-2118


岡山大学総務・企画部広報課

  • TEL:086-251-7292