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研究実績・成果

研究実績・成果

2023年03月14日
研究成果

研究成果の公表 小児科学講座 高橋 悟 教授

このたび、本学小児科学講座 高橋悟教授の研究論文がFrontiers in Cell and Developmental Biology誌にオンライン掲載されました。

動物種特異的非翻訳RNA・miR-514aの神経発達促進作用の発見
―ヒト iPS 細胞由来神経細胞を用いた解析―

旭川医科大学小児科学講座の赤羽裕一大学院生、高橋悟教授、名古屋大学大学院理学研究科の辻村啓太特任講師、大阪大学高等共創研究院の鈴木啓一郎特命教授、慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センターの小崎健次郎教授らの研究グループは、ヒトiPS細胞由来神経細胞をモデルとしてmiR-514aが神経発達促進作用を持つことを発見しました。miR-514aはこれまでにいくつかの癌で機能解析が行われていましたが、中枢神経系における役割は未解明のままでした。研究グループはmiR-514aが高度な知能や社会性を有する動物において保存され、ヒトやチンパンジーでコピー数が特に増加していることに着目し、複数系統のヒトiPS細胞由来神経細胞を用いてmiR-514aが神経細胞の神経突起形成やmTORシグナル 注1)活性を亢進させることを見出しました。さらにmiR514a配列の種間比較を行い、進化の過程で保存された領域の配列変化が成熟型miR-514aの発現量の増減に寄与することを示しました。これらの結果はmiR-514aが神経発達・高次脳機能発現に重要な役割を持つことを示唆しており、今後のマイクロRNA 注2)を基盤とした神経発達症の病態解明や治療法開発に大きく貢献することが期待されます。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「microRNA 病態に基づいたレット症候群の治療薬開発」(研究開発代表者 辻村啓太先生)、「長鎖・短鎖シーケンシング技術の統合による構造変異の検出と非翻訳領域情報を駆使した未診断症例の解決」(研究開発代表者 小崎健次郎先生)等の支援のもとで行われたものであり、本研究成果は、2023年2月7日公開の Frontiers in Cell and Developmental Biology 誌にオンライン掲載されました。

ポイント

  • 知的機能が高度に発達している動物で保存されているマイクロRNA の一つmiR-514aの神経発達促進作用を発見した。
  • miR-514aの機能阻害は神経発達を抑制することを見出した。
  • miR-514aが進化の過程における高次脳機能発現に重要な役割を果たす可能性を示唆した。

研究の背景

タンパク質をコードしない非翻訳RNAの一種であるマイクロRNA(miRNA)は特定の遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)に相補的に結合し、遺伝子発現を調節することで様々な生物学的プロセスに関与しています。近年miRNA研究は脳神経領域においても盛んに行われ、miRNAが様々な神経疾患の病態に関与することが示唆されています。miR-514aは知的機能が高度に発達した動物で保存されているmiRNAであり、霊長類、特にヒトやチンパンジーにおいてコピー数の重複が確認されています。しかし、miR-514aの中枢神経系における機能は未解明でした。そこで研究グループはmiR-514aの神経細胞における機能解析を行いました。

研究の成果

miR-514はマウスなどの齧歯類ゲノムに存在しないことや高度な知能や社会性を有するヒトやチンパンジーにおいてコピー数が特に増加していることから、複数系統の健常者由来ヒトiPS細胞を神経細胞に分化誘導し、機能解析に用いました。miR-514aの過剰発現はiPS細胞から神経細胞への分化を促進し、神経突起形成・細胞体サイズ・mTORシグナル活性を亢進させることを発見しました(図1)。逆にmiR-514aの機能を阻害すると、これらの効果は消失し、神経発達は抑制されることを確認しました。さらに霊長類の進化の過程で保存された領域の変異体を用いた実験では、miR-514aの配列変化が成熟型miRNAの発現を減少させることも見出しました。これらの結果は、miR-514aが神経細胞の発達に重要な役割を持ち、高次脳機能の発現に関与していることを示唆しています。

miR-514a の神経発達促進効果

図1 miR-514a の神経発達促進効果.ヒトiPS細胞由来神経細胞に miR-514a を過剰発現させると神経突起伸長が促進される(右)。

概要図

概要図イメージ

今後への期待

神経発達症を呈する未診断疾患では、タンパク質をコードする遺伝子の網羅的解析(全エクソーム解析)を行っても病因遺伝子が同定される割合は半数以下にとどまっています。今回の研究成果は、神経発達症の病態にタンパク質をコードしない非翻訳RNAであるmiRNAが関与している可能性を示すものであり、その病態解明や治療法開発に向けてはmiRNAを標的とする新しい展開が期待されます。

用語説明

注1) mTORシグナル:
哺乳類などの細胞内シグナル経路の一つで、細胞成長・増殖において中心的な役割を担う。癌、
代謝性疾患、老化等の他に脳形態や脳機能にも重要な役割を持つ。

注2) マイクロRNA(miRNA):
18から22塩基ほどの短い1本鎖RNAでタンパク質をコードしない非翻訳RNAの1つである。
ヒトでは約2700種が確認されており、相補的配列をもつメッセンジャーRNAに結合し、遺伝子の発現を抑制的に調節している。 

論文情報

掲載誌:Frontiers in Cell and Developmental Biology(生命科学の国際専門誌)

論文名:miR-514a promotes neuronal development in human iPSC-derived neurons(miR-514aはヒトiPS細胞由来神経細胞においてその神経発達を促進する)

著者:赤羽裕一1,2,高橋悟1,鈴木啓一郎3, 小崎健次郎4, 辻村啓太21旭川医科大学,2名古屋大学,3大阪大学,4慶應義塾大学)

DOI:10.3389/fcell.2023.1096463

公表日:2023年2月7日

お問合せ

研究に関するお問合せ

旭川医科大学 小児科学講座
教授 高橋 悟(たかはし さとる)

  • TEL:0166-68-2481
  • E-mail satoru5p*asahikawa-med.ac.jp
    迷惑メール防止のため「@」を「*」に変えています。

本プレスリリースに関するお問合せ

旭川医科大学総務課広報基金係 

  • TEL:0166-68-2118