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研究実績・成果

研究実績・成果

2021年10月19日
研究成果

研究成果の公表 病理学講座(免疫病理分野)大栗 敬幸 准教授

2021年9月24日、本学病理学講座免疫病理分野の小坂朱講師、大栗敬幸准教授、小林博也教授の研究論文が Rockefeller University Press 社の科学雑誌 Journal of Experimental Medicine (https://rupress.org/jem)のホームページに速報として掲載されました。正式には 11 月号に掲載される予定です。
本研究は、癌細胞の免疫逃避機構の抑制と免疫系の活性化を組み合わせた新しい癌免疫治療法の有効性を乳癌マウスモデルを用いて明らかにしたもので、北海道大学遺伝子病制御研究所の北村秀光准教授との共同研究として行われました。

癌の免疫逃避を打破する治療法の開発:抗原提示細胞に癌細胞をたくさん食べてもらう

論文タイトル

“CD47 blockade enhances the efficacy of intratumoral STING-targeting therapy by activating phagocytes”
(CD47の貪食抑制機構を阻害し貪食細胞を活性化させることでSTING活性化療法の治療効果を促進することができる) 

著者

Akemi Kosaka, Kei Ishibashi, Toshihiro Nagato, Hidemitsu Kitamura, Yukio Fujiwara, Syunsuke Yasuda, Marino Nagata, Shohei Harabuchi, Ryusuke Hayashi, Yuki Yajima, Kenzo Ohara, Takumi Kumai, Naoko Aoki, Yoshihiro Komohara, Kensuke Oikawa, Yasuaki Harabuchi, Masahiro Kitada, Hiroya Kobayashi, and Takayuki Ohkuri

研究成果の背景とポイント

癌の治療法として免疫反応を利用した癌免疫治療法が期待されています。癌細胞に対する免疫応答を誘導するには抗原提示細胞が癌細胞の情報をT細胞に効率よく伝える必要があります。これは、抗原提示細胞が癌細胞を食べ(貪食し)、消化し、癌細胞の一部をペプチド断片としてアンテナ(主要組織適合抗原:MHC)に提示し、T細胞を活性化させることを意味しています(図1)。

図1
図1

しかし、癌組織は癌細胞から産生される因子などで免疫抑制環境になっている場合が多く、免疫抑制環境に長くさらされた抗原提示細胞は貪食能が低下しています。さらに、癌細胞自身が抗原提示細胞の貪食機能を直接抑える分子(CD47)を過剰に発現することで、抗原提示細胞に貪食されないように防御すること(癌細胞の貪食抑制機構)が知られています(図2)。

図2
図2

つまり、癌組織内の免疫抑制環境下では、抗原提示細胞は癌細胞の情報をT細胞に十分に伝達できず、癌細胞に対する免疫応答を誘導できなくなっています。

核酸誘導体であるcGAMPはSTING(Stimulator of interferon genes)を介してI型インターフェロンなどの炎症性サイトカインを誘導し免疫を活性化することが知られています。当研究室では、これまでに癌組織にcGAMPを直接投与することによって、活性化マクロファージ(抗原提示細胞)がSTING依存的に癌組織内に浸潤することを明らかにしてきました。

本研究では、この知見を応用して、癌細胞の免疫逃避を打破するために、「免疫活性化剤(cGAMP)」と「CD47を抑える抗体(抗CD47抗体)」を癌組織に同時に投与し、貪食能を保持した抗原提示細胞を末梢から癌組織に呼び寄せ、かつ、癌細胞の貪食抑制機構を抑えることで、抗原提示細胞に癌細胞を効率的に貪食させその情報をT細胞に伝えてもらい癌特異的免疫応答を効果的に誘導することを狙いとし(図3)、乳癌マウスモデルを用いてその併用治療法の有効性を明らかにしました。また、本研究では乳癌組織におけるCD47の発現が高い患者さんの生命予後が悪いことも明らかにしており、癌細胞の貪食抑制機構を標的とした癌免疫治療法の臨床応用が期待されます。

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用語解説

主要組織適合抗原(MHC): 細胞内で合成されたタンパク質由来のペプチド断片は主にMHCクラスIに、細胞外から貪食などを介して取り込んだタンパク質由来のペプチドはMHCクラスIIに提示され、それぞれCD8陽性キラーT細胞やCD4陽性ヘルパーT細胞にタンパク質の情報が提示される。T細胞は提示されたペプチド断片のアミノ酸配列の質によってその細胞が自己・非自己かを認識する。癌細胞は変異タンパク質を、ウイルス感染細胞はウイルス由来タンパク質をそれぞれ合成し、正常細胞とは質の異なるペプチド断片をMHCに提示する。T細胞はそのような細胞を非自己と認識し排除することで、生体の恒常性を保つことができる。

cGAMP:cyclic guanosine monophosphate (GMP)-adenosine monophosphate (AMP)の略。cGAMPはcGAMP合成酵素(cGAS)によって細胞質内の二本鎖DNAが感知されるとGMPとAMPを基にして合成される。その後、cGAMPは小胞体に局在するSTINGに結合し種々の転写因子を活性化させ免疫応答を誘導する。cGAS/cGAMP/STING経路はウイルスに対する生体防御反応に重要であることが知られていたが、近年では、癌に対する免疫応答にも重要な役割を担っていることが明らかになってきている。

お問合せ

研究に関するお問合せ

旭川医科大学 病理学講座(免疫病理分野)
准教授 大栗 敬幸(おおくり たかゆき)

  • TEL:0166-68-2381


北海道大学遺伝子病制御研究所
准教授 北村 秀光(きたむら ひでみつ)

  • TEL:011-706-5520 

本プレスリリースに関するお問合せ

旭川医科大学総務課広報基金係

  • TEL:0166-68-2118