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研究実績・成果

研究実績・成果

2022年03月11日
研究成果

研究成果の公表 薬剤部副部長 中馬 真幸 講師

このたび、当院薬剤部副部長 中馬真幸講師等の研究論文が米国感染症学会の機関誌Clinical Infectious Diseases (CID)誌に掲載されました。

ダプトマイシンとスタチンの併用で横紋筋融解症のリスク上昇 ―併用時の副作用リスク上昇をメタ解析と医療ビッグデータ解析を組み合わせた手法で解明―

旭川医科大学病院薬剤部の中馬真幸講師、田﨑嘉一教授、徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床薬理学分野の石澤啓介教授、徳島大学病院薬剤部の中本亜樹氏らの研究グループは、ダプトマイシンとスタチンの併用で筋障害の発症リスクが上昇することを明らかにしました。
ダプトマイシンとスタチンは、いずれも筋障害の副作用を起こすことが知られており、まれに筋障害の中でも重篤で致死率の高い横紋筋融解症を発症します。しかし、両剤の併用によって筋障害リスクが上昇するか否かは明らかになっておらず、臨床現場で問題になっていました。
本研究では、メタ解析と医療ビッグデータを組み合わせた手法を用いて、スタチン併用がダプトマイシンによる横紋筋融解症のリスクを上げることを解明しました。この研究成果は、日本時間3月10日付で、米国感染症学会の機関誌Clinical Infectious Diseases (CID)誌に掲載されました。

研究の背景

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症は、薬剤耐性菌による代表的な感染症で、標準治療薬であるダプトマイシン(DAP)が用いられます。DAPを投与すると、しばしば筋障害の副作用を発症し、その中でも特に重篤で致死率の高い横紋筋融解症をまれに発症します。横紋筋融解症を誘発する薬剤として、高脂血症治療薬のスタチンがよく知られていますが、両剤を併用した際に生じる筋障害発症への影響は明らかにされていませんでした。そのため、DAPによる筋障害とスタチン併用との関連を解明することが研究課題となりました。
本研究課題は、複数の臨床研究を統合して解析するメタ解析と膨大な臨床情報が蓄積されている医療ビッグデータとの融合に着目しました。メタ解析は、複数の研究結果を統合するため、臨床研究の対象となった集団に対して信頼性の高い結果を得ることができます。一方、医療ビッグデータは、多様な患者層および広範囲の観察地域を網羅しており、対象集団自体が広いのが特徴です。これら2つの手法の利点を融合することによって、広く一般に適応できる、より確かな結論を導き出すことが期待されます。臨床研究によって信頼性の高い結論を得るには、治療ごとに対象者をランダムにグループ分けするランダム化比較試験(RCT)の実施が一般的です。しかし、薬剤の併用は、必要な治療の結果として生じているため、試験的にグループ分けするRCTの実施は困難です。したがって、メタ解析と医療ビッグデータを融合した解析は、薬剤併用による影響を明らかにするために、大変有用であるといえます。
本研究では、メタ解析と医療ビッグデータを融合した解析により、ダプトマイシン関連筋障害に対するスタチン併用の影響を評価しました。

研究の成果

メタ解析によってDAPが投与された4,548症例を解析した結果、スタチンの投与により横紋筋融解症の発症率は上昇することがわかりました。続いて米国FDA(Food and Drug Administration)が公開している世界最大規模の副作用自発報告データベース(FAERS: FDA Adverse Event Reporting System)から、約1,400万件の副作用報告を抽出し、そのうち5,903件のDAP投与症例を解析しました。
その結果、横紋筋融解症の報告症例は、スタチンの投与で有意に増加しました。2つの手法を用いた解析から、スタチンを併用すると、ダプトマイシンによる横紋筋融解症の発症リスクが上昇することが明らかとなりました。

本研究で明らかにしたダプトマイシン関連横紋融解症に対するスタチンの影響

図:本研究で明らかにしたダプトマイシン関連横紋融解症に対するスタチンの影響

社会的な意義

近年、薬剤耐性菌の蔓延は、世界的にも大きな社会問題になっており、既存の抗菌薬を適切に活用することが求められています。MRSA感染症は最も発症症例数の多い薬剤耐性菌感染症の1つであり、本研究の知見をMRSA感染治療薬の選択や副作用モニタリングに活用することにより、適切な抗菌薬治療に寄与することが期待されます。また、本研究で用いたメタ解析と医療ビッグデータを融合した解析は、薬剤併用による副作用や効果に対する分析手法として広く応用可能と考えられます。

用語解説

ダプトマイシン:代表的な薬剤耐性菌MRSAによる感染症の標準治療薬です。MRSAの治療ガイドラインにおいても多くの感染症で、第一選択薬となっています。筋障害は、その特徴的な有害事象で、臨床現場では適切な管理が求められています。

横紋筋融解症:骨格筋細胞が融解、壊死することにより筋肉の痛みや脱力などが生じる病態をいいます。有害事象として起こる頻度は低いですが、致死率が高く危険な病態です。

スタチン:高脂血症に対する標準治療薬です。横紋筋融解症を発症する代表的な原因薬剤の1つです。

論文情報

論文名:Association between statin use and daptomycin-related musculoskeletal adverse events: A mixed approach combining a meta-analysis and a disproportionality analysis

掲載誌:Clinical Infectious Diseases

論文種別:Major Article

著者:Masayuki Chuma, Aki Nakamoto, Takashi Bando, Takahiro Niimura, Yutaka Kondo, Hirofumi Hamano, Naoto Okada, Mizuho Asada, Yoshito Zamami, Kenshi Takechi, Mitsuhiro Goda, Koji Miyata, Kenta Yagi, Toshihiko Yoshioka, Yuki Izawa-Ishizawa, Hiroaki Yanagawa, Yoshikazu Tasaki, Keisuke Ishizawa

お問合せ

内容に関するお問合せ

旭川医科大学病院薬剤部
講師 中馬 真幸(ちゅうま まさゆき)

  • TEL:0166-69-3482

徳島大学大学院医歯薬学研究部
教授 石澤 啓介(いしざわ けいすけ)

  • TEL:088-633-7471 

本プレスリリースに関するお問合せ

旭川医科大学総務課広報基金係

  • TEL:0166-68-2118

徳島大学蔵本事務部医学部総務課総務係

  • TEL:088-633-9116