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研究実績・成果

研究実績・成果

2022年08月19日
研究成果

共同研究成果の公表 生化学講座 矢澤 隆志 講師

このたび、本学生化学講座 矢澤 隆志 講師が共同研究者として参画した研究成果が「Frontiers in Endocrinology」に掲載されました。

酸化ストレスはメダカの雄化を引き起こす~性決定の新たなメカニズムを発見~!

ポイント

  • 酸化ストレス*1は、コルチゾル*2量が上昇しなくてもメダカの雄化を引き起こすことを発見しました。
  • 脂肪酸を内因性リガンドとする核内受容体PPARα*3のノックアウトメダカでは、酸化ストレスによる雄化は引き起こされませんでした。
  • 今回の分子機構の発見は新たな性統御技術の開発につながることが期待されます。

概要説明

熊本大学大学院先端科学研究部の北野健教授らの研究グループは、旭川医科大学生化学講座の矢澤隆志講師との共同研究により、酸化ストレスがメダカの雄化を引き起こすことを発見しました。本研究の成果は、令和4年6月16日に「Frontiers in Endocrinology」に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて実施したものです。

説明

我々ヒトを含む哺乳類は性染色体の組み合わせによるXX/XY 型の性決定様式をもち、性別が遺伝子によって決定される一方で、魚類、両生類、爬虫類等では温度に左右される性決定(温度依存的性決定)現象が知られています。


メダカ(Oryzias latipes)は、哺乳類と同じXX/XY 型の性決定様式を持ち、XY個体は雄へ、YをもたないXX個体は雌へと分化します。一方、メダカを性分化時期に32〜34℃の高水温ストレス下で飼育すると、XX個体が雄へと性転換することが知られています。北野教授らの研究グループは、これまでの研究において、高温により誘導されるストレスホルモン(コルチゾル)が生殖腺に直 接作 用 し て 雄化 を 引き 起 こ す こと 、 この 下 流 シ グナ ル とし て 核 内 受容体PPARαの活性化が関与することを証明しています*4。しかしながら、高温ストレスにより全ての個体が雄化するわけではなく、コルチゾルによる雄化機構の全貌はわかっていませんでした。


本研究では、以前のRNAシークエンシング(RNA-seq)解析において、高温や コルチゾルにより抗酸化酵素遺伝子等の発現量が変動していたため、メダカ 仔魚に酸化ストレスを与える実験を行いました。その結果、XXメダカは高温 ストレスやコルチゾル量の上昇がなくても雄化することがわかりました。さ らに、PPARαの機能をなくしたノックアウトメダカに酸化ストレスを与えた ところ、全く雄化しませんでした。これらのことから、雄化には酸化ストレ スによるPPARαの活性化が重要で、酸化ストレスは、高温ストレスやコルチ ゾルシグナルの下流ではたらき、PPARαを介してXXメダカの雄化を誘導する と考えられました(図)。

ヒラメやウナギ等の魚類養殖では、雄よりも雌の成長が速い等の理由によ り、雌だけを作る全雌生産の技術開発が求められています。本研究により、 ストレスによる雄化を誘導する分子機構が明らかになったことから、今後は この機構を利用した新たな性統御技術の開発が期待されます。

用語解説

  1. 酸化ストレス:酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ、酸化反応が生体に対して悪影響を及ぼしている状態。酸化ストレスはがん等の様々な疾患を引き起こすことも知られている。
  2. コルチゾル:ヒトや魚類において、高温ストレス等により分泌量が増加するステロイドホルモン。
  3. PPARα(peroxisome proliferator-activated receptor alpha):主に脂質代謝に関連する種々の遺伝子の発現を制御する 核内受容体。最近では、脂質代謝異常を基盤に発症する生活習慣病に対する医薬品創製の分子ターゲットとして注目されている。
  4. Hayashi et al.,2010; Kitano et al.,2012; Hara et al.,2020

論文情報

論文名:Oxidative stress causes masculinization of genetically female medaka without elevating cortisol.


著者: Koki Mukai,Seiji Hara,Konosuke,Sakima,Ryo Nozu,Takashi Yazawa & Takeshi Kitano(責任著者)


掲載誌:Frontiers in Endocrinology 13, 878286 (2022).
URL:https://doi.org/10.3389/fendo.2022.878286

お問合せ

研究に関すること

熊本大学大学院先端科学研究部
担当:教授 北野 健

  • 電話:096-342-3031
  • e-mail:tkitano*kumamoto-u.ac.jp
    迷惑メール防止のため「@」を「*」に変えています。

報道に関すること

熊本大学総務部総務課広報戦略室

  • 電話:096-342-3269
  • e-mail:sos-koho*jimu.kumamoto-u.ac.jp
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旭川医科大学総務課広報基金係

  • 電話:0166-68-2118
  • e-mail:kouhou*asahikawa-med.ac.jp
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