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“心臓血管外科”という診療科単位が日本では一般的ですが、”血管外科”は欧米先進国では独立した診療科であり、競争が激しくステイタスの高い診療科目の1つです。旭川医科大学第一外科2代目教授久保良彦、3代目教授笹嶋唯博らが日本の血管外科を発展させ、現在では日本屈指の血管外科手術数と内容を誇る講座に成長しました。特に閉塞性動脈硬化症に対する末梢バイパス術は学会等でも高く評価されており、糖尿病・透析を合併した重症虚血肢の救肢のために全国各地から患者さんが入院されます。また、その治療法を学ぶために日本のみならずアジア諸国の医師が研修に来ています。重症虚血肢に対する教室の治療方針は、下腿動脈領域病変に対しては”open first”でバイパス手術を行い、組織欠損が大きい場合には遊離筋皮弁移植も当科で行っています。また、フットケアチームによる術後管理も進歩し専門看護師の研修の場にもなっています。一方、腸骨・大腿動脈領域病変に対する血管内治療、動脈瘤に対するステントグラフト治療も最新のハイブリッド手術室(Zeego)を利用し年々増加しています。ステントグラフト年間手術数は腹部大動脈瘤50例、胸部大動脈瘤40例を施行し、血管外科スタッフは全員カテーテル治療に精通しステントグラフト指導医を取得しています。当科ではOpen surgeryとEndovascular surgeryの両方に明るく的確な治療手段を選択・実施可能な血管外科医の育成を目標としています。
血管外科基本から応用の習得まで、幅広く研修を希望される医師を受け入れておりますので、ご希望の方はどうぞご一報下さい。
当科で実習可能な血管疾患は、胸部・腹部大動脈瘤、慢性動脈閉塞疾患(閉塞性動脈硬化症、バージャー病、膠原病関連動脈閉塞症)、急性動脈閉塞症、下肢静脈瘤、深部静脈血栓症、リンパ浮腫など幅広く学ぶことが可能です。同時に、全身動脈硬化症を有したハイリスク患者の術前・術後管理についても学ぶことができますので、初期研修医のベッドサイド管理の実力アップには最適です。
ここでは、
①血管外科学とはどんな学問なのか?
②血管外科研修にはどんな魅力があるのか?
③どんな人に血管外科研修のメリットがあるのか?
④どんな手術を経験できるのか?
難易度別手術実績などが載っております。技術とともに、血管外科的な考え方を学んでみませんか?
血管外科の魅力は、
①血管の剥離・露出・修復などの外科医のスキルアップに直結する手技や考え方を修得できること、
②診断から治療まで一貫して診ることができること、
③匠の技とともに、最新の血管内治療の両者を修得できること、
④再建外科であり、劇的に患者様の機能予後や生命予後を改善できる可能性があること、
⑤全身管理ができ、全身の血管の診断治療に携われること、
⑥生活習慣病が国民病となり、超高齢化社会を迎える今、大きく発展している領域であることなど、多くの魅力をもった学問であります。
血管外科医を極めたい方にはもちろん、血管もしっかりとした教育を受けたい心臓外科志望の方や、外科系の医師で血管処理を修得して外科医としてのスキルアップを目指したい方に、それぞれの目的や目標に対応した研修プログラムを提供できるようご相談をお受けいたしますので、是非、お気軽に相談ください(相談先はこのページの最後をご覧ください)。
症例数が多く、中でも特に難易度の高い手術の件数が多いこと、かつ、スタッフが少人数であることから、難易度の高い手術にも参加していただくことが可能です(年間経験手術種別や難易度別手術件数はこちらから)。また、血管外科手術は、血管縫合などの手術操作が複数個所にまたがることが多いため、修練の早い段階から複数ある縫合個所の一部を実践していただきながら技術を磨き、次第に難しい吻合や難しい症例を担当していただくという順序で修練が進んでゆきます。また、当科では、open surgeryの技に加えて、最新のendovascular techniqueの修得も目指しておりますので、予定修練期間の半分を経過する前に、修練状況について面談し、到達目標に対する進捗状況と研修に対する希望を伺って、スタッフがその情報を共有して、目標を達成できるよう連携して有意義な修練を支援いたします。
また、臨床だけでなく、研究も支援してまいります。大学院進学を希望される方には、当科教官の指導のもとで血管外科へのTranslational Researchをめざすことも可能ですし、学内基礎講座の研究室での研究や米国研究室での研究を選択することもできます(過去の留学先や当科での研究課題については他項を参照してください)。
外科医を志す方にとっては、どの専門分野にも興味があり、また、どれをやっても楽しいと思える逞しく高い志の方が多いと思われます。複数の専門分野を見て、経験してから、じっくり判断するのが性に合っている方もおられるでしょう。我々血管外科教室は、元々、循環・呼吸・腫瘍病態外科学分野の一員として、心臓外科や呼吸器外科、乳腺外科、小児外科と一緒の教室で連携してやってきた歴史から、それらの分野を自由にローテーションすることは大歓迎です。また、本学のもうひとつの外科である消化器病態外科学分野とも大連携を行って、消化器を含めた全ての外科の専門分野を全てあるいはいくつかを選択できる研修システムを構築しております。こうした連携により、外科専門医を取得できる症例を経験しながら、それぞれの専門分野の臨床や研究をよく見て将来の進路を決めるのも良いのではないでしょうか?そうした中で、一流の血管外科の文化の中で血管を扱う修練をすることは、外科医として大きな飛躍の鍵になると考えます。
一般外科、整形外科や耳鼻咽喉科などの外科系医師にとって、手術は出血との戦いであり、自信をもって血管を扱い、仮に血管を傷つけても修復できる技術があれば、外科医として飛躍的な技術の向上となります。心臓外科医にとっても、endovascular techniqueを含めた血管外科の技術を専門の施設で研修することは意義が大きいと考えます。さらに、救命救急医にとっても、血管の露出法や血管損傷の修復は大きな武器になることと推測されます。また、血管外科で扱う症例の多くは他領域・他臓器にも重大な血管病を有しているため、術後管理にはそうした全身を診る力が問われることから、全身管理における臨床力の向上も自然に得られるでしょうし、心臓外科との連携も強いので、特に循環系の管理についてその理論と実践が身に付くものと期待されます。さらに、遊離筋皮弁を扱う耳鼻咽喉科などの診療科にとっても、当科で血管外科基本手技を学ぶとともに、当科で毎月1例程度行っている重症虚血肢に対する遊離筋皮弁移植術は貴重な研修としてお役に立てるのではないかと考えます。
各人の背景や希望は多様でしょうから、どのような症例を経験したいかを研修のはじめと中間地点で面談し、長い外科医人生の中で生かせる血管外科的手技や考え方(次項参照)を修得していただけるようスタッフ一同、力をあわせてまいります。
血管外科では血管外科的思考に基づいた的確な治療戦略が命!匠の技とともに戦略も共に学びましょう!
1時間軸の捉え方
血管疾患には、一刻を争うものから、数時間以内に対処しなければならないものがあります。その見極めが臨床家として極めて重要です。また、慢性血管疾患には、年齢とともに進行してゆく病気が多く、患者さんも年齢とともに生活環境も大きく変化し、要求するADLも変化してゆきます。したがって、現時点の状態だけで治療計画を立てるのでは不十分であり、その病気が解決可能なものであるのか、あるいは、時間(年齢)と伴にいずれ進行してゆくものなのか、その症例が5年後、10年後にどのような病態あるいは生活を迎えるのかを考えながら治療戦略を立てるということも極めて重要であります。
2病態の捉え方
血管疾患には、背景に膠原病が隠れていたり、時には感染や悪性腫瘍、あるいは血液凝固線溶異常が隠れていたりすることが稀ではありません。常に、病態や背景因子を適確に捉えることが、適切な治療戦略につながるわけで、内科的な役割も重要であり、また、それが血管外科を面白くしております。血栓の3原則(Virochow’s triad)は有名ですが、その3因子すなわち、「血管壁の異常」「血流の異常」「血液の異常」が、そのまま動脈硬化の発生や、治療した血管の再狭窄などの重要な因子となっていると考えると臨床も一段と面白くなりますし、研究にもつながってゆきます。
3機能予後への取り組み
血管外科の多くは、血行を再建するものであり、再建外科でありますから、その再建された臓器・器官が十分な機能を果たさなければなりません。上記1)にも関連しますが、患者様のADLに見合った機能が発揮されるよう、また、神経障害など機能を損なうことの無いよう常に最大限の配慮が必要です。また、虚血肢治療では、可及的な肢長の温存に努めるとともに、必要に応じて装具師や理学療法士と連携して、機能を十分に発揮できるよう努める体制が重要です。
4バイパス術と血管内治療の両立を目指す取り組み
血管内治療は血管病変局所に直接侵襲を加えて治療しようとする方法に対して、バイパス術はで病変から離れて、できるだけ健常な上流から健常な下流へと連絡路を新たに造る血行再建法で、そういった意味で両者は真逆な治療法であります。この両者および血栓内膜摘除の3つの種類の血行再建方法を巧みに操り、適材適所で適用することができるのは血管外科だけであります。両者の長所短所を知り尽くした上で、患者様の状態に適した血行再建を行うためにどのような組み合わせが救肢や機能予後や合併症の面から最適なのかを考えることこそが治療戦略の王道となってゆくでしょう。
5創傷治癒・人工物の治癒との向き合い方
虚血肢治療において、血行再建後に虚血性潰瘍を治療する上で創傷治癒の考え方、ドレナージやデブリードマン、植皮などの介入の適否や時期の判断が重要であります。さらに、移植した自家静脈や人工血管もまた、複雑な治癒過程を経てリモデリングが起こりますが、その過程で再治療を要するような狭窄なども起こしてまいります。ここでも、創傷治癒の概念が重要であるとともに、異物・人工物に対する宿主の反応という概念や、凝固線溶の概念、さらには白血球ホーミングの概念など、複雑な生体反応が関与し、まだ、十分解明されていない非常に興味深い生体反応が含まれております。皆様と一緒に、こうした難題にも挑戦したいと考えておりますが、それには若い力が不可欠なのであります。
平成24年の血管外科での手術実績を示します。
動脈疾患 | 難易度カテゴリーA | 動脈血栓摘除 | 11 |
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下肢の非解剖学的バイパス術 | 8 | ||
末梢動脈瘤手術 | 9 | ||
経皮血管形成術 | 51 | ||
難易度カテゴリーB | 腹部大動脈置換 | 5 | |
ステントグラフト内挿術 | 50 | ||
膝関節以上の血行再建術 | 33 | ||
難易度カテゴリーC | 胸腹部大動脈置換 | 1 | |
腎動脈遮断を伴う腹部大動脈手術 | 3 | ||
感染性/炎症性腹部大動脈瘤手術 | 2 | ||
破裂性腹部大動脈瘤手術 | 4 | ||
腹部内臓動脈再建術 | 4 | ||
分枝再建を伴うステントグラフト内挿術 | 5 | ||
膝関節以下の血行再建術 | 91 | ||
頸動脈内膜摘出術 | 4 | ||
カテゴリー外 | バイパスグラフト修復術等 | 28 | |
遊離筋皮弁 | 7 | ||
静脈・リンパ疾患 | 難易度カテゴリーA | 静脈血栓摘除 | 11 |
カテゴリー外 | 静脈瘤手術 | 38 | |
内視鏡下不全交通枝結紮 | 2 | ||
その他の血管系手術 | 難易度カテゴリーA | 動脈シャント作成術 | 5 |
難易度カテゴリーB | 血管外傷手術 | 3 | |
胸郭出口症候群 | 3 | ||
カテゴリー外 | 肢大切断 | 4 | |
足部小切断、ドレナージ、植皮その他 | 60 | ||
計 | 442 |