良性脳腫瘍(下垂体腫瘍・髄膜腫・神経鞘腫)

下垂体腫瘍

下垂体腺腫は、脳下垂体に発生する良性脳腫瘍です。下垂体は様々なホルモンを産生する臓器であり、体内のステロイドホルモン、尿量、甲状腺機能、性腺機能、成長ホルモンなどを調整しています。下垂体腺腫にはホルモンを産生する「機能性腺腫」、とホルモンは産生せず腫瘍により周辺の神経組織を圧迫する「非機能性腺腫」があります。治療には一部の機能性下垂体腺腫に有効である「薬物療法」と根治的治療効果が期待できる「手術治療」があります。

過剰なホルモンによる症状

約6割の腫瘍でホルモンを過剰に産生します。ホルモンの種類により次のように分けられます

プロラクチン産生腫瘍
女性に多く無月経と乳汁分泌過多、不妊症として現れることが多いです。男性の場合には性欲低下、体毛の減少などがありますが、閉経後の女性とともに大きくなって視力・視野障害をきたして初めて気が付くことも多いです
ACTH産生腫瘍
中心性肥満、満月様顔貌、無月経、高血圧、糖尿など様々な症状(クッシング症候群)が出現します。
成長ホルモン産生腫瘍
手足の指、鼻、口唇などの肥大、顎の突出など特異な顔貌を呈してきます。高血圧や糖尿病などを合併しやすいため、単に美容的な面だけではなく成人病の合併症を予防するためにも治療が必要です。

目の神経の圧迫による症状

視力・視野の障害によって発症することがあり、視野は外側から見づらくなる(両耳側半盲)ことが特徴です。

治療は手術療法と薬物療法

腫瘍の性質によって手術療法と薬物療法が選択されます。手術は内視鏡併用経鼻的経蝶形骨洞腺腫摘出術が標準術式で鼻腔より内視鏡を使いながらトルコ鞍という下垂体が格納されている頭蓋底部へと到達し、腫瘍を摘出する術式です。腫瘍摘出の際には内視鏡と手術用顕微鏡を併用します。薬物療法はプロラクチン産生下垂体腺腫に対して「ブロモクリプチン」や「カベルゴリン」と言った内服薬が有効です。また、先端巨大症に対しては「オクトレオチド」などの注射薬が有効ですが、根治は難しく、手術治療に対する補助療法という側面が強い治療法になります。

髄膜腫

全原発性脳腫瘍の30%を占める良性脳腫瘍です。脳を覆う硬膜、くも膜から発生し脳実質から発生する神経膠腫(グリオーマ)と対照的です。一般には緩徐な腫瘍増大を認めWHO grade Iとされますが、一部にgrade II, IIIと考えられる悪性のものもあります。治療としては手術による摘出術が基本になりますが、再発例や全摘出が難しい例では定位放射線治療やIMRTが行われます。
近年MRIやCT検査が簡便になり、脳ドックなどで無症状の髄膜腫がしばしば発見されます。治療法は手術が基本になりますので、無症状の髄膜腫に対する治療方針の策定には慎重を期すべきと考えられています。旭川医科大学脳神経外科では、無症状の髄膜腫に対しては、腫瘍増大速度を計測し、手術適応を慎重に選択し、各患者さんにとって最適な治療方針を決定しています。

手術で全部取り除けば完治に至りますが、大切な血管や神経に接している場合には一部残さなくてはなりません。残った腫瘍は経過観察したり、放射線療法などによって増大を抑えたりします。

 

聴神経腫瘍

耳鳴りや難聴で発症することが多く、大型の腫瘍になると平衡感覚を失うことでめまいやふらつきを自覚する腫瘍です。ほとんどの腫瘍は聴神経から発生しますが、顔面神経が聴神経に近接して走行するので、顔面神経麻痺を発症することもあります。小型の腫瘍は経過観察をすることがありますが、継続的に増大を示す場合には手術や放射線治療をお勧めすることになります。特に手術では顔面神経を損傷しないように、手術中に顔面神経機能をモニタリングしながら腫瘍切除を行うことになります。

 

文責 木下 学

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