耳鼻咽喉科豆知識

耳鳴り

顔面神経麻痺の原因、治療

 顔面神経麻痺には、大脳から、橋(きょう)にある顔面神経核までに問題がある中枢性顔面神経麻痺(顔面神経核の上位に問題があるので核上性麻痺ともいいます)と、顔面神経核そのもの(核性麻痺ともいいます)、もしくはそれ以下に問題がある(核下性麻痺ともいいます)末梢性顔面神経麻痺の大きく2つに大別されます。

 核下性の末梢性顔面神経麻痺は、さらに頭の中である頭蓋内(ずがいない)、耳の後ろの骨である側頭骨(そくとうこつ)内、側頭骨(そくとうこつ)外に分類され、我々耳鼻咽喉科医は、主に核下性の末梢性顔面神経麻痺、その中でも側頭骨(そくとうこつ)内、もしくは側頭骨(そくとうこつ)外に原因のある顔面神経麻痺を対象に診断、治療を行います。それ以外の原因には、顔面神経以外の脳神経麻痺が生じる場合、脳腫瘍、脳梗塞など命に関わる病態もあり、脳神経外科、神経内科が中心に診断、治療を行います。中枢性(核上性)の場合は、額のしわ寄せが可能であり、簡便な鑑別方法となっています。

 ここからは、我々耳鼻咽喉科医が扱う顔面神経麻痺を中心に述べます。最も多い原因はウイルスの感染、もしくは神経に潜伏していたウイルスの再活性化によるものです。これらの抗体価を測定することで感染、再活性化を予測することが可能です。単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスが代表的で、原因不明の顔面神経麻痺として最も多かったベル麻痺も、単純ヘルペスウイルスが関係していることがわかってきました。

 水痘帯状疱疹ウイルスによるものは、ハント症候群といい、難聴、めまい、耳鳴り、耳や耳の入り口である外耳道(がいじどう)に皮疹ができることもあります。入院によるステロイド、循環改善薬、ビタミン剤、抗ウイルス薬などの点滴治療を行いますが、できるだけ早期に開始することが肝心で、ハント症候群の方が、予後が悪い傾向にあります。

 顔面神経麻痺の予後を予測するために、耳の中に小さな器械いれて、顔面神経が分布しているアブミ骨筋の反射をみる方法や、顔面神経を電気的に刺激、顔面を動かす筋肉の反応をみることで、どれくらいの神経が生きているかを知る検査であるENoGなどを行い、これらの点数が悪く、発症から4週間程度経過しても回復がおもわしくない場合には、全身麻酔をかけて、顔面神経減荷術(がんめんしけいげんかじゅつ)を行います。

 この手術は、炎症によって腫れあがり、狭い骨の中で絞扼(こうやく)され、神経への血流も乏しくなった顔面神経を開放することが目的で、側頭骨(そくとうこつ)内の顔面神経を囲む骨を削り、露出させます。充分に骨を開放するために、耳小骨(じしょうこつ)という音の伝わりに関わる3つの小さな骨のつながり(連鎖)を一部、一時的にはずすこともあります。

 他の原因として、外傷により神経がのびたり、腫れたり、切れたりすることで生じる外傷性顔面神経麻痺があります。受傷後すぐに生じる場合と、少し時間が経ってから生じる場合があり、受傷の程度、範囲によっては難聴や耳鳴り、めまいを伴うこともあります。

 明らかに骨折があって受傷直後から麻痺がある場合、麻痺の程度が強い場合、ウイルスが原因の場合と同様に、ステロイドや、循環改善薬、ビタミン剤などの点滴治療での改善が乏しい場合には、前述の顔面神経減荷術(がんめんしんけいげんかじゅつ)を行います。顔面神経が切れている場合は、直接細い糸で縫合(ほうごう)し、欠損する範囲が広い場合には、近くの神経を用いて移植することもあります。

 その他の原因として、顔面神経の経路にある耳下腺(じかせん)や中耳(ちゅうじ)の腫瘍、顔面神経そのものの腫瘍、中耳炎や糖尿病、自己免疫疾患、白血病などの全身の病気によるもの、先天性のもの、手術の合併症などによっても顔面神経麻痺が生じることがあり、それぞれの病態に対して治療がなされます。