耳鼻咽喉科豆知識

耳鳴り

TRT(tinnitus retraining therapy)療法

 最近注目されている耳鳴り治療法の1つにTRT(tinnitus retraining therapy;耳鳴り順応療法)療法があり、当科でも行っています。TRT療法は、耳鳴りの音に順応(じゅんのう)、馴化(じゅんか)させるように脳を訓練する方法で、補聴器のような形をした機械である、TCI(tinnitus control instrument;耳鳴り制御機器)(サウンドジェネレーター、ノイズジェネレーターとよぶこともあります)を用いて行われます。

 様々な感覚器官から絶え間なくたくさんの情報を受け取っている脳は、無意識のうちに、重要な情報と、重要でない情報をふるいにかけています。重要でないと判断された情報は我々の意識には上りません。普段は時計や冷蔵庫の音を意識しないのはこのためです。耳鳴りも同様で、最初は注意を引きますが、重要でないと判断されると、馴化(じゅんか)、順応(じゅんのう)により意識に上らなくなります。ところが、耳鳴りが出現した時に、ある種の緊張状態にある場合、不安感やストレスがある状態では、耳鳴りを警告音としてみなすようになり、いつまでも馴化(じゅんか)、順応(じゅんのう)が起きなくなります。少し例えが悪いですが、“今まで何も気にならなかった時計や冷蔵庫の音が、突然気になりだして眠れなくなった”という経験のある方もいるかと思います。

 TRT療法は、“耳鳴り慣れ”ともいうべき、耳鳴りの馴化(じゅんか)、順応(じゅんのう)に焦点をあてた治療法です。もちろん耳鳴りの原因となる治療すべき病気がある場合は、その治療が優先されます。  実際のTRT療法は、耳鳴りとはどういうもので、耳鳴りの馴化(じゅんか)、順応(じゅんのう)という現象、不安感やストレス、心理的な葛藤が耳鳴りに与える影響、TRT療法のメカニズムを説明し、充分理解していただいた上(カウンセリングといいます)で、TCIを装用してもらいます。前述の耳鳴りを雑音で消すマスカー療法と異なり、TCIでは、耳鳴りの馴化(じゅんか)、順応(じゅんのう)を生じさせるために、耳鳴りが少し聞こえるくらいの大きさの雑音使います。その後、1日6から8時間装用することを目標に、定期的に微調整を行います。耳鳴りの馴化(じゅんか)、順応(じゅんのう)にはある程度の時間がかかりますので、すぐに効果が出るとは限りません。必ずしも一生装用しなければならないということではなく、耳鳴りの馴化(じゅんか)、順応(じゅんのう)が達成されることが目標となります。TRT療法は最近注目を集めている治療法ですが、効果が期待できる場合と、そうでない(使用が難しい)場合があり、聴力検査や耳鳴りの検査、専門医のカウンセリング、診断が重要となります。当科では、一定の試聴期間を経て、希望のある方にTCIを購入してもらうことにしています(約6万円)。