地域医療医育成担当副学長を拝命しています牧野雄一です。
突然ですが、なぜ「地域医療医の育成」が必要なのでしょうか?
それは言うまでもなく、地域医療の持続可能性を高めるためです。地域に継続的に医療を提供する体制づくりの一環として、人材育成は重要な柱です。
では、地域医療の持続可能性を脅かすものは何でしょうか?
北海道の現状で考えてみましょう。北海道では、急激な人口減少と高齢化、地理的分散・気候的障壁、社会インフラの衰退、そして医師や医療福祉資源の偏在と散在など、他の都府県と比べても特殊な地域的・構造的課題を抱えています。
これらは、患者数の減少と医療ニーズの偏りや複雑化、医療アクセスと医師確保の困難化へとつながり、深刻な医療提供体制の弱体化を招いているのです。ですから、北海道においては、単に医師数を増やすだけではなく、刻々と変化する医療ニーズに対応できる医師の養成が必要とされています。
たとえば、いわゆる「病院」で総合的な診療をする能力、訪問診療や家庭医としてのプライマリケアを実践する能力、離島や僻地などでの総合的な診療をする能力、そして災害時や救急の現場で総合的な診療をする能力を身につけた「マルチタスク型」の医師は、北海道の地域医療の救世主となるでしょう。
旭川医科大学は、創設の理念にある「地域の医療に貢献する」という思いを開学50年を期に新たにし、「マルチタスク型地域医療医育成体制の構築」事業を展開しています。地域共生医育センターを中心に、入学センター、教育センター、社会医学講座など卒前教育に関わる部門、卒後臨床研修センター、専門医育成/管理センターなど臨床研修に関わる部門、そして総合診療部、内科、救急科を初めとする各診療科など、全学的な協働・連携体制のもとマルチタスク型地域医療医を育成する事業です。
本学の学生の皆さんや学内外の多くの方々のご理解とご協力、ご指導を仰ぎながら取り組んでいます。
もう一つ、地域医療の持続可能性を高めるために重要なことは、「客観的で公平・公正な地域医療ニーズ」を見出すことです。"この地域ではどこにどのような医療ニーズがありますか?"と問えば、主観的、場合によっては少し政治的な答えを多く聞く可能性は否めません。これでは医療資源の配分が歪む可能性があります。この問題を解決するため、マルチタスク型地域医療医育成事業では、新しい方法による地域医療ニーズ調査を行なっています。
人口と疾患の分布、医療施設や医師の専門性の分布とそこへのアクセスの困難度などを総合的に評価します。「地理情報システム」にさまざまなデータを重ねていくことで、あらたな切り口での医療ニーズの可視化と医師配置などのシミュレーションができます。
このデータをもとに、内科合同会議をはじめとする学内の各部門、北海道・市町村や公的病院等と議論し、より適切で効率的な医師配置につなげていきたいと考えています。すでにこの考えにご賛同いただける町村長の方々にもご協力をいただいています。
「地域医療医育成目線」でお話ししたいことはまだまだありますが、スペースの終わりに近づいてきました。医師養成という特別な役割を担う医育機関としてどのように社会貢献を果たしていくべきか、旭川医科大学に関わるすべての方々と共に考えていきたいと思います。皆様どうぞよろしくお願い申し上げます。
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