Greeting
この度、消化器先端医学講座を新設いたしました。本講座は消化器を中心として、各臓器にわたって、新規の診断法や治療法を開発することが主な目的です。現在進行中のプロジェクトは、いずれも萌芽的な研究段階から非臨床試験、臨床試験へとステップアップし、実用化に至るまで、一貫して当講座で実行しております。
代表的な研究テーマとして、「微生物由来分子の機能解明と新薬開発」をご紹介いたします。腸内細菌は腸の健康維持に働くだけではなく、肝臓や膵臓といった他の消化器官や脳・神経を含めた全身の臓器の恒常性維持に大きな役割を果たしています。また、乳酸菌やビフィズス菌に代表される有益菌はプロバイオティクスと呼ばれ、長年にわたってヨーグルトなどの機能性食品として多くの人に食され、その安全性や健康維持効果が明らかにされてきました。しかしながら、プロバイオティクスを直接投与しても、難病や悪性腫瘍などの難治性疾患に対しての効果は低く、治療薬としてのエビデンスは乏しいのが現状です。これは、生菌を投与しても、難病や悪性腫瘍の患者さんのように病的な腸内環境の中では十分に働くことができないためと考えられます。そこで、当講座では、プロバイオティクスが分泌する様々な分子を精製・濃縮して投与することでこの問題を解決し、難病や悪性腫瘍に対する新薬開発へと結びつける研究を推進しております。すでに我々は乳酸菌(Lactobacillus brevis)由来の長鎖ポリリン酸に高い腸バリア機能改善作用があること発見し、難治性の炎症性腸疾患を対象とした医師主導臨床試験によって、高い治療効果を証明いたしました。このプロジェクトは医薬品医療機器総合機構(PMDA)の助言のもと、第I相、II相試験を予定しております。また、乳酸菌(Lactobacillus casei)由来のフェリクロームに強い抗腫瘍作用があることを発見し、既存の抗がん剤(5-FU、シスプラチン)を超える効果を確認いたしました。こちらも非臨床試験を経て、実用化研究へと進める予定です。その他にも、治療に結び付く生理機能を持った複数のプロバイオティクス由来分子を同定しており、様々な疾患を対象とした新薬開発を目指しております。また、その他のプロジェクトとして、RNA修飾異常の解析にもとづいた癌特異的な新規標的分子の解明、炎症性腸疾患患者の分子異常の解析にもとづいた病因の解明、初代培養細胞を用いた新規抗腫瘍分子の機能解析や分子マーカーの開発など、幅広い分野に対して研究を行っております。
以上のようなコンセプトで基礎研究の成果を実用化へと結びつけ難病や悪性腫瘍に苦しむ方々の福音になるよう努力していきたいと思います。今後ともご支援賜りますと幸いに存じます。何卒、よろしくお願い申し上げます。
教授 藤谷幹浩(ふじや みきひろ)
旭川医科大学医学部 消化器先端医学講座
旭川医科大学内科学講座 病態代謝・消化器・血液腫瘍制御内科学分野(消化器・内視鏡学部門)