研究内容

研究内容

1. 脈管研究クラスター活動

多細胞生物が維持していく上で、本質的なものは何か?

2004年、十年ぶりに米国から日本に戻ってきた当時、法人化改革、さらに医学部では研修制度の改革が重なり、大学は大きな混乱の真っただ中でした。ヒト、カネが不足する日本の大学において、アカデミア力の復興のために、講座や専門領域の枠を超えた多角的な共同研究活動が不可欠です。

そのために、これまでの「心不全」研究から、「毛細血管」研究に切り替える決断をしました。 この決断の前に、自分自身に問うた質問は、『多細胞生物が維持していく上で、本質的な条件は何か?』ということです(図1参照)その答えが「毛細血管」であり、これに関する知見は、さまざまな研究分野に波及すると考えたからです。

今の大学の「不足」に挑む研究クラスター活動

長期の経済低迷や少子化・人口減少、一方で国際化やAIなどの技術革新など社会情勢が変化する中で、国立大学の法人化改革が断行されました。しかし、残念ながら、多くの大学で、その改革がなかなか進んでいないのが現状です。

研究の観点でも、研究資金、研究者や研究時間が不足し、さらに研究指導者が不足し、いわゆる研究教育の根幹となる瓦屋根構造が脆弱になってきています。これらの多くの「不足」に対応するため、多細胞生物に不可欠な基盤的な臓器(毛細血管)を標的とする基礎研究を展開する中で、講座や専門領域を超えた研究者が参画して、多種多様な研究プロジェクトが展開しています(図2参照)

図1 毛細血管は多細胞生物が維持する上で基盤となる臓器
図1 毛細血管は多細胞生物が維持する上で基盤となる臓器
図2 毛細血管研究所の展望!
図2 法人大学の「不足」に挑む研究クラスター活動

2.毛細血管形成(成熟化)に不可欠な分子Ninjurin1(Ninj1)の発見」
(図3参照)

Ninjurin1は、末梢神経組織が障害されて発現誘導される分子として発見(1996)されました。当初、神経再生に関与すると推測されていましたが機能が不明なまま、2012年ころに脳炎誘発に関わる分子として報告されるまで注目されてきませんでした。

我々は、「血管成熟」過程に関与する分子探索の中で、Ninj1を見出しました(2015)。 その後、適切な新生血管が様々な障害組織の再生に共通する重要な現象であり、そのキー分子としてNinj1があることを証明してきました。

図3 新生血管の成熟化に関わる重要な分子Ninj1
図3 新生血管の成熟化に関わる重要な分子Ninj1
‐ 血管新生時の初期と後期で変わる周細胞の特性に関与する ‐

3.毛細血管に秘める幹細胞(Capillary stem cells; CapSCs) の発見」
(図4参照)

上記の血管新生研究の課程で樹立したペリサイトのクローン細胞株の中から、偶然に「間葉系と神経系の多分化能を併せもつ細胞」があることから、同定されました(2014)。

毛細血管に局在する幹細胞で、内皮細胞にも分化し自ら「毛細血管」を再生・構築する特徴から、CapSCsと命名しました(特許2017、国際特許)。 大型外部資金を調達し(OideCapiSEA)、重症下肢虚血病態や筋ジストロフィー症などの治療応用の可能性を示してきました。

図4 多細胞生物が維持する上で根幹となる毛細血管
図4 多細胞生物が維持する上で根幹となる毛細血管
‐ 幹細胞+毛細血管形成+神経再生を担うCapSCとNinjurin1‐

3.これまでの大学院OB(図5参照)

本講座・クラスター活動に、循環器内科だけでなく、様々な専門領域の医師・研究者が参画してくれて、臨床業務もしながら、ほぼ4年の年限の中で、立派な博士論文を発表、博士学位を取得しています。多くが、競争的研究資金を獲得し、全国学会で優秀賞などを受賞し、対外的に高い評価をされています。 博士号取得後、ポスドクとして海外へ研究留学や、独立した研究者(Principle investigator PI)として研究者のキャリアをつんでいます。

図5 本講座・クラスター活動の大学院OBの先生方
図5 本講座・クラスター活動の大学院OBの先生方