センター長 大崎教授 コラム
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パルオキシメーター(2012/3/7-2012/4/7)

さて、新シリーズですが、パルスオキシメーターに迫ってみようと思います。お楽しみに。
WikipediaにPulse oximetoryと入れてみると、historyの第2パラグラフの中に”Susumu Nakajima, a surgeon”の記載が出てきます。
中島進先生は旭川医科大学の手術部長だった外科医です。パルスオキシメーターを旭川医科大学の外科病棟で世界で初めて臨床例に使用しました。
世界で初めて使用された場所は、旭川医科大学病院の改装前の9階東病棟です。現在の9階西と東の中間が旧東病棟でした。当時、呼吸器内科は8階東にありました。
詳しくは「旭川医科大学研究フォーラム」第12巻に掲載されています。 http://www.asahikawa-med.ac.jp/index.php?f=education_science+index#02
指尖脈波型パルスオキシメーターの臨床例での検討は中島先生らにより、1977年にワルシャワで初めて学会発表され、1979年に外科学会誌に論文が掲載されました。
旭川医科大学の開学は昭和48年(1973年)、病院の開院は1976年11月ですから、限られた条件の中での研究だったと思います。
1979年の論文が英訳されて海外に紹介された事から、指尖型パルスオキシメーターの臨床応用の開始は1979年とされています。
ヘモグロビンの吸光を利用した酸素飽和度の測定法をオキシメトリーといいます。この装置がオキシメーターですね。
サチュレーションモニターという言葉も検索すると出てきますが、これは機器を指す正式な用語ではなさそうです。
指尖脈波を利用して酸素飽和度をオキシメトリーで測定するので、パルスオキシメーターが正式な機器の名前です。何より発明者が、そう命名しています。
オキシメトリーでは2波長の光の吸収を測定して、その吸光度の比から酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの濃度比を求めます。
動脈血は赤く、静脈血は黒く見えますね。これは酸化ヘモグロビンが赤を反射し、還元ヘモグロビンは吸収する、つまり、赤の吸光度が異なるためです。
1つの検体に含まれた2つの物質の濃度比は、1つの物質について吸光度が異なる2波長の光の吸光度の比から求める事ができます。
660nm付近はレーザーポインターの赤に近い色ですが、酸化ヘモグロビンは吸光度が低く、還元ヘモグロビンは高い波長です。一つはこの波長を用います。
800nm では酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光度の差は僅かです。660nmと800nmの吸光度の比をとると、その検体での酸化、還元Hbの濃度比がわかります。
実際には880nmや900nmの光源が用いられているようです。いずれにしても赤外線です。
パルスオキシメーターの下側には受光窓があり、爪側から照射した赤色光と赤外線の透過光の強さを測定しています。
受光部には光センサーが入っていると思われます。光センサーにはいろいろな種類がありますが、光で発電するセンサーが使われているのではないでしょうか?
発光部にはLED(light emitting diode)が使われています。初期にはレーザーもあったように思いますが、レーザーではないんですね。
ところで、LEDと半導体レーザーの違いってわかりますか?どちらも日本の先進の技術です。光を出すメカニズムはそんなに違いませんが…
どちらも発光物質の中に陽極と陰極が 入っていて,その間を飛ぶ電子が光を出します.半導体レーザーではミラーとハーフミラーが組み込まれています.
半導体レーザーは針の穴ほどの大きさの物もあります.LEDよりも波長の分布がシャープでエネルギーが強いのが特徴です.最近はLEDも性能が上がっています.
さて、オキシメトリーですが、660nmと880nmの吸光度の比を測定するんでしたよね。ヒトの体は皮膚、骨、結合組織、脂肪、血液など様々な物質から形成されています。
この条件で、血液の酸素飽和度を測定する必要があります。初期の耳朶型オキシメーターでは、始めに圧迫して血液を追い出して基準点を決めました。
このタイプは基準点がばらつくことと、動脈血と静脈血が分離できないことから信頼性が低く、臨床の現場では普及しませんでした。そりゃそうだ、という感じですね。
日本光電の青柳卓雄氏はこの欠点を克服したオキシメーターを開発しました.これが現在のパルスオキシメーターです.はじめは耳朶での測定用でした.
青柳氏は拍動する成分に着目しました.検体の厚みが増すと光が多く吸収されます.拍動による吸光度の変化から基準値を差し引くと拍動する成分のみが取り出せます.
つまり,660nmと880nmについて収縮期と拡張期の吸光度の差の比を測定すると,拍動成分すなわち動脈血についての酸化Hbと還元Hbの比率を求めることができるわけです.
この原理ではキャリブレーションがいらなくなります。つまり、どんなに厳しい条件でも拍動する成分が検出できれば酸素飽和度がわかる事になります。すごいですね。
太っていても、やせてても、皮膚の色が何色でも、男性でも女性でも、大人でも子供でも、世界中で使える訳です。マニュキュアをしていても測定できる色もあります。
パルスオキシメーターの表示は脈拍数と酸素飽和度です。拍動が棒グラフや曲線グラフで現れるものもあります。引き算の結果が示されていると思われます。
パルソックスではLEDを1秒間に40回点滅させて、酸素飽和度を計測しています。光センサーは光の強さしかわかりませんので、タイミングで赤と近赤外線を区別するのでしょう。
パルスオキシメーターはアメリカで普及してから日本に里帰りしました。こんなに優れた測定装置が日本で開発されたのに、何故我が国では理解されなかったのでしょうか?
測定原理を理解したうえで試してみて,原理通りの性能が確認できれば普及するのは当然です.米国にはそのような科学からでた技術を受け入れる土壌があるのでしょう.
中島先生は原理を聞いて,よい測定機に違いないと思ったのでしょうね.臨床で普及していない医療機器について海外で発表された背景にはそんな見通しがあったと思います.
パルスオキシメーターは薬事法が定める医療機器です。認可番号が付いていないものは医療には使用できません。
メーカー品はパルスオキシメーターの測定値と実測値で較正されています。仕組みは簡単ですが、LEDや光測定器の性能と安定性が重要です。信頼できるメーカー品を導入してください。
パルスオキシメーターも現代の聴診器として永遠に使われ続けることでしょう.中島先生は「人類の歴史が続く限り使われる」と書かれていました.
正確には、中島先生は「おそらく人類が生き続けている限り、使用されるモニターであろう」と記載されています。私も本当にその通りと思います。
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