研究

膠原病・内分泌

慢性炎症性疾患における低酸素応答性転写因子群の役割の解明

1. Hypoxia-inducible factor-1α(HIF-1α)とInhibitory PAS domain protein (IPAS)

低酸素誘導性転写因子Hypoxia-inducible factor-1α (HIF-1α)は、嫌気的エネルギー産生、血管新生、造血などの反応を転写レベルで制御し、生体の低酸素適応に最も重要な役割を果たす分子として同定されました。従来、HIF-1αの発現・機能異常が、固形癌、虚血性疾患など低酸素が関与する疾患・病態の成立に関わることが示されていましたが、我々は、HIF-1αが、低酸素のみならず、正常酸素環境下においても生体内の代謝異常、炎症にはじまるシグナルにより活性化され、代謝性臓器障害や自己免疫性慢性炎症などの病態に密接に関わる事を明らかにしてきました。一方、我々は内因性HIF-1α機能抑制分子Inhibitory PAS domain protein (IPAS)を発見し、IPAS発現の人為的調節により自己免疫性関節炎や代謝性臓器障害を改善させる方法論を確立しつつあります。我々は、低酸素応答性転写因子の機能異常が関わる免疫・代謝性疾患の病態を解明し、低酸素応答性転写因子を標的とする新たな治療法開発の基盤を確立することを目指しています。

2. HIF-3α遺伝子異常と血管リモデリング異常

HIF-3αは、HIF-1αに類似した構造を示すHIF-αアイソフォームの一つです。HIF-3α遺伝子は、RNAスプライシングのレベルでIPASを含め様々なバリアントフォームを生成しますが、これらHIF-3α遺伝子産物の多くは低酸素誘導生転写因子群に対して抑制的に働きます。我々は筑波大学、東北大学との共同研究でHIF-3α遺伝子の破壊マウス (HIF-3αKOマウス)を作成しました。HIF-3αKOマウスは、正常に誕生しますが、徐々に径30μm未満の肺細動脈の筋性動脈化などの肺血管リモデリング異常を示し、さらに右室拡大、肺血管内皮細胞でのエンドセリン1産生の亢進など、ヒト肺動脈性肺高血圧症に類似した形質を示しました。肺動脈性肺高血圧症は膠原病の難治性病態の一つであり、その病態の解明と新たな治療法の開発が急務とされています。我々はHIF-3α遺伝子異常の観点から膠原病性肺動脈性肺高血圧症の病態解明に取り組んでいます。

高齢者関節リウマチに対する治療の安全性・有効性に関する研究

2010年における我が国の国民生活基礎調査による報告書では、関節リウマチ患者の実数は70~80万人と言われ、これまで関節リウマチの好発年齢は 40~50代と言われてきましたが、近年の高齢者の増加に伴い60歳以降での発症や、70代、80代となった高齢関節リウマチ患者様も日常診療において多くみられるようになっています。現在の関節リウマチ診療における薬物療法の中心はメトトレキサート(MTX)ですが、近年めざましい進歩を遂げている生物学的製剤もその使用頻度が増えています。それに伴い先述の高齢関節リウマチ患者における使用頻度も多くなってきていますが、高齢患者の特徴として、複数の合併症を有していることや、腎臓を始めとした臓器機能の低下やそれによる薬物動態の変化、また免疫能の低下などがあり、しばしば感染症などの重篤な有害事象に直面することがあり、それらの患者をどのように治療するかは重要な課題であると考えています。我々は、新潟県立リウマチセンターとの共同研究として、高齢関節リウマチ患者における生物学的製剤を中心とした薬剤の有効性と安全性について解析を行いより良い治療法の確立を目指しています。

ANCA関連血管炎の重症化予測因子の探索

血管炎は、血管自体が炎症を起こすことにより全身の臓器障害を来す自己免疫疾患です。中でも抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎は、かつて考えられていたより高い頻度で、高齢者を含め幅広い年齢層に認められるため近年注目を集めています。ANCAの出現と関連する好中球活性の異常が病因の一つと考えられており、好中球におけるneutrophil extracellular traps、補体や免疫複合体など様々な免疫学的因子の関与が示されていることから、ステロイド大量療法やシクロホスファミド大量静注療法、分子標的薬であるリツキシマブなどを用いた免疫抑制療法を主体とする治療が行われます。しかしながら、特に肺や腎臓、中枢神経などの重要臓器に急速な障害がおよぶ場合、治療は難航し、生命予後が不良となることも少なくありません。このような急速進行性、治療抵抗性の病態を迅速に判断し、的確な治療を行う上で、重症病態発症リスクの評価ならびに予想の方法の確立は急務と考えられます。当科では、ANCA関連血管炎における重症肺病変、肺胞出血のリスク因子の抽出、予測アルゴリズムの確立に取り組んでいます。