研究内容

自家組織由来心臓弁グラフト(バイオバルブ)の開発研究


現在、心臓弁膜症に対する弁置換術で用いられる人工弁は、主に機械弁と異種生体弁がある。チタンやカーボンファイバー製の機械弁は耐久性に優れるものの、置換後は血栓塞栓症のリスクが高く、患者は抗血液凝固薬を飲み続けなければならない。一方、牛または豚に由来する異種生体弁は機械弁に比べて血栓はできにくいが、免疫反応などによる劣化が進みやすい短所がある。拒絶反応や血栓リスクがない自己組織生体弁の開発が世界各所で進められているが、in vitro による培養で作製した実験弁では石灰化が起こりやすいと言う問題もある。  われわれはこうした問題を解決する手法として、人工物を体内に留置した際に生じる結合組織によるカプセル化反応を利用。生体内組織再生技術という新たな概念による自己組織由来心臓弁の開発を進めており(上図)、大動物(ヤギ)を用いた前臨床試験では石灰化が起こりにくく、移植後は新生血管の構築もみられるなど、有望な結果が得られている。  作製方法は、アクリルやシリコンでできた鋳型を皮下に植え込み、1〜2カ月後に摘出して鋳型だけを取り除き、得られた膜様の自己組織を心臓弁に形成するというもの。鋳型にカプセル内視鏡を内蔵して弁葉形成を観察することで、確実な完成時期を知ることができる(中図)。鋳型は3Dプリンターを用いて作製するため、高価な培養設備がなくてもさまざまなタイプの弁を作製でき、個々の患者に合わせたテーラーメードも可能になる。現在、通常開心術型、導管一体型、カテーテル植込み型の3タイプで開発を行っている(下図)。  これまでの研究では、置換後の弁は周囲から自家細胞が進入し、本来の弁に近い組織構造に変化する傾向も見られた。このことより、従来の人工弁は成長に合わせて大きくなることができず小児に使うと成長が妨げられる深刻な問題があったが、開発中の弁は置換後も成長する可能性があり、小児患者への適用が最も期待される。
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生体内組織形成術による移植グラフトのin vitro 評価技術開発

生体内で形成された心臓弁グラフトを実際の医療で使えるよう、機械工学的な手法によるin vitro 評価系を開発しています。特に軟組織で様々な厚みをもつ組織体の特性を精度良く把握するためには、非接触かつ高空間分解能で組織体の厚みを計測できる必要があります。我々はOptical Coherent Tomographyを用い、組織内部の空隙及び組織体の厚みを計測するソフトウェアを開発し、材料試験の形状データに用いることで高精度な物性計測を可能としています(上図)。また厚みを可視化し移植に用いる領域の決定する手法の構築など(下図)、安全安心して移植手術に用いられるよう研究を進めていきます。

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新しいバイタルセンサの開発

乳児・老人の突然死防ぐために様々なモニタリング機器が開発されていますが、ワイヤレスセンサの寿命は十分でなく、また拘束感も問題となっています。我々は世界で初めて心拍に同期して指爪が変形していることを発見し、圧電素子を用いて変形によって発電できることを明かにしました。本手法は脈波の検知にはエネルギーを必要とせず、システムの寿命を大幅に延伸することが可能であり、また、感覚器官の無い爪は無意識に抜去されにくいセンサとなることがポイントです。一方で、提案デバイスよる乳児、高齢者の計測結果はなく、年齢および個人差の評価が必要であるので爪上に設置可能な脈波センサを開発し、その有効性を評価することを本研究の目的としています。

nailsensor   図 脈爪変位によるバイタルセンサ開発のコンセプト図





人工心臓の合併症機序解明


心疾患の治療には人工心臓などの機械循環による治療が必要不可欠であり、国内でも年間数万人に行われる一般的な治療となり、長期生存も出来るようになった。一方で、人工心臓による血流補助を3年以上適用すると3割以上の患者に出血の合併症が生じている。その原因は血中タンパクの変性(後天性von Willebrand 症候群(AVWS))に起因すると考えられています。機械循環装置のせん断によるVWF切断の詳細な機序は未解明です。そこで本研究では、流動場中のせん断がVWFを切断する機序を解明することを目的として駆動方式の異なる二つの血液ポンプに用いて評価します。
vwf1 vwf2   上 人工心臓の長期使用における出血合併症
  下 せん断と血中タンパク減少の関係から合併症機序を解明する





人工心臓と心臓をシームレスに接続する新しいハイブリッド医療材料の開発

優れた抗血栓性と、細胞再生能力を示すハイブリッド材料の開発を進めています。現在の課題は定量的な機械的強度が未解明であることです。血流によるせん断応力や、心臓の収縮力に対して十分な強度を有してはいるが、足場としての人工材料と、その足場に新生させた細胞外マトリクスがどのくらいの結合力を有していて、どの方向の力に対して機械的強度を有するのかは未解明です。そこで本研究の目的を、ハイブリッド材料の力学的機械強度の評価を行い、材料の適用範囲を拡大させることとして研究を進めています。
hybrid_c   図 人工心臓用ハイブリッド材料のコンセプト図





生体埋込センサの長寿命化のための多孔質ポリマーによるバイオフィルタの開発

多孔質材料の空隙率、連続性、孔径を変更し生体反応の制御能を有する新材料を開発します。材料は孔径により透過物質を選択濾過することが可能となり、表面の微小構造のロータス効果によって生体反応制御性を獲得させます。また非臨床動物実験設備を用いて、新材料で作られたバイオフィルタの制御能と生体内 での寿命を評価します。
biofilter   図 多孔質ポリマーによるバイオフィルタの開発のコンセプト図