遠隔医療

神経内科

北海道では神経内科医や脳神経外科医が不在の地域が数多く存在しています。したがって、このような地域では専門医による脳卒中などの神経疾患の適切な診療を受ける機会を逸していることが少なくないと考えられます。

脳卒中診療において、Stroke unitを利用した脳卒中専門チームによる治療を行うことにより脳卒中患者の死亡率減少、機能予後改善が得られることが知られており、脳卒中専門医不在の地域の脳卒中診療のレベルを維持し、脳卒中診療の地域差を解消する取り組みはきわめて重要と考えられます。また脳卒中以外の神経疾患に関しても診療の地域差を解消することが急務であると考えられます。欧米を中心に神経内科診療における遠隔診療の効能について良好な結果が報告されています。

そこで、当院でも神経内科専門医不在の地域基幹病院で遠隔脳卒中診療(Telestroke)と遠隔神経内科診療(Teleneurology)に取り組んでいます。

1.脳卒中診療への応用(Telestroke)

遠隔脳卒中診療に関して、旭川医科大学病院と脳卒中専門医不在の富良野協会病院救急室をTV会議システムで結び、患者が富良野協会病院へ搬送された際に旭川医科大学の脳卒中専門医がTV会議システムを用い救急搬送されたベッド上の患者のバイタルサイン、意識状態、神経所見を富良野協会病院の救急担当医とリアルタイムで患者の状態を確認することができます。また同院で撮像されたCTやMRIなどの画像は旭川医科大学放射線科に転送され、画像診断も行うことができ、リアルタイム型の脳卒中診療支援を行うことが可能です。臨床所見と放射線画像読影システムで転送された画像所見をあわせ、脳卒中の 臨床診断を行い、治療方針を決定します。

当院へ搬送される場合、Telestrokeを使用することにより受け入れ態勢の整備を前もって行うことができ、Telestrokeを使用しない場合と比べて診断および治療開始までの時間を約1時間短縮することが可能となります。また、旭川医科大学病院の脳卒中専門医の助言のもとに富良野協会病院で加療する場合や同院の近隣医療機関に転院して加療する場合もあり、それらの場合は患者居住地域で脳卒中診療を行うことにより、搬送費用や家族の交通費など診療以外に付随する費用の軽減につながるものと考えられます。

Telestroke(脳卒中遠隔医療)の概念図
Telestroke(脳卒中遠隔医療)の概念図
リアルタイム型の脳卒中診療支援
リアルタイム型の脳卒中診療支援

2.脳卒中以外の神経疾患診療への応用

脳卒中以外の症例に関しても、遠隔医療システムを用いて診療が可能となっています。

具体的な症例として、四肢筋力低下を主訴に道立羽幌病院から当科外来を紹介受診され、当科での入院精査の結果、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の診断となり、免疫グロブリン療法を施行し、退院後道立羽幌病院と遠隔医療システムをつないで経過観察し、免疫グロブリンの再投与などを指示して治療を継続した症例があります。

このように脳卒中以外の症例でも地元の医療機関で診療を継続することにより、患者や家族の通院にかかる身体・経済的負担、時間の負担を軽減することができ、また地域の医療機関の神経内科を専門としない医師の診療支援の意味でも有用であると考えられます。

3.遠隔医療による神経疾患診療の今後の展望

脳卒中超急性期症例において血栓溶解療法(組織プラスミノーゲンアクチベーター)を地域基幹病院で投与した後に旭川医科大学病院に搬送する試みはまだ実施されておらず、今後地域基幹病院と協力して体制を整え、地域における脳卒中症例の転帰の改善に寄与できるかについて検証することも取り組むべき課題と考えられます。

神経疾患の遠隔診療の意義および有用性について、神経内科や脳神経外科の専門医のいない地域での神経疾患診療レベルの向上のみならず、患者自身の運搬費用と家族の交通費などの波及する医療経済学的観点、さらには機能予後の改善効果などを含め、総合的に検証していくことによって、地方の医師不足や住民の生活環境の向上、地方自治体の財政状況の改善といった社会的問題の改善の一助にもなりうるものと考えられ、社会的観点からも今後充実が望まれる分野と考えられます。

2015年05月26日
旭川医科大学内科学講座 循環呼吸神経病態内科学分野