遠隔医療

放射線部

読影風景

1.はじめに

1999年に旭川医科大学病院(以下、本院)に遠隔医療センターが開設されて以来、放射線科では遠隔画像診断に取り組んでおり、現在北海道の14の医療機関と連携しています。本院の画像診断は、一般的に普及している民間の読影センターでの遠隔画像診断とは異なった立ち位置であり、本稿ではその特徴について説明します。

【図1】遠隔画像診断の連携施設
【図1】遠隔画像診断の連携施設

2.システム構成

遠隔画像診断システムは、遠隔医療センターに設置されている画像サーバ、所見レポートサーバ、画像受信端末及び遠隔用読影端末で構成されており、依頼病院からの読影依頼受付、画像受信、作成された所見サポートの配信を行っています。依頼受付、所見レポートの配信は、所見レポートサーバ内にWebサーバを構築し、依頼施設との連携はWebベースの運用を行っています。遠隔読影用端末は読影室に専用端末を設置し、依頼後即座に読影が行えます。端末は病院ネットワークとは接続せずに専用のネットワーク回線を使用しています。

依頼元病院はDICOM画像送信及び読影依頼入力、所見レポート参照を行うための端末が設置されており、本院とはNTTのフレッツVPNワイドで接続されているため、安価なコストでセキュリティを保ったネットワーク接続が行える仕組みになっています。

【図2】遠隔画像システム概要
【図2】遠隔画像システム概要

3.遠隔画像診断の手順

依頼元病院で①撮影された画像は、各病院に設置されている端末で②画像送信、③読影依頼入力の手順で本院に送信されます。本院では画像受信端末が④各病院から送信される画像を受け取り、画像振り分けを行い画像サーバに格納し、病院毎の画像が混在しない様、依頼元の病院が依頼した所見レポートのみを参照できるように病院間のセキュリティを確保しています。受信した画像は、遠隔読影用端末で⑤読影及び所見レポート作成が行われ、⑥キー画像と所見の配信が行われます。遠隔用読影端末は、院内で稼働している放射線部門システムと操作性を統一し、全ての読影医が何時でも遠隔読影出来るように環境を整備しています。作成された所見レポートは、依頼元病院で読影依頼と紐づき⑦参照が行われます。

【図3】遠隔画像診断の流れ
【図3】遠隔画像診断の流れ

4.旭川医科大学病院の遠隔画像診断の特徴

(1) 複数の画像診断専門医による読影

本院の読影室には、常に多くの画像診断専門医がおり、必要に応じ様々な専門領域に関するディスカッションが可能です。いうまでもなく、画像診断は中枢神経から呼吸器、消化器、骨関節と全身の疾患を対象としており、スクリーニング的な検査以外ではしばしば専門領域の知識が必要となります。これは通常の画像診断では当然のことであり、遠隔画像診断といえどもその例外ではないと考えています。顔の見えない単独の画像診断医による遠隔画像診断のサービスでは、画像所見の質がしばしば問題となっています。一方、我々の遠隔画像診断では、所属する画像診断専門医の情報は公開されており、必要に応じ各専門領域の医師が対処することで、質の高い画像診断所見を提供しています。

(2) 迅速な読影

我々の遠隔画像診断の特徴として、迅速な読影があります。前述したごとく院内の読影室で院内業務と並行して行っているため、迅速な読影が可能となり通常1~2時間以内に画像所見を返しています。依頼先からは、まるで自分の病院に画像診断医がいるようだと評価されています。

(3) 患者搬送への貢献

本院は、地域の中核病院としての使命を担っており、周辺地域の病院から救急疾患に加えて様々な重症例や難治症例が搬送され集まっています。このような状況下で、遠隔画像診断システムを構築することにより医療機関相互のより密接な情報交換が可能となります。搬送前の患者を放射線画像に加えてTV会議システムを利用して診察することにより、患者の病状や重症例を的確に判断し治療方針を決定する運用も試みています。また放射線科が専門技術として行っている血管カテーテルを主体とするインターベンショナル治療を目的とした患者の搬送も増えており、外傷による臓器損傷や喀血・消化管出血の治療において大きな役割を担っています。そのような場合においても、遠隔画像システムにより事前に症状を評価し手技の適応や内容を具体的に検討することが可能となっています。このように、遠隔画像診断は単なる画像診断を超えて、中核病院への患者搬送に大きく影響しており、医療機関相互の連携に大きく貢献しています。

5.旭川医科大学病院遠隔画像診断の新たな試み

我々は、画像の遠隔診断に加えて、遠隔画像診断システムを用いて新たな試みに取り組んでいます。それは主に大動脈解離や大動脈瘤破裂などの血管外科の救急患者を対象とした、搬送前の救急患者の画像評価です。遠隔画像システムで連携した医療機関から患者が搬送される場合に、まず画像を転送することで、患者到着後に施行される外科手術の適応や内容を事前に協議し決定することが可能となり、受け入れ後の治療が円滑に行われます。円滑な患者搬送と早期の適切な治療を可能とするこの取り組みは今後、大学病院に限らず地域中核病院での遠隔画像診断による地域医療連携のモデルになるものと期待しています。

【図4】搬送患者の画像評価
【図4】搬送患者の画像評価
2015年10月14日
旭川医科大学 放射線医学講座