特別講演 III「歩行とその障害のシミュレーション」

           ー重力と下肢のバランスー

 わたかべ  まこと
 渡壁 誠
生年月日 昭和36年3月5日生
 勤 務 先  北海道教育大学
 所属・職  教育学部旭川校・助教授
 住 所  〒070-8621 旭川市北門町9
 Tel & Fax  0166-59-1351

 学 歴

 昭和54年4月1日  東京工業大学第4類 入学
 昭和55年4月1日  同大学工学部生産機械工学科 進学
 昭和58年3月26日  同  上  卒業
 (卒業研究:生体関節の摩擦潤滑に関する研究に従事)
 昭和58年4月1日  東京工業大学総合理工学研究科
 システム科学専攻修士課程 入学
 昭和60年3月26日  同  上 修了(工修第8358)
 (修士研究:生体関節の摩擦潤滑に関する研究に従事)
 平成8年6月28日  北海道大学より博士(工学)授与(第5014号)
 (学位論文:脳性麻痺児における立位・
       歩行障害に関する生体力学的研究)

 職歴・研究歴

 昭和60年4月1日  旭川医科大学医学部 着任
 整形外科学講座 (助手)
 平成8年3月31日  同  上 退職
 (この間,整形外科領域における生体力学的研究に従事)
 平成8年4月1日  愛知県心身障害者コロニ−・発達障害研究所 着任
 治療学部・臨床運動学研究室 (研究員)
 平成15年4月1日  愛知県心身障害者コロニ−・発達障害研究所 昇格
 機能発達学部・機能訓練研究室 (主任研究員)
 平成16年3月31日  同  上 退職
 (この間,運動機能障害に関する生体力学的研究に従事
      脳性麻痺児や健常者の下肢関節可動域に関する研究
      筋音図を用いた筋機能分析に関する研究
      乗馬の障害者にもたらすセラピー効果に関する研究
                            など)
 平成16年4月1日  北海道教育大学教育学部旭川校 着任
 技術教育講座(機械) (助教授)
 (上記の研究を継続すると共に,生体力学的な方法論と技術教育
   の方法論の接点を模索中)
 現在に至る

 講演要旨

 私たちにとって,歩行という運動は日常生活を送る上で必要不可欠のものです。そればかりではなく,この能力が人類の進化の上で重大な変化をもたらしたことは言うまでもありません。そして,ヒトの歩行運動の不思議を解明したいという願いは古代から現代に至るまで,様々な分野の研究テーマの一つとして取り上げられてきました。また,その延長上に私の関心事である障害歩行の発生の機械的要因を明らかにすることも含まれています。
 こうした歩行研究の中から,“ヒトは最も効率の良い歩き方を選んでいる”ということが明らかにされてきました。これは,歩く速さを変える場合や自分の最も楽な速度で歩く場合に,歩き方,つまり歩幅と歩調をその際のエネルギー効率が最高になるように選択するという事です。昔から,坂道をあたかも歩いているように二本の足を交互に動かして下っていくおもちゃがあります。これは受動歩行装置と呼ばれるもので,ある意味で効率のよい歩行を再現しているととらえることができます。すなわち,機械側は何の制御も受けずにただ自然と落ちてゆくだけなので,制御のためにエネルギーがほとんど使われておらず,動くためにだけエネルギーが使われていると考えられるからです。この状態をもう少し考えると,これは下肢が振子のようにぶらぶらと自由にふれている状態に最も近いと見ることができます。つまり,下肢の重心位置で決まる周期で歩行しているとき,最も効率のよい歩行となっているという考え方です。こうした考え方を元に,実際の機械やコンピュータシミュレーション上で歩行を再現する研究が現在盛んに行われています。
 歩行を阻害する因子には 1)歩行のための筋制御の不全,2)運動を発現するための筋力の不足, 3)運動の枠組みとしての関節可動範囲の低下が挙げられます。歩行の機械的モデルが確立すれば歩行を実現するための機械的な枠組みが明らかにされ,逆に脳を含めた中枢神経系による制御や補償がどのようになされているかも見えてくる可能性があります。もう一つのアプローチとして,ここに挙げた歩行の阻害因子を工学的に表現して,現行のモデルや装置にくみいれ,どのような歩行の異常が発生するのかといったことを考える方法があります。この講演では上記の歩行に関する研究をまず概説し,歩行阻害因子の一つである関節可動域を取り上げ,その影響についてお話したいと思っています。