展示室B会場  ポスター演題 5(57〜63) 10月31日(日)

 症例・物理療法

 10:30~11:30       座長:北都保健福祉専門学校 小林 浩

57)重症胸部外傷患者に対する呼吸理学療法の経験

1札幌医科大学附属病院 リハビリテーション部、2札幌医科大学附属病院 高度救命救急センター
 谷口 志穂1、管野 敦哉1、石川 朗1、横串 算敏1、森 和久2、松尾 邦功2

【はじめに】当院は高度救命救急センターに指定されており、理学療法分野においても救急救命治療を要する患者に携わることが多い。今回重症胸部外傷を受傷した2症例に呼吸理学療法を行なった経験を報告する。

【症例1】50歳女性、覚醒剤中毒。H16年3月27日地下鉄に飛び込み、多発肋骨骨折・肺挫傷を含む多発外傷を受傷した。搬入直後より荷重側肺障害を合併し腹臥位positioningを実施した。第12病日より酸素化改善・排痰促通を目的にpositioningとbagging・吸入と併せて呼気介助を実施した。第18病日より端座位練習を開始したが、人工呼吸器管理長期化が予測されたため第28病日に転院した。

【症例2】35歳男性、統合失調症。H16年6月1日車に飛び込み多発肋骨骨折・血気胸・骨盤骨折を含む多発外傷を受傷した。第2病日より荷重側肺障害に対し半日間の腹臥位管理を行なった。第22病日感染性膿瘍から敗血症となり、重度の荷重側肺障害のため挿管、人工呼吸器管理となった。第33病日に抜管したが、第39病日換気不全のためNIV開始し、第42病日再挿管し4日間の腹臥位管理とbagging・吸入と併せて呼気介助を実施した。排痰促通、酸素化改善傾向にて第46病日に抜管し、NIVを再開、第54病日room airとなる。以降、離床へ向け運動療法主体に実施中である。

【考察】2症例ともhyperinflationとpositioningの併用による排痰促通などの呼吸理学療法が有効であり、肺障害の軽減化につながったと考える。また症例2のNIVの使用に関しては、精神的に不安定であったが導入も比較的良好であり、気管切開を回避できたことは感染の予防に寄与したといえる。

【結語】重度な胸部外傷に対してのhyperinflation、 positioningと呼気介助の併用による排痰促通と、救急医療現場でのNIVの有用性が示唆された。今後はこれらの治療手段の適応と効果について更なる検討を深めたい。


58)救急医療現場における陽・陰圧体外式人工呼吸器RTXの使用経験

1札幌医科大学附属病院 リハビリテーション部、2札幌医科大学附属病院高度救命救急センター、3札幌医科大学保健医療学部理学療法学科
 管野 敦哉1、横串 算敏1、谷口 志穂1、澤田 篤史1、成松 英智2、石川 朗3

【はじめに】RTXは非侵襲的であり、呼気の介助が可能であることが特徴の人工呼吸器である。この呼吸器は急性期から慢性期、在宅での呼吸管理に使用することが可能とされている。当院では高度救命救急センターの他、神経筋疾患の排痰介助などに使用されている。今回、当院高度救命センターに搬入された3名の患者に対し、使用する機会を得たので報告する。

【症例1】30歳、女性。外傷性くも膜下出血、肺挫傷。平成16年4月13日、バイク転倒にて受傷。CTで両背側下葉に無気肺が認められ、気管内挿管された。第3病日、無気肺が改善し抜管するも上気道の閉塞によりSpO2の低下が見られ、RTXを使用する。

【症例2】50歳,男性。気道熱傷、一酸化炭素中毒。平成16年4月20日、火災現場で発見され、当院搬入される。直ちに高圧酸素療法施行し、気管内挿管される。第4病日、抜管されるも酸素化不良、排痰困難のためRTXを使用する。

【症例3】22歳、女性。溺水、肺炎。統合失調症にて他院に入院中。平成16年6月1日、外泊中に川に飛び込み受傷。E病院から当院救命センターに搬入される。酸素投与で経過観察されていたが、CT上両背側に無気肺、肺炎が認められ、RTXを使用する。

【転機】症例1は30分間の装着後、PaO2が68.7mmHgから98.0mmHgに改善し、その後も再挿管されることなく第9病日に転院した。症例2は30分間を2回装着した後、すす混じりの痰が多量に排出され、PaO2が76.7mmHgから158.2mmHgに改善し、第9病日に独歩で退院した。症例3は約1時間の装着後、PaO2が88.5mmHgから133.5mmHgに改善し、人工呼吸管理も行なわれず第9病日に転院した。

【考察】今回の3症例は疾患も病態も異なっていたが、救急医療現場で問題となることが多い抜管後の気道閉塞や低酸素血症、排痰困難などに対し良好な結果が得られたと考える。しかし、この呼吸器の適応や使用基準などは明確化されていないため、今後症例数を増やし、検討していく必要がある。


59)多剤耐性肺結核患者における26年間の運動機能と画像所見の経過について

 1北海道立苫小牧病院 リハビリテーション室、2北海道立苫小牧病院 呼吸器内科、3札幌医科大学大学院 保健医療学研究科、4札幌医科大学 保健医療学部 理学療法学科
 河島 常裕1、常松 和則2、山中 悠紀3、石川 朗4

【はじめに】陳旧性肺結核は酸素化不全に加え高炭酸ガス血症を伴うことが多く、呼吸理学療法の対象疾患としては、COPDに次いで多い症例である。しかし、その病態や運動機能についての報告はきわめて少ない。 今回、陳旧性肺結核における理学療法について検討し、指針を得る目的にて、多剤耐性肺結核患者の26年間における運動機能や画像所見などについて後方視的に調査したので報告する。

【対象】77歳、女性。多剤耐性肺結核にて昭和53年、51歳にて当院入院。投薬治療を継続的に実施。平成16年4月、永眠。経過 昭和46年、発症。S市内の結核療養所にて入院治療も緩解せず、昭和53年、当院に転院となった。転院時動作時の息切れは見られたが、活動的に行動しADLは自立。胸部X線所見として気管変位はみられたが、胸郭変形は認められなかった。各種薬剤による治療が実施されたが、反応が見られず、継続入院となる。平成元年から看護師による歩行を主とした運動療法が開始されるが、徐々に意欲低下と排痰困難が生じ、転倒も見られ始めた。胸部X線所見は、気管変位の進行、胸郭変形と石灰化が見られ始めた。平成12年から理学療法士による呼吸理学療法が開始されたが、体力低下が徐々に進行し、日中も臥床傾向となり、ADLは食事を除き介助を必要とした。胸部X線所見は、著明な気管変位と胸郭変形がみられた。平成16年3月頃より次第に全身状態が悪化し、4月に永眠された。【考察】本症例は、長期にわたり入院加療されていたが、加齢とともに運動機能は徐々に低下し、2年ほど前から急激なADL低下がみられた。また、胸郭の変形も終末期が近づくにつれ急速に進行した。したがって、陳旧性肺結核患者に対する理学療法は、運動機能が維持されていた時期から積極的に運動療法などを施行することが必要であり、加えて、胸郭変形に対するアプローチも、早期より検討することが重要と思われた。


60)加速度計を用いた消費エネルギー量の計測  
    〜車椅子利用者に対する測定の妥当性〜

1北海道社会保険介護老人保健施設サンビュー中の島
 伊藤 晃範1、稲村 久美子1、佐々木 悟1、越後 弘子1、高井 重紀1

【はじめに】身体活動量の計測機器として、近年比較的安価で簡便に使用可能な加速度計が開発されているが、車椅子利用者に対する使用可否については検証されていない。本研究では、加速度センサーを搭載したViM(腕時計型、マイクロストーン社製)およびライフコーダー(腰部装着型、スズケン社製)による消費エネルギー量の計測が、歩行活動のみではなく、車椅子を主体とした活動に対しても可能かどうかを検証した。

【対象・方法】対象は健常成人14名(男性5名・女性9名、平均年齢31.6±9.0歳、平均体重61.6±14.4kg)。方法は、加速度計(ViM・ライフコーダー)および呼気ガス分析装置(OXYLOG2)を同時に装着した状態で、3分間の安静後、9分間の車椅子駆動および歩行を各1回ずつ実施。9分間の運動負荷プロトコールは、20m間隔で設置した目標物の周りを8の字に車椅子駆動および歩行をし、速度は2.4km/h、3.2km/h、3.6km/hの各3分ずつとする多段階負荷とした。速度を一定に保つため、10m毎に設定したマーカーを一定時間ごとに通過するようにし、車椅子駆動に関しては、メトロノームを使用し、駆動回数を60回/分と規定した。統計学的分析は、呼気ガス分析装置および加速度計(ViM・ライフコーダー)から計測された9分間の車椅子駆動と歩行による消費エネルギー量および歩数を、ピアソンの積率相関係数、Student’s-T-test、等分散検定F-testを用い比較検討した。

【結果・考察】ViMは、歩行に関しても車椅子駆動に関しても消費エネルギー量の計測に妥当性がみられたが、歩行時の歩数に関しては信頼性が低い結果であった。ライフコーダーに関しては、歩行時における消費エネルギー量や歩数の計測に妥当性がみられたが、車椅子駆動による消費エネルギー量の計測は困難であった。車椅子を主体に生活している高齢者や障害者に対して身体活動量を計測する時、ViMは有用であると考えられる。


61)ハムストリングスの伸張性に対する深部温熱効果について

1札幌医科大学 大学院 保健医療学研究科、2札幌医科大学 保健医療学部 、3札幌清田整形外科病院、4愛全病院
 高崎 博司1、武田 秀勝2、青木 光広2、高木 貴史3、近藤 和恵4、宮本 重範2

【目的】深部温熱がハムストリングスのストレッチ効果増大にどの程度寄与するのかをマイクロ波を用い検討する。さらに、ストレッチ効果の持続時間について検討する。

【方法】被験者はハムストリングス・膝に障害既往が無く、健康な20代前半の男性5名とした。同被験者に対しストレッチのみを行う場合と、マイクロ波をストレッチに併用する場合の2群間比較をおこなった。実験は各被験者の各群2回、1週間以上間隔をあけて実験を行った。測定肢位は背臥位で右の膝窩角をゴニオメーターを用い測定した。安静時膝窩角を測定後、「心地よく」感じる程度の持続的ストレッチを大腿二頭筋、半腱・半膜様筋に対し30秒、各1回行った。ストレッチはIDストレッチングの方法に従うものとした。ストレッチ直後、膝窩角を測定し、以後5分、10、20、30、40分後に再測定した。ストレッチ後の膝窩角が初期値の±1°に回復したところで測定終了とした。マイクロ波を併用する場合は、安静時の膝窩角を測定後、腹臥位でミナト医科学株式会社製のマイクロタイザーMT-250Nを使い70Wで20分照射した。照射距離は10〜15cmで、坐骨結節から膝関節中央付近まで照射される距離とした。

【結果】全被験者において、膝窩角は40分以内にほぼ初期の値に回復した。ストレッチのみの場合安静時膝窩角平均は138.2°、ストレッチ直後の膝窩角平均は142.9°で、その差は4.7°であった。マイクロ波照射後ストレッチを行った場合の安静時膝窩角平均は132.8°、ストレッチ直後の膝窩角平均は142.5°で、その差は9.7°であった。統計処理は対応のあるt検定を用い、有意水準を5%以下にした。

【考察】マイクロ波の併用によりハムストリングスの伸張性が約2倍になることが分かった。更に、ハムストリングスの伸張性は深部温熱の有無に関わらず、安静にしていると40分で元に戻ることが分かった。ハムストリングスの伸張性を高めるには深部温熱が効果的であると思われる。


62)小豆を材料とした簡易式ホットパックの経時的温度変化

1北海道千歳リハビリテーション学院
 白銀 暁1、村上 亨1、隈元 庸夫1

【はじめに】我が国の臨床場面において,ホットパックは特に使用頻度が高い温熱療法である.しかしながら,現在臨床で用いられているホットパックは装置が大型であり,在宅など施設外では使用しにくいものが多い.電子レンジで加熱するものも存在するが,これらは比較的高価である.このため,安価で身近な素材である小豆等を材料としたホットパックが近年注目を集めている.本実験では,小豆を材料としたホットパックを使用するための指標を得ることを目的とし,小豆重量と電子レンジ加熱時間を変化させて経時的な温度変化を計測した.

【方法】市販の小豆(北海道産)を綿袋に入れ,3種類(重量250g,500g,1,000g)の簡易式ホットパックを制作し,家庭用電子レンジ(出力500W)で加熱した.加熱時間は1分,2分,3分,5分とした.サーミスタ(Mother Tool社製DMA001C,確度±1.0℃)を使用し,ホットパック内部温度を加熱1分後から30分後まで1分毎に記録した.

【結果】すべての小豆重量において,加熱時間に比例して内部温度が上昇した.最高温度は133℃であった.最高温度から20分経過時までの温度低下率は,小豆重量250gで平均32%,500gで25%,1,000gで10%であった.

【おわりに】結果から,小豆は数分の加熱で容易に危険な温度まで上昇するが,小豆重量の増加に伴って内部温度変化が緩やかになることがわかった.熱水加熱ホットパックのような,長時間の熱放出を得るためには1,000g以上の小豆を使用することが望ましく,500Wでは1〜1.5分間程度の加熱が適当と考えられた.また,本実験で制作した簡易式ホットパックの材料費は,小豆1,000gのものでも2,000円以下であった.これは他の市販品に比べて安価であり,また小豆は身近な自然素材でもあるため,在宅場面でも導入しやすいと思われた.