展示室A 会場 ポスター演題 1 (1〜7) 10月31日(日) |
中枢神経 9:30〜10:30 座長:旭川リハビリテーション病院 高橋 浩史 |
1)脳卒中急性期リハに関する調査
1手稲渓仁会病院 リハビリテーション部
佐々木 亮介1、青山 誠1、森谷 茂樹1、秋元 健太郎1、野地 法子1
【はじめに】脳卒中急性期リハプロトコールや、それに連動したクリティカルパスを導入することは、チームアプローチの促進や在院日数短縮、データの蓄積による急性期リハのEBM確立などに有効と考えられる。そこで本研究では、各施設における脳卒中急性期治療に対する認識やリハ施行状況を調査し、実状と問題点を把握する目的でアンケート調査を行ったので報告する。
【対象と方法】対象は、脳神経外科を標榜している道内医療施設71施設。方法は、郵送によりアンケートを配布し、同封の返信用封筒により回収した。
【結果】アンケート回収率は全施設中49.3%、有効回答率46.5%であった。リハプロトコールの有無は、あり3.0%、導入予定30.3%、なし66.7%であり、クリティカルパスの有無は、あり25.0%、導入予定28.1%、なし46.9%であった。急性期リハにおける重視指標(上位5指標)は、意識レベル81.8%、心疾患の既往75.8%、発症後の日数60.6%、病型51.5%、損傷部位48.5%であった。座位耐久性訓練基準の有無は、あり12.1%、なし87.9%であり、リハ休止・中止基準の有無は、あり21.2%、なし78.8%であった。
【考察】リハプロトコール・クリティカルパスとも導入施設は少なかった。しかし、導入予定を含めるとそれぞれ33.3%、53.1%と高率にみられており、関心は高いと考えられた。重視指標からは、脳の損傷レベルと病態によってリスクを評価し、リハを進めている施設が多いことが示された。しかし、病態の複雑さから画一的な座位基準や休止・中止基準を設定するのが困難なためか、リハ施行基準は医師またはコメディカルが個別に対応していた。これらから、病型・病態にて層別化したプロトコールやクリティカルパスを設定し、それぞれにおけるリハ施行基準を定め、チーム内で統一化されたアプローチを進めることが有用であると推察された。
2)当院における脳卒中急性期リハの現状 -プロトコール立案に向けて-
1手稲渓仁会病院 リハビリテーション部
秋元 健太郎1、青山 誠1、佐々木 亮介1、森谷 茂樹1、野地 法子1
【はじめに】近年、包括支払方式が施行されつつある中、脳卒中においてもクリティカルパス(以下、CP)導入に関心が高まっている。しかしながら当院脳外科病棟においてはCPがあるのは現在、軽症脳血栓症など極少数であり、リハに関してはCPに必要なプロトコールも確立されていないのが現状である。
【目的】当院脳外科入院患者の在院日数、転帰先、リハの現状を調査し、それらを分析することで今後CP標準化に向け、問題点を考察する。
【方法】2003年4月から2004年4月までの脳外科入院患者のカルテより後方調査し、統計処理にはt検定を用いた。
【結果】年間脳外科入院患者は712名で、この内リハ適応患者は398名(55.9%)、男女比228:170、平均年齢69.0±13.1歳、脳梗塞208名(52.3%)、脳出血67名(16.8%)、くも膜下出血28名(7.0%)、その他95名(23.9%)であった。またリハ適応者の平均在院日数は30.5±28.0日であり、リハ開始までの平均日数は4.1±5.5日であった。この内CP適応者31名(7.8%)は平均在院日数15.7±6.0日であった。転帰先別平均在院日数は自宅176名(44.2%)が23.0±21.5日、回復期転院131名(32.9%)は34.4±24.0日、慢性期転院65名(16.3%)は45.9±42.5日であり、自宅退院に対して回復期・慢性期転院各々で有意差が認められた(p<.05、<.001)。また、転帰先別のBarthel indexにおいても上記の結果と同様の傾向にあった(p<.01)。
【考察】リハ開始時期については早期に対応できており、転帰先で分類しても自宅退院であれば在院期間が短く、かつBIも高い。転院では在院期間が長くBIも低かった。しかし、いずれもSDでばらつきが大きかった。原因として急性期治療で病態が不安定の中、リハでの明確な層別化や評価方法の標準化がなされていないため、段階的訓練が各治療者により異なる結果を生んだためかもしれない。今後は評価方法や患者の層別化を行い、outcomeを明確化していく必要がある。
3)自立歩行に至らなかった要因 ?回復期病棟入棟時予測の検討?
1日鋼記念病院 リハビリテーションセンター 理学療法科、2日鋼記念病院 リハビリテーションセンター 作業療法科
三政 辰徳1、前田 守2、小山内 康夫1、小泉 利光1、及川 哲史1、中鉢 泰生1
【はじめに】当院回復期病棟において入棟時に医師、理学療法士、作業療法士の協議の結果、屋内自立歩行獲得可能と予測した片麻痺患者が、退院時自立歩行獲得に至らなかった要因を検討する。
【対象】平成14年5月から平成16年7月までに入棟時に自立歩行獲得と予測され退院した片麻痺患者74名(脳梗塞47名・脳出血27名、男性38名・女性36名、右片麻痺42名・左片麻痺24名・両片麻痺8名)とした。(なお予測方法は二木らの「脳卒中患者の最終自立予測基準」を参考としている。)入棟中の死亡例、合併症増悪例、再発例は除外とした。平均年齢65.9歳、発症から入棟期間は平均32日、入棟から退院までの期間は平均77日となっている。
【方法】入棟時能力と退院時能力について、診療録より後方視的調査を行った。
【結果】74名中、68例(92%)が自立した。監視が3例(4%)、介助が3例(4%)となった。平均年齢は自立群66.4歳、監視・介助群は59.5歳であった。入棟から退院までの期間は平均自立群で71日、監視・介助群は146日となっている。なお入棟時には74名中、全ての患者がベッド上生活自立(起居動作)を獲得していた。監視・介助群の傾向として、重度の失行、左側無視などの高次脳機能障害を有す例が大部分を占めた。
【考察】二木らの述べている通り、大部分が自立歩行を獲得した。監視・介助群が自立歩行獲得に至らなかった要因として高次脳機能障害が挙げられた。原によると高次脳機能障害が重度であると、予想以上に機能予後に支障をきたすと指摘している。予後予測をより正確にするには、入棟時安易に自立歩行獲得可能と判断せず、高次脳機能障害のレベルを経時的に評価した上で歩行の予後を見極め、今後のリハ目標を設定する必要性を感じた。
【まとめ】歩行の予後予測は高次脳機能障害を考慮し、他のスタッフと経時的な協議が必要である。
4)当院での装具作製状況について
〜回復期リハビリテーション病棟開設前後の比較〜
1クラーク病院 リハビリテーション部
橋本 晃広1、越後 靖子1、芳賀 貴幸1、山野 香1、冨樫 英則1、水本 善四郎1
【はじめに】当院では2003年11月より回復期リハビリテーション病棟(以下回復期リハ病棟)を開設している。今回、回復期リハ病棟開設前後の脳血管障害患者(以下CVA患者)の装具作製状況を調査し検討した。
【対象】2002年1月から2002年12月までに一般病棟に入院し装具を作製したCVA患者32名(以下一般群)、2003年6月から2004年5月までに入院し回復期リハ病棟へ転棟、装具を作製したCVA患者33名(以下回復期群)であった。その内訳は各々一般群で男性12名、女性20名、平均年齢56.4±11.8歳、回復期群で男性22名、女性11名、平均年齢64.9±8.8歳であった。
【方法】理学療法記録から以下の項目を2群間で比較した。1)装具作製の割合。2)入院時から装具作製までの期間(マン・ホイットニ検定)。3) 在院日数(t検定)。4) 作製装具の種類。
【結果】1)装具作製の割合は一般群28%、回復期群22%であった。2)装具作製までの期間は一般群105±69日、回復期群81±40日と有意差は認めなかった(P<0.09)。3)在院日数は一般群217±123日、回復期群154±51日と有意差を認めた(P<0.01)。4)作製装具の種類は一般群・回復期群でプラスチックAFO(以下PAFO)72%・34%、オルトップAFO 19%・24%、継手付きPAFO 0%・15%、金属支柱付きAFO 9%・12%、金属支柱付きKAFO 0%・15%であった。
【考察】これまで、CVA患者の装具はPAFOが主体であったが、回復期群では継手付きPAFO、金属支柱付き装具へと変化している。今回、有意差は認めなかったが一般群よりも早期に装具を作製している傾向がみられ、調整可能な装具を早期から治療用として使用している傾向がみられた。これは、回復期リハ病棟の在院日数短縮にも関係していると考える。
5)外傷性脳損傷急性期の尖足防止用足関節装具
1札幌医科大学附属病院 リハビリテーション部、2有限会社 野坂義肢製作所
澤田 篤史1、江刺家 修1、横串 算敏1、野坂 利也2
【はじめに】外傷性脳損傷の急性期には一過性に除脳硬直や除皮質硬直が出現することがある。この時期は過度の筋緊張亢進と外傷後の体位制限から、徒手での足関節矯正や良肢位保持が困難である。また静的足関節装具では足関節の経時的変化に対応した角度調節が困難である。このため、理学療法効果が十分に得られず、急性期以降に尖足となり、歩行獲得の障害となる。今回、外傷性脳損傷急性期の尖足防止目的で、タウメル継手を用いた足関節装具を試作したので報告する。
【方法】足関節に70度(底屈50度〜背屈20度)の可動性を持つタウメル継手を用い、AFOを試作した。足関節他動背屈角度よりプラス5度を目安に患者の筋緊張に合わせて装具の背屈角度を設定し、30分間装具装着、2時間除去のサイクルで日中のみ装具を使用した。1週間ごとに患者の足関節可動域を測定し、装具の背屈角度に適宜変更を加えた。
【結果】症例1:10歳男性。脳挫傷、多発骨折、上行結腸穿孔。第24病日(JCS30)より37日間使用し、足関節背屈可動域(L/R)が-5度/-5度→20度/5度まで改善した。
症例2:19歳男性。脳挫傷、多発骨折、肺挫傷。第22病日(JCS30)より16日間使用し、足関節背屈可動域(L/R)が-5度/0度→10度/10度まで改善した。
【考察】外傷性脳損傷急性期の尖足予防が歩行獲得のためには重要となるが、関節可動域運動や良肢位保持、静的装具の使用といった従来の方法では尖足予防が困難である。着脱が容易で背屈角度を調節できる足関節装具は、看護師の協力が得やすく、体位や経時的な足関節の角度変化によらず良肢位を保持できる。また、外傷性脳損傷の急性期治療において、この装具は徒手での足関節矯正が困難な程、過度に筋緊張が亢進した患者に対する理学療法の一助となり得ると思われる。今後、症例数を増やすとともに背屈角度や使用方法の設定、コスト、装具製作時間、リスク管理などの点で検討していきたい。
6)在宅脳卒中患者のQOL評価 −SF-36を用いて−
1函館脳神経外科病院 リハビリテーション科 理学療法課
折野 美緒1、石田 亮介1、中田 俊博1、望月 藍1、荒 万佐大1
【目的】在宅脳卒中患者が増加する今日、その人らしい生活を送る為に、生活の質(QOL)の向上を図ることが重要である。SF-36は世界で最も広く使われている包括的健康関連QOL(HRQOL)評価法の1つである。ADLが第三者の観察者を介して測定されるのに対して、この評価法は患者の健康度やこれに起因する日常生活機能の制限の程度を患者の視点で評価できる特徴がある。今回、在宅脳卒中患者に対し入院時と退院後のQOLの変化について検討した。
【対象】言語理解可能な右片麻痺症例。56歳、女性。
【方法】入院時(発症後3ヶ月)と退院後(発症後6ヶ月)の2回、SF-36を用いてQOLを評価した。SF-36は、身体機能(PF)、日常役割機能・身体(RP)、日常役割機能・精神(RE)、心の健康(MH)、体の痛み(BP)、全体的健康感(GH)、活力(VT)、社会生活機能(SF)、の8下位尺度から成り、それぞれが100点満点に換算可能である。また、FIMは入院時で99/126点、退院後で113/126点であった。
【結果】入院時・退院後でのスコアは共に年齢別国民標準値に比べ低値であった。さらに退院後は入院時に比べPF、BP、VT、MHは高値を、GH、SF、MHは低値を示しており、その他は変化なかった。
【考察】SF、MHなどの精神的健康面においては入院時よりも退院後の方が低値を示した。その原因として、入院中は麻痺の回復が著明に見られる時期であり、他患者との交流の機会が多く、家に帰りたいという目標が明確であったのに対し、退院後は麻痺の回復が固定してきているのに加え、外出の機会・場所がなく家に閉じこもり傾向にあり、他者との交流や楽しみがないことが影響していると考えられる。在宅脳卒中患者に対して、身体的健康だけでなく、精神的健康にも目を向けてQOLの把握することが重要であると考えられる。
7)小脳性運動失調に対する認知課題適用の試み
1函館脳神経外科病院
中田 俊博1、石田 亮介1、三上 直剛1
【はじめに】従来より小脳は、運動の実行にのみ関わるとされていた。しかし、近年の神経生理学的研究では、認知的側面にも関わっていることが報告されている。理学療法においても、それらの知見に基づいた治療が重要である。今回、小脳梗塞により運動失調を呈する症例に対して、認知課題を適用することで日常生活動作の変化・改善が認められたので報告する。
【症例】65歳 男性。平成15年11月19日発症。MRIにて右小脳に梗塞巣を認めた。11月25日より理学療法を開始した。治療開始時では、体幹・四肢の失調症状、軽度感覚障害を認め、両手足の位置関係がまったくわからず、座位保持は、柵などの補助がなければ不可能であった。本人にとって、坐位イメージはなく、「坐っている感じがしない」「体がふわふわする」と話されていた。
【問題点の解釈】失調を筋出力制御が上手く行えない状態と捉え、本症例においては、運動を想起する際に、運動の方向・距離・時間的制御など認知的側面が問題を引き起こしていると考えた。
【経過】理学療法開始時、坐位にて数種類の線を識別する課題、左右9マスの位置関係を識別する課題、スポンジの硬さを識別する課題を行った。その結果3週間後に坐位にて支持基底面内での重心移動が制御可能となった。その後、立位での課題へ移行し、不安定板を用いた重さの識別、左右9マスの位置関係の識別課題、スポンジの硬さの識別課題を行い、5週目に立位保持、8週目には屋内T字杖歩行が可能となった。
【考察】近年の脳科学の知見から、筋出力制御機構として小脳が認知的学習プロセスに関与していることが報告されている。今回認知課題を適用したことで、身体イメージや知覚情報の統合という認知的側面の改変が認められ、日常生活動作の改善が見られた。従って、小脳性失調に対する認知課題の適用は有効であると思われる。