1)足底屈筋群エクササイズが重心動揺に及ぼす影響
1札幌円山整形外科病院
阿久澤 弘1、佐藤 史子1、佐藤 進1、仲澤 一也1、山川 智範1、山崎 肇1
【目的】足底屈筋群のエクササイズ(以下Ex)により重心動揺が減少し、立位が安定するという結果は多くの研究により示唆されている。しかし、それらの研究におけるExはタオルギャザーなどの閉運動連鎖によるExを用いている。そこで今回は、開運動連鎖によるEx直後の重心動揺を測定し、重心動揺に及ぼす影響を検討した。
【対象・方法】対象は下肢に障害の既往のない健常成人10名(男性6名、女性4名)、平均年齢23.7±2.21歳であった。測定にはアニマ社製重心動揺計(グラビコーダGS−10)を使用し、Ex前に閉眼での利き足片脚立位の重心動揺を、測定時間30秒で3回測定した。次いで足趾屈筋群のExと平地での片脚立位30秒間を3回行うExのいずれを先に行うかランダムに施行し、各Ex後の重心動揺を同様の方法で3回測定した。足趾屈筋群のExは足底を接地させずに3秒間の足趾の把持動作を10回行い、30秒の休憩時間を挟み合計3セット行った。各Ex間には1日以上の間隔を取った。重心動揺は、重心移動距離の総軌跡長を計算し求め、その平均値を算出し各個人のデータとした。統計処理には対応のあるt検定を用い、危険率1%未満を有意とした。
【結果】総軌跡長はEx 前207.2±45.3mm、足趾屈筋群のEx後190.3±38.4mm、平地片脚立位Ex後225.3±68.1mmであり、足趾屈筋群のEx後にのみ有意差が認められた。
【結論】固有受容器へ刺激を加え、姿勢制御反応の促通を目的とするExを行う場合、閉運動連鎖でのExを行うことが多い。しかし、今回の研究では開運動連鎖でのExでも重心動揺が有意に減少した。この結果から開運動連鎖によるExでも固有受容器への刺激が得られ、姿勢制御反応を促通すると考えられる。
2)足底刺激が片脚立位に及ぼす影響
1札幌円山整形外科病院 リハビリテーション科
佐藤 進1、佐藤 史子1、阿久澤 弘1、仲澤 一也1、山川 智範1、山崎 肇1
【目的】我々が臨床上経験する症例の中に、受傷機転が転倒による症例は多い。それら症例の中には、“バランス”能力の低下を来している可能性もある。先行研究において足底刺激はバランスに良好な影響を与える可能性があると報告されている。そこで本研究において、足底刺激が片脚立位の安定性に及ぼす影響を調査することを目的とした。
【対象・方法】健常成人10名(男性6名、女性4名、平均年齢23.7±2.21歳)を対象とした。測定は、閉眼での利き足片脚立位時の重心動揺を計測した。測定にはアニマ社製重心動揺計(グラビコーダGS−10)を使用し、サンプリング周波数60Hz、測定時間30秒とした。方法は、まず最初に平地での片脚立位時の重心動揺を計測。その後、以下の2通りのExercise(以下Ex)を施行。再度、平地での重心動揺を計測し、そのEx効果を比較した。Ex1:平地で片脚立位を30秒3回練習(足底刺激無)。Ex2:NOPPEX(TOGU社製)上で片脚立位を30秒3回の練習(足底刺激有)。統計学的解析は、対応のあるt検定を用い、有意水準1%未満とした。
【結果】総軌跡長平均は、刺激無Ex前243.9±75.5mm、Ex後225.3±79.0mm、刺激有Ex前233.8±63.6mm、Ex後202.9±49.4mmであった。各条件ともにEx前後では、Ex後の方が低い値を示したが、刺激有のみ有意差が認められた。
【考察】本研究において刺激の有無によるEx前後の重心動揺の比較をすると、刺激有Ex後においてのみ重心動揺が有意に減少した。これは足底刺激により、足底部の固有受容器を刺激し活性化された結果、Ex後の有意な変化をもたらしたものと考えられる。種々の要素が関与する“バランス”能力向上のためにNOPPEXのような足底に刺激の与えるようなマット上Exを行うことは、有用な方法ではないかと考えられる。
3)足趾へのストレッチングが前方へのバランスと足底の2点識別覚に及ぼす影響について
1旭川リハビリテーション病院 リハビリテーション課
渡辺 暁子1、鈴木 健太1、中嶋 光秀1、高橋 浩史1、佐々木 健史1
【はじめに】これまでのストレッチング(以下ST)効果としては運動パフォーマンス向上に関する報告が中心であった。一方、ST効果による感覚入力向上により運動療法がより効果的になる可能性も示されている。しかしST施行後の感覚入力に対する影響とバランス能力との関係をみたものは少ない。今回我々は、足関節背屈のみと更に足趾伸展を加えた2種のSTを行い、前方へのリーチバランスと足底の2点識別覚(以下2PD)との関連について比較・検討し若干の知見を得たので報告する。
【対象】健常成人20名(男性9名、女性11名、平均年齢24.3±2.0歳)
【方法】対象を足関節背屈のみのST群(以下足関節群)と足趾伸展と足関節背屈両方のST群(以下足趾群)に分けた。STは測定肢位より他動的最大伸展位で30秒間行った。ST前後に背臥位にて2PD(母趾球・踵)、バランステストとしてFunctional Reach Test(以下FRT)を行った。FRT中の前後・左右の最大重心移動距離を重心動揺計(アニマ社製G-6100)を用いて測定した。比較は(1)各群ST前後で2PD(母趾球・踵)、前後・左右の最大重心移動距離、リーチ幅について、(2)両群間で上記パラメータのST前後の差について行った。統計にはt検定を用い有意水準を5%以下とした。
【結果】(1)足趾群はST後、母趾球2PDは有意に低下し前後・左右方向への最大重心移動距離およびリーチ幅は有意に増加した。足関節群はリーチ幅のみ有意に増加した。(1)両群間の比較では有意差は見られなかった。
【考察】臨床場面において立位での多様なバランスを求める際に足趾を含めた足部全体の柔軟性低下や感覚鈍麻、また過敏性による影響を実感することが多い。本研究結果から足関節のみに比べ足趾を加えたSTは、より感覚入力が促進されバランス能力に影響を及ぼした可能性が考えられる。それ故、足関節および足趾を含めた足部全体に対するアプローチによって、動作時の多様で効率の良いバランス戦略を展開させる可能性が示された。
4)立位から片脚立位施行時の筋活動 テンポの違いによる筋活動開始への影響
1北海道千歳リハビリテーション学院
隈元 庸夫1、伊藤 俊一1、平山 雅教1、徳富 みずき1
【緒 言】立位から上肢挙上時の姿勢筋の先行活動に関しては,多数報告されている.結果,運動の施行条件によって,筋活動開始の反応時間が異なるとされている.しかし,立位から片脚立位施行など,下肢運動条件の違いを検討した報告は少ない. 今回我々は,特にテンポの違いが筋活動開始の反応時間に及ぼす影響を筋電図学的に検討し、立位からの姿勢変化に伴う筋活動を明らかにすることを目的として報告する.
【対象と方法】対象は,健常成人男性20名とした.施行動作は,立位から音刺激に対して片脚立位を行い,音刺激中,片脚立位保持を持続することとした.筋電測定はノラクソン社製筋電計マイオシステム1400を用いた.導出筋は腹直筋,外腹斜筋,脊柱起立筋,大殿筋,中殿筋,大腿二頭筋,大腿直筋,前脛骨筋,腓腹筋とした.音刺激は,同システム内のメトロノーム機能を用い筋電計と同期した.施行テンポの違いは,メトロノームの設定を1)6bpm,音刺激時間5秒間,2)10bpm,音刺激時間3秒間,3)30bpm,音刺激時間1秒間の3条件とした.筋活動開始の時間定義は,音刺激開始後の基線の2SDを越えた時点とした.この筋活動開始を3条件のテンポの違いで比較検討した.統計処理はKruskal Wallis H test後,post hoc testを行い有意水準は5%未満とした.
【結果と考察】3条件での比較では,3)で最も筋活動開始が早く,遠位筋と比較し近位筋で早期に筋活動開始が見られた.局所筋に対する姿勢筋の先行活動は外乱が自らの行為によって誘発される場合といわれ,今回の様な単純反応時間課題においては,0.3〜0.5秒の一定時間の準備期で反応時間は最小となるとされている.今回準備期が短い,つまり3)において早期の筋活動開始が認められたことより,テンポの早い片脚立位施行時で,近位筋の筋活動開始の反応時間が短縮することが示された.
5)脳卒中片麻痺患者における乗馬シミュレータの効果について
〜動的バランス・歩行能力からの検討〜
1旭川リハビリテーション病院 リハビリテーション課
山崎 貴央1、海野 眞紀夫1、中嶋 光秀1、佐々木 健史1
【はじめに】今日、乗馬療法による身体的効果を再現するフィットネス機器をリハビテーションアプローチの一つとして活用している施設・病院が増加している。諸家らによると、脳卒中片麻痺患者(以下CVA患者)において乗馬シュミレータ(Nais JOBA 松下電工製、以下JOBA)施行後、静的立位バランスが向上するという報告がある。しかし、動的バランス及び歩行能力の変化を検討しているものは少ない。そこで今回我々は、CVA患者におけるJOBAの治療効果についてTimed up and go test(以下TUG)、最大努力10m歩行(以下10MG)から比較・検討したので報告する。
【対象】歩行が監視〜自立レベルのCVA患者15名(男性10名、女性5名。平均年齢66.9±12.0歳。右麻痺9名、左麻痺6名。下肢Br-stage III2名、IV3名、V9名、VI1名。平均罹患期間21.0±41.0ヶ月。)尚、高次脳機能障害のある患者は除外した。
【方法】JOBAを用いた訓練を10分間実施した。姿勢は骨盤中間位を保持するよう指示し、速度は頭部の動揺が最小限で、患者の快適なレベルとした。 JOBA実施前後にTUG所要時間(sec)、10MG所要時間(sec)及び歩数(steps)を各3回計測した。測定値は各3回の平均値とし、実施前後で比較した。統計処理はt検定を用い、有意水準5%未満とした。
【結果】実施後、TUG所要時間は有意に低下し(P<0.05)、10MG所要時間においても有意に低下した(P<0.05)。実施後、10MG歩数に有意差はなかった。
【考察】諸家らによるとJOBAの動揺刺激(前後スライド、前後スイング、左右スライド)に対する頚部や体幹の立ち直り反応により頚部・体幹筋の活動が高まり、静的バランスが向上したと報告されている。本研究結果においても同様に、機器による動揺刺激によって動的バランス及び歩行能力が向上したと考えられる。以上のことからJOBAはCVA患者に対するリハビリテーションアプローチの一助となり得ると考えられる
6)転倒予防に関する基礎的検討;下肢反応時間の加齢変化
1北海道千歳リハビリテーション学院、2郡山健康科学専門学校
伊藤 俊一1、村上 亨1、信太 雅洋1、隈元 庸夫1、藤原 孝之2
【はじめに】近年,高齢者転倒予防は重大な社会問題になっており,筋力強化を中心として多くの報告がされている.しかし,高齢者では何らかの原因で転倒しそうになった際,下肢を踏み出して転倒を防ぐ反応時間が遅れる,balanceが低下し運動時間が遅れるなどの指摘は多いが十分なevidenceには至っていない. 本報告の目的は,高齢者のbalance能力の一環として下肢の反応時間を測定し,先ず高齢者の転倒予防に関する基礎dataを構築することである.
【対象と方法】対象は,20〜90歳の下肢に重篤な障害と聴力障害のない者1190名であった.内訳は,20歳群196名(♂98名,♀98名),30歳群202名(♂110名,♀92名),40歳群182名(♂80名,♀102名),50歳群180名(♂80名,♀100名),60歳群196名(♂92名,♀104名),70歳群128名(♂52名,♀76名),80歳以上群106名(♂36名,♀70名)であった.測定は,道内12ヶ所の病院ネットワークによりPTが行った.
方法は,運動条件を1)自然立位と2)可能な限りの挙上側荷重からの2種類とし,新たに開発したユニメック社製反応時間測定器を用いて,立位姿勢で音刺激により可及的に下肢を挙上し足底が床から離れる時間を測定した.検討は,運動時間を1)・2)の条件間および各群間で比較した.
解析にはUnpaired t-testを用い,有意水準は5%とした.
【結果と考察】この結果,運動条件によらず60歳代から有意な反応時間の遅れを認めた.
高齢者の転倒原因として,各種反応の遅延が指摘され、change-in-support strategyとして問題視されている中,今回行ったような単純な動作での遅延を評価可能であり,今後本結果を虚弱高齢者や有疾患者評価の指標として,PTによる転倒予防対策に寄与していきたいと考える.