小ホール  口述演題 6(26〜30) 10月31日(日)

 基礎

 10:30〜11:30     座長:北海道大学医学部保健学科 寒川 美奈

26)後肢懸垂及び懸垂肢に関節固定を施行したラットヒラメ筋の引っ張り特性 

1札幌医科大学大学院 保健医療学研究科、2札幌医科大学保健医療学部 理学療法学科
 高氏 修平1、青木 光広2、乾 公美2

【目的】発生機序の違いによる萎縮筋の差異を明らかにするため、本研究ではラットへ後肢懸垂法及び関節固定法を用いて2種類の萎縮筋を作製し、関節可動域制限の有無による筋の引っ張り特性を比較、検討した。

【対象】足関節可動域に左右差、個体差のないWistar系雄ラット11週齢を用いた。

【方法】ラットを対照群、後肢懸垂群(以下懸垂群)、後肢懸垂+関節固定群(以下懸垂固定群)の3群に分け、対照群は2週間の自由飼育、懸垂群には後肢懸垂、懸垂固定群には後肢懸垂に加え、足関節を最大底屈位で固定して2週間飼育した。飼育後、それぞれのヒラメ筋を剖出し、デジタルノギスにて最大底屈位及び背屈位での筋長を測定し、脛骨近位端及び踵骨をつけたままヒラメ筋を摘出した。脛骨近位端及び踵骨をそれぞれKirschner鋼線でジグに固定し、最大底屈位まで牽引した。末梢方向に20cm/minの速度で破断まで牽引し、その時の引っ張り張力をジグに取り付けたトランスデューサー(LUB−5KB)で記録した。得られた力−変形量曲線から、張力が生じ始める筋長、破断時筋長、stiffness、破断張力を測定、比較した。

【結果】張力が生じ始める筋長は対照群>懸垂群>懸垂固定群、破断時筋長は対照群>懸垂群・懸垂固定群となり、萎縮筋は対照群に比べて牽引の早い段階で張力が生じ始め、破断も早かった。stiffnessは対照群>懸垂固定群となり、懸垂固定群の筋は加える力に対する変化量が大きい、すなわち伸びやすいという結果になった。破断張力は対照群>懸垂群・懸垂固定群となり、萎縮筋は対照群に比べて弱い力で破断した。

【結論】関節可動域制限を伴った萎縮筋と伴わない萎縮筋では引っ張り特性に差が生じており、萎縮筋に対する理学療法の施行において、それを考慮する必要があると考える。


27)ホリゾンタルレッグプレス運動の筋電図学検討 
    〜立ちあがり・歩行動作との比較〜

 1旭川リハビリテーション病院 リハビリテーション課
 塚田 鉄平1、小島 由紀1、高橋 浩史1、佐々木 健史1

【はじめに】近年介護保険制度において要支援、要介護者が増加する中で予防的なリハビリテーションとしてパワーリハビリテーション(以下PR)が注目されている。PRは神経筋協調性の改善を主とし、筋力増強を目的としていない。しかし実際のマシン使用時の筋活動状態を示したものは少ない。本研究では、Compass社製ホリゾンタルレッグプレス(以下HLP)の使用時と立ちあがり・歩行時の筋活動量を比較することで、PRにおける筋活動量の程度と運動療法の適応性について検討したので報告する。

【対象】健常成人20名(男性:10名、女性:10名、平均年齢25.6±8歳)。

【方法】測定動作は(1)歩行(2)立ちあがり(3)HLP(ボルグ指数11:楽である負荷)とした。導出筋は内側広筋(VM)、内側ハムストリングス(Ham)、腓腹筋(Gas)、前脛骨筋(TA)で全て左側とした。表面筋電図はメガ社製ME-3000Pを用い、動作中の筋活動量は積分値を加算平均(3回)したピーク値とした。得られた値を%MVCに換算し、各筋をHLPと歩行・立ち上がりおよびHLPの筋群間で各々比較した。統計にはt検定を用い、有意水準を5%以下とした。

【結果】筋活動量について1)歩行とHLPの比較:Ham・Gas・TAで有意にHLPが低かった。2)立ち上がりとHLPの比較:VM・TAで有意にHLPが低かった。3)HLP筋群間の比較:VMと比較しHam・Gas・TAは有意に低く、4筋全て20%MVC以下であった。

【考察】竹内によるとPRにおける低負荷反復運動は筋・神経系機能を引き出し、ADL自立度や歩行能力に改善を及ぼすとしている。本研究結果よりHLP時の測定値は20%MVC以下で、VM以外はほとんど低い状態であった。更に筋による違いはあるが抗重力的な基本動作よりも低い値であった。従って、セラピストは基本動作と類似した要素を含む動作であってもマシンの特性を十分考慮し、PRのより細かい訓練設定・指導を行う必要性が考えられる。


28)ハンドヘルドダイナモメーターを用いた体幹筋力測定 
   ー座位・臥位での再現性の比較ー

1JA北海道厚生連 旭川厚生病院 理学療法技術部門、2北海道大学医学部付属病院 リハビリテーション部、3愛全会 愛全病院 リハビリテーション科、4北海道大学 医学部 保健学科 
 大久保 慧子1、工藤 篤志2、乗地 麻衣子3、武田 直樹4、山中 正紀4

【目的】ハンドヘルドダイナモメーター(HHD)を使用して体幹筋を測定し再現性に言及した報告は少ない。また測定肢位の変化で、測定値や再現性がどう変化するか比較している報告も少ない。そこで今回は座位と臥位の二つの肢位でベルトにHHDを装着し体幹筋力測定を行い、筋力値と再現性について検討した。

【対象】検者は検者A(男性)、検者B(女性)の2名であった。被験者は健常成人21名(男性10名、女性11名)、平均年齢23.8歳であった。

【方法】筋力測定において、HHDはPower Track II TM COMMANDERを用いた。被験者を座位では椅子に、臥位では検査台上にベルトで固定した。 HHDに使用した固定用ベルトは座位では柱に、臥位では検査台に取り付けた。そして、約5秒間の最大努力による体幹の屈曲・伸展・左右側屈運動を2回行わせ、ピーク値を採用した。測定はメイクテストにて行った。級内相関係数(ICC)を用いて、検者間・検者内(検者A)での再現性を検討した。

【結果】体幹筋力値は、検者A、Bで同じ傾向が見られた。すなわち、筋力値は屈曲と伸展では座位よりも臥で小さかった。左右側屈では臥位で大きかった。検者Aの屈曲、検者Bの屈曲・伸展では、有意に臥位で筋力値が小さかった。検者Bの左側屈では、有意に臥位で筋力値が大きかった。検者内ICCは、座位でも臥位でも屈曲・伸展で良好以上であった。左右側屈ではそれに比べやや再現性が低かった。検者間ICCでも同様の傾向であり、座位でも臥位でも屈曲・伸展では非常に良好な再現性が得られたが、左右側屈ではそれに比べやや再現性が低かった。

【結論】ベルト使用したハンドヘルドダイナモメーターを用いた体幹筋力測定において、座位・臥位ともに屈曲・伸展で良好な再現性が得られた。屈曲・伸展において、座位よりも臥位で筋力値が低下した。


29 )ADL動作における体幹筋活動

1北海道千歳リハビリテーション学院、2北星病院 リハビリテーション科 
 平山 雅教1、伊藤 俊一1、隈元 庸夫1、徳富 みずき1、川島  康洋2、澤田 大輔2

【はじめに】従来から,ADL動作時の体幹筋収縮による体幹・骨盤コントロールは重要とされてきた.しかし,近年では収縮の協調性や収縮速度に関する検討は多いものの,どの程度の筋活動量が必要なのかについての詳細な報告はない. 本報告の目的は,ADL動作時の体幹筋活動量を明らかにし,体幹筋力評価や筋力強化時の目標設定を行う際の一助を得ることである.

【対象と方法】対象は,腰痛症のない健常男性10名(平均年齢24.2±4.1歳)とした.方法は, 1)仰臥位からの起きあがり動作,2)歯磨き,3)椅子からの立ち上がり動作,4)歩行,5)階段昇降,各々の動作を行わせて体幹筋活動を計測した.測定は,左右腹直筋(臍より3cm外側),左右腹斜筋群(臍より15cm外側),左右脊柱起立筋(L1-2の高位で棘突起より6cm外側)をNORAXON 社製(U.S.A.)表面筋電図マイオシステム1400を用いて導出した.なお,筋活動量はMVCで求めた基準放電量で除し,正規化して%MVCとして比較した.解析にはStudent t-検定を用い,有意水準は5%とした.

【結果と考察】この結果,腹直筋,腹斜筋群,脊柱起立筋の各々の%MVCは,1)では39.6,82.4,19.5%,2)では2.0,4.2,14.8%,3)では2.4,6.3,17.1%,4)では5.6,8.8,12.8%,5)では昇り;3.0,6.4,15.2%,降り;3.6,12.3,9.1%であった. 以上の結果は,今回計測したADL動作では,仰臥位からの起きあがり以外では体幹筋の活動量は極めて低く,運動療法で目標とすることが多い強い浅層筋活動は必ずしも必要のないことが示された.従って,今後深層筋活動の検討も必要ではあるが,ADL動作においては体幹浅層筋活動量のみならず収縮の協調性や収縮速度の検討がより重要となると考えられる.


30)体幹深部筋強化に対する超音波エコーと筋電図学的検討

 1北海道千歳リハビリテーション学院、2北星病院リハビリテーション科
 徳富 みずき1、伊藤 俊一1、隈元 庸夫1、平山 雅教1、遠藤 昭2

 【はじめに】近年,腰痛症者に対する体幹深部筋活動による腰部安定化への配慮は,必然のこととする報告が多い.HodgesやRichardsonらは,臥位での検討で腰部安定化が成されると,腹斜筋・腹横筋活動量が増加し,腹直筋活動が減少すると報告している.しかし,腰痛症者wに対してこの指導を行う際には“臍を引き込むように”と指示するとの論述のみで,実際の臨床場面では非常に指導し難い.本報告の目的は,より具体的で指導しやすい方法を検討し,腰痛症者の体幹深部筋強化法の一助を得ることである.

【対象と方法】対象は,腰痛症のない健常男性10名(平均年齢26.8±3.4歳)とした. 方法は,全て仰臥位で右下肢運動を行う際の右体幹筋について測定した.運動条件は,1)従来からの右片脚膝立位から右下肢のみ開脚,2)crook lyingで両下肢をタオルで固定しての右下肢開脚,3)1)での左下肢伸展,4)2)での左下肢伸展,とした.測定は,超音波エコーはALOKASSD-2000を用いて,各々の運動条件下での右外腹斜筋,右内腹斜筋,腹横筋の筋幅変化を各5回ずつ計測した.この際,右腹直筋,右腹斜筋群,右多裂筋の筋活動をNORAXON 社製(U.S.A.)表面筋電マイオシステムを用いて導出した.解析には,級内相関係数,Speamanの順位相関係数, t-検定を用い,有意水準は5%とした.

【結果と考察】この結果,1)・2)に比べ3)・4)の条件では外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋幅は有意な筋幅の増大を認めた.またこの際,腹斜筋群・多裂筋の平均筋電量と内腹斜筋・腹横筋の筋幅増加との間に有意な相関を認めた.以上の結果は,今後腰痛症者対象での再検討が課題であるものの,単純な下肢開脚運動でも対側肢伸展を意識させることでより体幹深部筋活動を促すことが可能であり,腰痛症者の深部筋強化指導法として効果的であると考える.