小ホール  口述演題 4(16〜20) 10月31日(日)

 骨・関節

 930〜10:30       座長:札幌円山整形外科病院 山崎 肇

16)上腕骨結節間溝を中心とする肩の痛みが改善した片麻痺症例について

 1市立小樽第二病院 理学療法部門、2市立小樽第二病院 脳神経外科
 古川 雅一1、木村 正樹1、村井 宏2 

【はじめに】理学療法開始時より結節間溝(以下IG)を中心とする肩の痛みを訴える片麻痺症例に対し、IGを軽く圧迫しながらROM訓練を実施することで痛みが改善したので報告する。

【症例】症例1:脳梗塞・左片麻痺。肩関節の亜脱臼なし。SIASにて近位・遠位上肢ともに0。上肢筋緊張低下。腱反射は軽度亢進。触覚・位置覚はしびれ感はあるものの識別可能。肩ROM(自動介助、坐位)は屈曲80度、外旋70度でIGを中心に痛み出現。バーゼル指数35点。主訴はベット上安静時、体動時の肩の痛み。

症例2:脳梗塞・左片麻痺。肩の亜脱臼半横指。SIAS近位・遠位上肢ともに1。上肢筋緊張・腱反射軽度亢進。上肢触覚・位置覚正常。肩ROM(自動介助、坐位)は屈曲90度、外旋50度でIG中心の痛み出現。バーゼル指数95点。主訴は、左への寝返りと両手を組んで挙上しようとする際、肩の痛み出現。

【肩へのアプローチ内容】肩関節軽度外転外旋位にし、IGを軽度圧迫しながら屈曲方向へ自動介助運動し痛みが出ない範囲でROMを広げる。

【結果】症例1はIGを圧迫しながら行うと屈曲115度、外旋90度迄改善。翌日より主訴は少しずつ改善。1週後、坐位での可動域制限は消失。しかし、背臥位での肩ROMは屈曲100度で肩前面から上部にかけての痛みが残存した。

症例2はIGを圧迫しながら行うとROM改善。実施した日より痛みなしに寝返りが可能となった。1週後、肩の痛みと可動域制限は消失した。

【考察】2症例ともにIGを中心に痛みがあり、そこを圧迫して動かすとROMが改善した。また、上肢運動障害は重度であった。肩関節の円滑な運動の為には、上腕二頭筋長頭腱のIG内の自由な移動(biceps mechanism)が行われる必要があるが、このメカニズムが円滑にいかなかった為、痛みが生じたと考える。IGを圧迫しながら運動をすることでこの移動を補助したと推測する。


17)胸部術後患者の肩甲骨周囲の筋緊張について

 1医療法人 渓仁会 手稲渓仁会病院
 山崎 彰久1、佐藤 義文1、義村 保善1、東本 久美子1、長谷 陽子1、青山 誠1

【はじめに】胸部術後患者において術後肩・肩甲骨周囲に疼痛を生じることがしばしば見受けられる。またそのような患者では肩甲骨周囲の筋緊張が亢進しているように感じられる。肩甲骨周囲の筋緊張亢進は肩関節機能障害や肩甲帯周囲の痛みや張りを引き起こしADL制限をきたす要因となりうる。そこで本研究では胸部術後患者の肩甲骨周囲の筋緊張について肩甲骨のアライメント変化を用いて調査した。             

【対象と方法】対象は当院にて胸部外科手術を受けた患者3名(全て男性、右肺切除)。方法は肩甲骨周囲の肌を露出し端座位とした。その時骨盤前後傾中間位、脊柱正中位となるようにした。両肩峰角、両棘三角、C7棘突起をランドマークとし、肩峰角・棘三角の水平軸と脊柱との交点(SA点、SS点)を左右それぞれマーキングした。肩峰角とSA点、棘三角とSS点、SA点とC7棘突起、SS点とC7棘突起各間の距離をメジャーにて計測した。術前、術直後、5日目、10日目の計4回実施した。術前の値を1とし以後の測定値をその変化率で表した。統計解析は経過を要因として分散分析(ANOVA)と多重比較検定(Bonferroni)を行った。危険率は5%未満を有意水準とした。

【結果】右(術側)肩峰角・SA点間距離が術前(1)と術直後(0.92±0.035)の比較において有意に短縮(P<0.01)していた。その他においても有意差はなかったものの術後、短縮傾向は認められた。

【考察】右肩峰角・SA点間距離が短縮していることと右SA点C7棘突起間の距離が比較的短縮していることから右肩甲骨は上方回旋していることがうかがえ、右肩甲骨周囲筋特に僧帽筋上部線維の筋緊張亢進の可能性が示唆された。


18)肩甲骨面の異なる挙上位における外旋が肩甲下筋の伸張に与える影響
     〜新鮮遺体肩を用いた研究〜

 1札幌医科大学大学院 保健医療学研究科、2札幌医科大学 保健医療学部、3札幌医科大学 解剖第二講座
 村木 孝行1、青木 光広2、内山 英一3、宮坂 智哉1、鈴木 大輔3、宮本 重範2

【目的】肩甲下筋は変形性肩関節症や凍結肩で随伴して起こる外旋制限の一因とされており、その伸張は外旋制限の治療に重要である。しかし肩甲下筋は多羽状筋で頭尾側に幅広く、各筋線維の最も伸張される肢位が異なる可能性がある。本研究の目的は異なる肩甲骨面挙上位における外旋時に肩甲下筋の上部と下部がそれぞれどの程度伸張されるか、新鮮遺体肩を用いて定量的に検討することである。

【対象】実験標本には肩関節に損傷や変形のない新鮮遺体4肩を用いた。

【方法】実験は標本の肩甲骨をジグに固定し、各挙上位で上腕骨を外旋させて肩甲下筋の最上部線維と最下部線維の伸張量を測定した。肩甲骨面の挙上位は肩甲骨内側縁に対して上腕骨が0°、30°、60°、90°となる4肢位とした。各筋線維の伸張は線維方向に沿い筋の中央部に設置したLEVEX社製パルスコーダーを用いて筋線維の伸張量を直接測定し、測定値は挙上0°回旋中間位からの伸張率として表した。各筋の伸張率は4標本の平均値と標準偏差で表し、さらに各標本で最大伸張率を得た肢位を調査した。

【結果】肩甲下筋上部において伸張率が最も大きかった肢位は0°挙上位外旋(0.2±2.6%)であり、4肩中3肩がこの肢位で最も伸張されていた。4肩中1肩は伸張が全く得られなかった。肩甲下筋下部の平均伸張率は30°挙上位外旋で最も大きく(21.9±16.0%)、4肩中3肩がこの肢位で最も伸張されていた。次いで60°挙上位外旋の平均伸張率が大きく(19.9±17.2%)、4肩中1肩はこの肢位で肩甲下筋下部が最も伸張された。

【結論】肩甲下筋の最上部線維は肩甲骨面挙上0°での外旋で最も伸張され、最下部線維は挙上30°〜60°での外旋で最も伸張されることから、肩甲下筋拘縮による外旋制限は肩甲骨面挙上0°〜60°で生じやすく、またこれらの挙上位における外旋が肩甲下筋の伸張に有効と考えられる。


 19)反復挙上動作が肩甲骨周囲筋に与える筋疲労について

 1札幌円山整形外科病院 リハビリテーション科、2札幌医科大学 整形外科
 佐藤 史子1、山崎 肇1、岡村 健司2

【目的】本研究の目的は、反復挙上動作が肩甲骨周囲筋群に与える影響を筋疲労の観点から明らかにする事である。

【対象と方法】対象は肩関節に既往の無い健常成人13名(男性9名、女性4名)、平均年齢21.2才であった。全例利き手は右側であった。測定には表面筋電計(Noraxon社製Myosystem1200)を使用し、導出筋は前鋸筋(SA)、僧帽筋上部線維(UT)、僧帽筋中部線維(MT)、僧帽筋下部線維(LT)、大胸筋(PM)の5筋とした。また、Isobex2.1を使用し、肩関節屈曲の徒手筋力テスト(MMT)の肢位での最大等尺性収縮力を測定し、得られた値の30%を負荷量とした。初めに負荷を用いて肩関節屈曲90°での等尺性収縮を30秒計測、次に最大屈曲角度までの挙上動作を代償動作、または被検者に疲労の訴えが出現するまで反復させた。その後再度肩関節屈曲90°での等尺性収縮を30秒計測した。測定により得られた積分値は、各筋のMMTの肢位より算出した最大収縮時積分値(100%MMT)を基に%MMTにて表した。等尺性収縮30秒間の中央10秒間の平均積分値、中間周波数(MdPF)、を求め、それぞれ挙上動作前後での比較を行った。統計学的処理にはt検定を用い、有意水準は5%とした。

【結果】平均積分値は5筋全てで増加傾向を示し、特にSA,UT、MTで有意に増加した。MdPFは5筋全てで低下傾向を示し、特にSA、UT、PMで有意に低下した。

【結論】挙上動作の影響を特に大きく受けたのはSA、UTであった。挙上動作に必要とされる肩甲骨の上方回旋を促す筋であるために、特にSAとUTの疲労度が高くなったと考えられる。


20)肩甲帯の筋活動に関して 〜不安定状態との比較〜

1札幌円山整形外科病院 リハビリテーション科、2札幌医科大学 整形外科
 山崎 肇1、佐藤 史子1、岡村 健司2

【目的】我々は、上肢挙上時に肩甲帯の安定性が重要であると考え肩甲帯のstabilization ex(Push-up Plus ex)を肩機能回復の目的で行ってきた。また本学会において壁立て伏せや四つ這い位時の肩周囲筋の筋活動変化を報告した。今回更にこれら測定肢位に不安定性要素を加え、肩周囲筋の筋活動の変化を調査検討したので報告する。

【対象と方法】対象は、肩に外傷や手術などの既往歴がない健常成人13名(男9名女4名)で、平均年齢21.2±1.6歳、全例右側が利き手であった。表面筋電計(Noraxon社製MyoSystem1200)を用いて筋活動を計測した。測定肢位は、立位・四つ這い位からのPush-up Plusとし、それら肢位に不安定板(air stabilizer)有りと無しの計4肢位とした。Push-up Plusの肢位を5秒間保持させた。導出筋は、前鋸筋、僧帽筋上・中・下部、大胸筋の5筋とした。各筋に対しMMTの測定肢位における最大随意性等尺性収縮を求め、その値を100%MMTとした。上記測定肢位における筋活動を%MMTとして計算し、筋活動の変化を検討した。

【結果】筋活動の変化は、四つ這い位においては、不安定板を用いた群で、前鋸筋が有意な減少を示し、僧帽筋中部が有意な増加を示した。また、その他の3筋も有意差はないが増加傾向を示した。一方、立位では、同じく不安定板を用いた群で、有意差はないが大胸筋は増加傾向を示し、他4筋は減少傾向を示した。

【結論】今回の結果より、肩に不安定要素を加える事で、前鋸筋の筋活動は減少し、その他の筋群の筋活動が増加した。その影響は立位よりも四つ這い位の方が大きかった。