大会議室  口述演題 3(11〜15) 10月30日(土)

 中枢神経

 12:00〜13:00     座長:旭川リハビリテーション病院 稲田 亨

11) 脳卒中急性期におけるQOL 〜SF36を用いて〜

 1函館脳神経外科病院 理学療法課
 石田 亮介1、中田 俊博1、折野 美緒1

 【目的】脳卒中発症後の生活において生活の質(以下QOL)を充実させることは障害を抱えた患者にとっては重要な課題のひとつである。太田らは脳卒中患者において、退院時に比べ発症後2年時にはQOLが有意に低下すると報告しており、これを『体そこそこ心鬱々』と表現している。しかし、脳卒中発症後早期のQOLについての詳細は不明である。QOLの評価にはSF−36が最も広く使用されている包括的健康関連尺度であり、これは1身体機能、2日常役割機能(身体)、3体の痛み、4全体的健康感、5活力、6社会生活機能、7日常役割機能(精神)、8心の健康、の8項目について36の下位尺度から判定するQOL評価バッテリーである。本研究の目的は脳卒中発症後早期の症例に対してSF−36を用いてQOLを評価し若干の知見を得たので報告することである。

【方法】対象は当院に入院しリハビリテーションを実施した脳卒中症例22例であり、年齢は平均73.3歳であった。方法はSF−36を用いてQOLを評価し、得られた8項目の得点について次の2点について比較検討した。即ち、1.対象群のSF−36の得点と国民標準値との比較、2.ADLの自立度評価であるFIM(運動項目)との関連性である。

【結果】国民標準値に比べ、SF−36の8項目すべてにおいて有意に低値を示した。また、FIM(運動項目)とSF−36の得点の相関は各々ー0.08〜0.36であり相関は認められなかった。

【考察】発症後早期には身体的機能障害の改善に視点が向けられることが多いが、この時期においても体だけではなく心も病んだ状態であることを再認識する必要があると考えられる。また、脳卒中患者においてはADLが自立することは最も重要な課題の一つであるが、ADLが自立することだけでは患者は決して満足しないこと念頭に置くことが必要である。


12) 麻痺側上肢機能に固執する通所リハ利用者へのマシントレーニングの導入と維持期リハについて

 1介護老人保健施設 アートヒルズ、2愛全病院 リハビリテーション部
 児玉 健宏1、平岡 和江1、長尾 めぐみ1、木村 由華1、石橋 晃仁2、土田 隆政2

【はじめに】麻痺側上肢の機能障害に固執するがゆえに個別リハへの意欲の低下をきたした一例にマシントレーニング(以下MT)を導入した結果、上肢機能の向上と活動範囲の拡大がみられた。この事例より、維持期リハのあり方について若干の考察を加える。

【事例】67歳、男性。平成12年6月に右脳梗塞を発症し脳外科に入院。同年12月に自宅に退院、妻と2人暮らしをしている。退院後、当施設通所リハの利用を開始。要介護2であった。左片麻痺はB/Sで上肢?、手指?、下肢?であり、上肢は廃用手。歩行は屋内自立、屋外では麻痺側下肢のつまずきや易疲労性にて、その範囲は限られていた。ADLはFIM6〜7であった。

【経過】初期の個別リハプログラムは、本人の麻痺側上肢の機能回復への強い期待もあり、上肢の自動介助運動やぺグを用いた機能訓練を中心に、耐久性強化を目的に施設内歩行や階段を自主的に実施した。平成13〜14年に上肢機能は若干の握力向上がみられたが、実用度に変化はなくモチベーションが低下し個別リハを休むことが多くなった。平成15年11月よりMTを開始。週3回、マシン4機種を実施。3ヶ月後には週2回のMTと週1回のバランス訓練に変更した。約8ヶ月が経過しファンクショナルリーチテストや開眼片足立ち時間、最大10m歩行速度に改善がみられ、一人で公共の交通機関の利用も可能となり行動範囲が広がった。麻痺側上肢も補助手として使用が可能となり、固執傾向が減少し、MTを含めた通所リハプログラムに意欲的である。現在は一人で旅行に行く事を目標とし、主体的な屋外活動にも取り組んでいる。

【考察】MTによる麻痺側上肢中枢側等の強化で、補助手に改善し、上肢機能への固執傾向の減少と意欲の向上につながったと考えられる。維持期リハでは、意欲の維持・向上を考慮した実生活での達成感が得られるような工夫が必要と考える。


13) aprataxin遺伝子変異689insT患者の小脳症状、末梢神経症状に関する報告

 1北海道済生会 西小樽病院、2札幌医科大学保健医療学部理学療法学科、3札幌医科大学保健医療学部作業療法学科、4札幌医科大学大学院保健医療学研究科
 堀本 佳誉1、小塚 直樹2、舘 延忠3、菊池 真4

 低アルブミン血症を伴う早発型脊髄小脳変性症(early onset ataxia associated with hypoalbuminemia; EOAHA)とは、Freidreich失調症(Friedreich’s ataxia; FRDA)類似疾患とされていたが、分子遺伝学的研究により、責任遺伝子が9番染色体短腕13領域に同定され、この領域がコードするタンパクaprataxinの質的変化が発病に関連すると考えられている。
 臨床症状の特徴は、(1)幼小児期に発症し、緩徐進行性、(2)歩行障害・軽度知的発達障害・眼振・協調運動障害・深部腱反射消失・四肢の筋萎縮・深部感覚障害などを呈する、(3)低アルブミン血症・高脂血症を呈する、(4)画像上、小脳は高度に萎縮する、ことが挙げられている。
 本邦のEOAHA 患者で最も多いとされるaprataxin遺伝子変異689insTが認められた患者の運動機能の特徴としては、小児期からの小脳失調が認められるが、加齢とともに目立たなくなる。一方、末梢神経障害は加齢とともに進行するとされているが、小児期には小脳失調症状が優位なために、末梢神経障害の発症時期は不明である。
 本研究では、成人期のaprataxin遺伝子変異689insTが認められた患者2名(42歳と46歳の姉妹、現在ともに移動手段は車椅子)の小脳症状をInternational Cooperative Ataxia Rating Scale、末梢神経症状をNeuropathy Symptom Score、Neuropathy Disability Score、筋力をMedical Research Council sum-score用い評価した。
 これらの評価により2名ともに、明らかな小脳症状と、末梢神経症状、末梢に強い筋力低下を認めた。
 EOAHAの患者の理学療法を行う上で、早期より、小脳症状に対してのみでなく、末梢神経障害を考慮した身体局所の選択的筋力強化、関節変形・拘縮の予防的運動療法などの理学療法を行う必要があると考えられた。


14) 運動失調症状を持つ患者におけるheel-knee testの再現性と歩行能力との関連性

 1千歳豊友会病院 リハビリテーション科、2北海道千歳リハビリテーション学院 理学療法学科
 久保田 健太1、福井 瑞恵1、伊藤 俊一2、隈元 庸夫2

【はじめに】運動失調(以下,失調)検査法として,従来から踵膝試験(以下,HKT)がある.HKTの量的検討指標として,臨床では10回施行時間の計測も行なわれているが定量的評価として認められてはいない.また歩行能力との関係を考慮すると,成書にある股関節外内転動作を含めた検討も必要と考えられる.そこで今回演者らは,失調を持つ患者に対しHKTと我々が考案した,検査肢を元の位置に戻す点を側方点と定め(以下,側方点),膝→踵→側方点の3点間動作試験(以下,改良HKT)を行い遂行時間,エラー数を計測し,失調評価の一助を得ることを目的に評価の再現性,歩行能力との関連性を検討した.

【対象と方法】対象は,迷路性失調を除いた失調を有する患者12名(平均年齢56±14.8歳)とし,麻痺がある場合,下肢Brunnstrom stage 6以外の患者は対象から除外した.

 方法は,対象の健患両下肢に関してHKT,改良HKT各々10回の施行時間を計測した.同時に他の検者が,着踵する点(膝,足関節,側方点)から外れた回数を計測した.検討した歩行能力は,10m歩行時間,努力性10m歩行時間,timed up and go testとし,HKT,改良HKTの遂行時間及びエラー数の再現性,遂行時間及びエラー数と歩行能力との相関を求めた.解析には級内相関係数,Speamanの順位相関係数を用い,有意水準は5%とした.

【結果と考察】両テストの遂行時間,エラー数は共に再現性を認めた.歩行能力と遂行時間の検討では,両テスト共に相関を認めなかった.しかし,HKTではエラー数と歩行能力間に相関を認めた.改良HKTでは,側方点からずれた回数と歩行能力間に相関を認めた.以上のことより,失調評価において動作の正確性の検討は歩行能力を反映する可能性が示唆され,HKT評価時のエラー数の測定は有用な評価になると考えられた。


15) 視床出血での体性感覚誘発磁界を用いた麻痺側上肢機能回復予測

 1北海道千歳リハビリテーション学院 理学療法学科、2東北大学大学院 医学系研究科 障害科学専攻 運動障害学講座 肢体不自由学分野、3広南病院 脳神経外科
 吉田 英樹1、近藤 健男2、中里 信和3

【目的】本研究の目的は、視床出血の急性期から体性感覚誘発磁界(SEF)を測定し、急性期SEF所見と発症後3ヵ月での運動麻痺及び感覚障害、麻痺側上肢機能回復との関連性を調査した上で、SEFを用いた麻痺側上肢機能回復予測の可能性を検討することであった。

【対象と方法】対象は、視床出血例9例(男性4人、女性5人、年齢61.4±10.0歳)であった。SEFの測定は、204チャンネル全頭型脳磁計(Neuromag)を用いて麻痺側手関節部正中神経への電気刺激にて行い、視床出血発症後72時間以内(急性期)に実施した。病巣側大脳半球からのSEF皮質成分(潜時20msの第1波:N20m〜潜時100msまでの成分) について信号源推定を行い、その結果から体性感覚野由来の反応を認める群(反応群)と反応を認めない群(無反応群)の2群に分類した。麻痺側上肢評価として、運動麻痺(上田の12グレード)と感覚障害(母指探し試験)、上肢機能(5段階上肢能力テスト)の各種評価は、急性期と発症後3ヵ月の2時点で実施し、前述の2群間での運動麻痺、感覚障害、上肢機能回復を比較した。

【結果と考察】急性期正中神経SEF所見で反応群となった症例(6例)は、無反応群となった症例(3例)よりも発症後3ヵ月での麻痺側上肢の運動麻痺、感覚障害、上肢機能回復が有意に良好であり、特に上肢機能については反応群の1例を除く全例で実用手レベルまで回復した。以上の結果から、視床出血での急性期正中神経SEF所見は、麻痺側上肢機能の予後予測指標となる可能性が示唆されたと考える。片麻痺例の麻痺側上肢機能の決定因子としては、運動麻痺だけでなく感覚障害の程度も重要であるが、視床出血例での正中神経SEFはこの両者を反映すると考えられ、上肢機能の客観的予後予測に寄与すると考える。