留学体験記 at New York University Lagone Eye Center

宋 勇錫



New York University (NYU):

2016年9月から一年間、NYUへ留学させて頂きました。自由の女神やブロードウェイのミュージカル、セントラルパークなどで知られるニューヨークはマンハッタンに病院があり、土地柄か見た目は病院というよりも、ビジネスビルといった面持ちでした。このLangone(ランゴン)という名前は、この病院に数百億円規模の多大な寄付をした実業家のLangone氏に由来します。ちなみに、LangoneさんはThe Home Depot(米国では有名なホームセンター。旭川で無理やり例えるとホーマック)の創業者です。  NYUは日本ではあまり馴染みのない大学かもしれませんが、Medical School(全米Top10)以外にも、ビジネススクール(Stern School of Business:Financial Times世界一位)やロースクールなど他領域でも世界的に認知されている名門大学です。また芸術学部(Tisch School of the Arts)なども名で、サルバトーレ・フェラガモ、映画監督のウディ・アレンやマーティン・スコセッシ、さらにはレディ・ガガやアンジェリーナ・ジョリーなど、卒業生には多くのセレブリティがいます。

NYUの付属病院:

Midtown EastにあるTurtle bayという地区にあり、すぐ近くには国連本部やグランドセントラル駅などがあります。ロケーションは最高で、旭川で無理やり例えるとFeel(旧丸井)があるあたりに大学病院があるようなイメージです。病院の建物はマンハッタン含めニューヨーク市の中にいくつかあり、Eye center(NYU Langone Eye Center)はこちらの写真にあるビルに入っています(僕が留学した時はもっと古いビルでしたが…)。

ラボ紹介

LabのHeadは眼科のChairman&ProfessorでもあるProf. Joel Schumanという緑内障の世界では大変ご高名な先生です。今日の眼科診療には必須の機器である光干渉断層計(Optical Coherence Tomography: OCT)の開発者の一人でもあります。Schuman labでは、まだ世の中に出回っていないプロトタイプの光学機器を用いて臨床研究・サルを用いた基礎研究などを行っています。また、ラボには彼を含め3名のPIがおり、私はそのうちの一人であるProf. Ishikawaの下で研究をさせて頂きました。
主に二つのプロジェクトに取り組みました

1.緑内障の進行予測モデルの評価

2 dimensional continuous-time hidden Markov model(Fig.2)という疾患進行予測モデルを緑内障に当てはめて、その臨床性能(予測能)を評価するというものです。モデルはコラボレーターであるジョージア工科大学の研究者に作成して頂き、その臨床応用を行うのが僕の研究テーマの一つでした。このモデルでは、OCT(網膜神経線維厚)による構造変化と視野検査(visual field index, VFI)による機能変化という、これまで別々に評価していた二次元情報(=2 dimensional)を同時に考慮し、疾患の進行を予測することができます。少し内容が難しいですが、簡単に言うと、“OCTと視野検査の情報から、数年後にその患者さんがどのくらい進行するか 予測できますよ”というモデルです。ちなみにその予測性能ですが、GPA(guided progression analysis)などの直線回帰を用いる従来の方法よりは、遥かに精度は高く、今後さらなる発展が期待されます(Ophthalmology 2018)。

2.OCT 3D画像を加算平均し、視神経乳頭画像の質を改善

Spectralisに搭載されているARTを筆頭に各社がOCT画像の“見え方”を向上させるため加算平均法をよく用いています。しかし、これまでの方法では、 eye movement trackingを用いて“事前に”加算平均用のデータをまとめて取得することが絶対条件でした。しかし、我々はその前提条件が必要のない加算平均法、つまり、複数回のセッションに分けて撮影した“事後”のデータを用いることのできる加算平均方法を構築しました。さらに、加算するのは二次元情報ではなく、3次元のcube dataになります。このアルゴリズムを用いることで、無加算(single image)のものに比べ2,3,..,6枚と加算するに従い、視神経乳頭の“見え方”が鮮明になることを確認しました。

Figure.加算前後の視神経乳頭OCT画像。左上から右下にかけて加算枚数を徐々に増やしています。Single image (1)に比べて、徐々に“見え方”が良くなり、視神経乳頭の孔(pore)までもが鮮明に見えているのがわかります。

まとめ:

最初は、言語や生活習慣の違いに戸惑い、また日本人特有の“謙虚さ”が仇となることもしばしばで、苦しいことが多かったように思います。しかし、そうした環境にも徐々に慣れ、1年も経つと居心地が良くなっていました。異国での生活は、住み慣れた日本に比べ大変なことが語りきれないほど沢山ありますが、海外に出ないと味わえないストレスや異文化交流、また日本という小さな島国を外からみる良い機会を得られたことは人生の宝であり、かけがえのない経験であったと思います。現在はシンガポールに出向していますが、言語の問題も含め、NYUでの留学経験に助けられることが多々あります。こうした素晴らしい人生経験ができたのも、家族や吉田学長はじめ医局員の皆様、友人たちの支えがあったからこそ成し得たことだと実感しています。この場を借りて御礼申し上げます。これからは、後輩やこれを読んでいるであろう医学生の皆さんに、この経験を惜しみなく共有しサポートしていくことが自分の使命だと思っています。

- NY留学番外編:オススメのB級グルメ3選 -

貧乏留学ではありましたが、その中でもいくつか個人的にオススメするニューヨークのB級グルメ(安い!)を紹介します。

#1 Chicken over rice: $5

至る所にVenderと呼ばれる屋台がありますが、どこも清潔で食中毒の発生は聞いたことがありません。物価の高いNYにおいてこの価格で、お腹いっぱいになれるのはありがたいことです。その辺のレストランよりもずっと美味しいです。昼間は近くのサラリーマンなどで長い行列ができることもしばしばです。見た目は悪いですが、味は超B級です!!

#2 Falafel sandwiches (produced by SAM’S FALAFEL): $5

ファラフェル・サンドイッチと読みます。Falafelというのは中近東の食べ物で、野菜だけで作った野菜団子です。「野菜だけだから食べごたえはないんだろうな。」と思っていましたが、真逆でかなりずっしり、どっしりしています。ヘルシーかつこんなに美味しい食べ物が地球上にあるのかと、感心したものです。もっと早くに出逢えば良かった。本当に、かなり美味しいです。ちなみにこれも色々な屋台で売られていますが、Wall streetの広場にある屋台がベストです。昼間は行列が長すぎるので、ちょっと時間を外して行くことをおすすめします。

#3 Lobster Ramen (at Ryujin Ramen): $25

アメリカ人=ワイルド+ロブスターLOVE+日本食LOVE、この普遍的な方程式を体現した食べ物がこちらです。味噌ラーメンに大きなロブスター一匹まるごと入っています。留学生には手の届かない値段ではありますが、オーナーが知り合いだったため、なんと50%オフ且つチップなし、にしてもらっていました。見た目も味もワイルドです、人間の価値観とは相対的なんだと、改めて思い知らされました。意外と味は繊細です。蔵や玄の塩ラーメンより濃厚で、かつパンチが効いている感じです。