展示室A 会場  ポスター演題 4 (22〜28)  10月31日(日)

 骨・関節

 10:30~11:30          座長:町立長沼病院 木田 貴英

22) 棘下筋のストレッチング方法についての検討 
     〜新鮮遺体肩を用いた定量的分析〜

1札幌医科大学大学院 保健医療学研究科、2札幌医科大学 保健医療学部、3札幌医科大学 解剖第二講座
 村木 孝行1、青木 光広2、内山 英一3、宮坂 智哉1、鈴木 大輔3、宮本 重範2

【目的】棘下筋の拘縮は肩関節障害の原因となるため、ストレッチングにより柔軟性を改善し、障害の予防・治療を行う必要がある。諸家により棘下筋のストレッチング方法が紹介されているが、これらのストレッチング肢位はさまざまで統一されていない。本研究の目的は棘下筋を有効に伸張できる肩関節肢位を、新鮮遺体肩を用いて定量的に検討することである。

【対象】実験標本には肩関節に損傷や変形のない新鮮遺体10肩(平均死亡年齢80.3歳)を用いた。

方法】実験は肩甲骨標本をジグに固定し、肩関節を他動的に動かして行った。測定は生体における肩甲骨面挙上(以下挙上)0°、30°、90°位での内旋、水平内転、結帯動作肢位(伸展・内旋)を想定した5肢位で行った。これらの肢位における各筋の伸張率は、線維方向に沿い筋の中央部に設置したLEVEX社製パルスコーダーを用いて筋線維の伸張量を直接測定した。測定値は挙上0°回旋中間位からの伸張率で表し、各筋の伸張率は10標本の平均値と標準偏差で表した。

【結果】棘下筋中部線維の平均伸び率は1)伸展・内旋(16.8±12.0%)、2)挙上0°位内旋(14.3±9.2%)、3)挙上30°位内旋(9.9±8.8%)、4)挙上90°位内旋(0.6±12.5%)、5)水平内転(-4.5±12.8%)の順で大きかった。棘下筋下部線維では1)挙上30°位内旋(18.5±11.7%)、2)伸展・内旋(18.5±8.7%)、3)挙上90°位内旋(16.5±14.6%)、4)挙上0°位内旋(14.5±10.8%)、5)水平内転(0.5±13.7%)の順で大きかった。

【結論】棘下筋中部線維は挙上0−30度の範囲の内旋で大きく伸張し、棘下筋下部線維はあらゆる挙上角度の内旋で伸張した。中部線維と下部線維を同時に伸張する場合は、伸張率の高い結帯動作肢位を用いるのが望ましい。


23) 肩甲上腕関節のモビライゼーションが棘上筋腱に与える影響 
     〜新鮮遺体肩を用いた検討〜

1札幌医科大学大学院 保健医療学研究科、2札幌医科大学 保健医療学部、3札幌医科大学 解剖第二講座
 村木 孝行1、青木 光広2、内山 英一3、宮坂 智哉1、鈴木 大輔3、宮本 重範2

【目的】臨床において肩甲上腕関節の可動域制限に対し関節モビライゼーションが用いられることが多い。しかし関節モビライゼーションが肩関節で障害の起きやすい棘上筋腱をどの程度伸張するのか調べた報告はない。本研究の目的は新鮮遺体肩を用い、肩甲上腕関節モビライゼーション時の棘上筋腱の伸び率を測定し、棘上筋腱における関節モビライゼーションの効果を検証することである。

【対象】実験標本には肩関節に損傷や変形のない新鮮遺体8肩(平均死亡年齢78.9歳)を用いた。

【方法】実験は胸郭から離断した上肢標本の肩甲骨をジグに固定した状態で行った。測定では牽引、前方・後方・下方滑りの4手技をKaltenbornの定義したgrade3で行い、これらとの比較として下垂位内旋、伸展内転を行った。この時の棘上筋腱の伸びは腱の停止部より1cm近位で腱の中央部に設置したLEVEX社製パルスコーダーを用いて棘上筋腱の伸びを直接測定し、測定値は開始肢位(挙上0°、回旋中間位)からの伸び率(正の値は伸張、負の値は短縮を表す)で表した。また、各手技における棘上筋腱の伸び率は8標本の平均値と最大/最小値で表し、Bonferroniの多重比較検定を用いて各手技間の比較を行った。

【結果】各手技における平均伸び率を順に表すと伸展・内転(1.1%:-4.9〜7.6)、下方滑り(0.8%:-5.4〜4.5)、牽引(0.1%:-7.4〜4.1)、後方滑り(-0.7%:-6.1〜2.3)、前方滑り(-1.5%:-10.0〜3.8)、内旋(-4.0%:-7.8〜0.3)であった。モビライゼーションの4手技は伸展・内転と有意差がなかった。また下方滑りと牽引は内旋より伸び率が有意に大きかった。

【結論】上肢下垂位における肩甲上腕関節のモビライゼーション、特に下方滑りと牽引は回旋中間位より棘上筋腱に伸張を与える可能性がある。


24)Colles骨折の短期予後調査

1市立函館病院 医局 リハビリセンター、2市立函館病院 医局 整形外科
 碓井 孝治1、川村 昌嗣1、森山 武1、齋藤 香織1、山下 康次1、中島 菊雄2

【目的】Colles骨折は当院外来理学療法の主要疾患の一つであり、効果判定を行なうにあたっては、可動域、握力のみならず日常生活動作(以下、ADL)の評価も重要である。今回我々は、ADLを含めたColles骨折の短期予後について若干の知見を得たので報告する。

【対象】2002年1月から2003年12月までに当院にて理学療法を施行した患者18例中、約2か月間のフォローが可能であった10例を対象とした。男性2例、女性8例、年齢は59.8±13.2歳であった。利き手は全例右で、受傷側は左右とも各5例(全例片側)であった。骨折型は、Frykman分類で1型1手、2型1手、3型4手、4型3手、8型1手であり、治療法は保存療法7例、経皮的pinning3例であった。

【方法】評価項目は初回と最終時の(1)前腕回内外、(2)手関節掌背屈、(3)手関節橈尺屈の各合計可動域、(4)手指尖が手掌につくまで屈曲可能か否か、(5)握力の健側比、(6)ADLであった。なお、ADL評価は予め設定した20項目について、各項目点(0点:不可〜3点:良好)と総得点(0点〜60点)を算出した。さらに、年齢を65歳以上と未満の2群、受傷側を利き手と非利き手の2群に分類し比較分析した。

【結果】全体の平均は初回→最終の順に(1)133.0±19.6°→160.5±19.8°、(2)61.5±7.5°→101.5±12.0°、(3)30.0±11.8°→54.5±12.1°、(5)16.4±16.4%→53.3±20.5%、(6)総得点31.8±12.2点→51.4±12.8点であった。(4)可、不可の順に3例、7例→7例、3例であった。年齢の影響は初回のADL項目の起き上がり、立ち上がり、洗濯の項目で有意差があった。受傷側の影響は初回ADLの7項目及び総得点で、非利き手群で高値であった。

【結論】可動域や握力の変化は従来の報告と同様であり、特に握力の回復が遅かった。初回に高齢群では手をついての起き上がり、立ち上がりに不便を感じ、非利き手群では利き手を用いた動作制限がないためADLは良好であったが、最終時には有意差がなかった。


25) 急性腰痛患者における腰背部筋断面積の検討 
     〜下肢症状の有無による違い〜

1我汝会 えにわ病院 リハビリテーション科、2我汝会 えにわ病院 整形外科
 石田 和宏1、佐藤 栄修2

【目的】腰背部筋群の神経支配は、多裂筋が腰神経背側枝の内側枝、腰最長筋が背側枝の中間枝、腰腸肋筋が背側枝の外側枝である。つまり、腰部疾患による腰神経障害が腰背部筋群に運動性麻痺をもたらす可能性がある。Hidesらは、急性腰痛患者において多裂筋が著明に萎縮していたと報告しているが、腰神経の障害と腰背筋の筋萎縮の関連性について検討した報告は少ない。今回、我々は当院の急性腰痛患者を対象に、外来カルテ及びMRI横断像を用いて、下肢症状と腰背部筋断面積の関連性をretrospectiveに調査したので報告する。

【対象と方法】対象は、2001年8月〜2002年7月までの1年間に、腰痛、下肢痛を主訴として発症後1ヶ月以内に当院整形外科外来を受診した患者1033例中、当院にてMRI診断を実施した80例(男性28例、女性52例)とした。方法は、第3〜4腰椎、第4〜5腰椎椎間板レベルの横断像を用い、画像解析ソフトImage J 1.29xを使用し、多裂筋、脊柱起立筋(最長筋、腸肋筋)の筋断面積を計測した。また、外来カルテより、発症から受診までの期間、下肢症状の有無など調査した。調査結果より、男女別にA)下肢症状有り、B)下肢症状無しの2群に分類し、両群間の筋断面積に関してMann-Whitney U-testを使用し比較検討した。

【結果と考察】男性の4/5レベルで、多裂筋ではA群で有意に低下し、脊柱起立筋ではA群で有意に大きかった(p<0.05)。女性では、両群間で有意差は認められなかった。解剖上、多裂筋の各線維は単根性に、脊柱起立筋はL1〜L4までの線維が多根性に支配されている。今回の結果より、多裂筋の低下は、男性においてL4神経根の障害が存在していた症例が4割強と多かったことが原因であると考える。また、脊柱起立筋は疼痛による過緊張、又は代償的な過活動により大きかったと示唆される。


26)当院における人工膝関節全置換術後の膝屈曲可動域の経時的推移 
    ?術後早期の重要性?

 1函館中央病院 リハビリテーション科
 井野 拓実1、吉田 俊教1、高橋 茂樹1、竹内 光1、松田 泰樹1、田嶋 美紀1 

key words 人工膝関節全置換術・可動域の経時的推移・プラトー

【はじめに】人工膝関節置換術(以下TKA)の目的は除痛と支持性の獲得である。しかし日本の生活様式を鑑みると膝屈曲可動域(以下ROM)の獲得はそれらと並んでニーズが高い。当院では120°を目標に術後リハビリを施行している。今回、当院にてTKAを施行した症例のROMの経過が、術後早期から4週目までどのような推移をたどるか検討したので報告する。

【対象】当院にて2003年度、変形性膝関節症によりPS型TKA (NexGen LPS FLEX−Mobile bearing)を施行し無作為に抽出された42例42膝(女性38名、男性4名、年齢72.6±6.3)を対象とした。なお、可動域訓練は術後3〜4日ドレーン抜去後より、原則1日2時間のCPMのみである。

【方法】本研究は、過去のカルテにおける可動域の計測結果を調査した後方視的コホート研究である。ROMは術後3〜4日目から退院までの毎日、CPM後に自動可動域を通常の角度計にて計測した。「退院時のROM」と「計測開始日のROM」の差を「改善角度の総和」とみなし、退院まで各週、総和の何%の改善率であったかを示した。

【結果】各週のROMの平均は、計測開始日81.3±16.1°、2週目102.2±14.3°、3週目112.2±14.0°、4週目116.5±9.8°、改善角度の総和の平均は57.7°であった。各週における改善率は術後1週目40%、2週目35%、3週目17%、4週目7%であった。

【考察】TKA術後のROMは術後早期により大きく改善しており、3〜4週で概ねプラトーに達する。これは、術創部が術後約2週間で癒着し組織的に安定すると言う通念に準ずる結果と考えられる。上記は、術後可及的早期に膝の可動域を改善することの重要性を示すものであり、さらに、早期にある程度の獲得可動域を予測する指標としても活用できるのではないかと考えられる。


27)人工膝関節全置換術後肺塞栓症を合併した一症例

1勤医協中央病院 リハビリテーション科、2勤医協中央病院 整形外科
 湯野 健一1、辻 王成1

【はじめに】深部静脈血栓症(以下DVT)および肺塞栓症(以下PTE)は、放置すれば致死的結果を招く重篤な術後合併症の1つである。DVTやPTE予防に理学療法は効果的といわれているが、合併した症例の報告は少ない。今回人工膝関節全置換術(以下TKA)後PTEを合併した症例を担当する機会を得たので報告する。

【症例紹介】76歳、女性。148cm65kg、BMI25.2。S62年から両膝OAの診断で外来フォローされていた。今回TKA目的に03.8.26入院となる。入院前ADLは独歩自立、夫との2人暮らし。

【経過とPT所見】03.8.27術前PT実施。膝ROM(右/左):0−120/0−100°足関節の自動運動指導。03.8.28左TKAセメント固定術施行。術中左膝可動域:0−125°03.8.29術後理学療法開始。ドレーン抜去。全荷重許可。03.9.1リハ室での理学療法となり、平行棒内歩行練習開始。左膝ROM:0−80°   右肺動脈下部に5mm程度の血栓あり、肺CTによりPTEの診断。自覚症なし   へパリン線溶療法開始→のちにワーファリンの内服による抗凝固療法へ。03.9.2検査のためPT1日休み。03.9.13階段昇降練習開始。片手すりで荷重痛なく可。左膝ROM:0−110°03.9.18急性腰痛発症。起き上がりがやっとで歩行練習は休止。03.10.3腰痛は徐々に回復、屋内歩行自立し自宅退院。左膝ROM:0−115°

【結果および考察】PTE合併後も中断することなく理学療法を継続することができた。その根拠としては下肢静脈エコー、MRVの結果からDVTは否定的で、PTE再発の可能性は少ないと考えられたことが挙げられる。またPT中止によりDVT再発の恐れ、廃用性変化およびROM改善不良の可能性があることから、安静にしている方がリスクと考えた。本症例は術後5週での退院を果たすことができ、PTE合併および急性腰痛も大きなバリアンスとなることはなかった。今後は本症例を参考に、術前より足関節自動運動を徹底し、主治医と連絡を密にとって理学療法を展開していきたい。



28)高校生ラグビーフットボール選手のスポ−ツ傷害に対するアンケート調査

1札幌円山整形外科病院 リハビリテーション科
 仲澤 一也1、花田 健彦1、谷口 敏子1、山川 智範1、太田 麗花1、山崎 肇1

【目的】ラグビーフットボール(以下ラグビー)は球技でありながら、他の選手とのコンタクトプレーを伴うスポーツ種目である。一方、スポーツ傷害を予防するためには、そのスポーツにおいて傷害発生の傾向や特性を知ることが重要となる。しかし、国内におけるラグビーの傷害調査報告は少ない。今回、高校生を対象とした傷害発生に対するアンケート調査を行い、予防に対する若干の知見を得たので報告する。

【対象および方法】対象は札幌市内のラグビー部に所属している高校生であり、平成16年6月から7月に郵送によるアンケート調査を行い、十分な回答の得られた63名のデータを分析した。調査項目は一般項目(学年・年齢・身長・体重・経験年数・ポジション)、過去1年間でのケガの有無、部位、受傷機転などである。

【結果】傷害の発生率は63名中36名で57.1%であり、36名で52件の傷害が発生していた(1人平均1.4±0.8件)。部位別傷害発生率は足首30.8%、手指17.3%、臀/大腿部17.3%、肩11.5%、膝9.6%、下腿部5.8%、頚部1.9%、肘1.9%であった。また、受傷時のプレー別の発生率はコンタクトプレーが67.3%(タックル48.1%、モール/ラック3.8%、スクラム1.9%、ラインアウト1.9%、その他11.5%)、非コンタクトプレーが32.7%(ランニング13.5%、パス1.9%、その他17.3%)であった。練習中の受傷が57.7%であり試合中が42.3%であった。

【考察】今回の調査から、コンタクトプレー時、特にタックル時の受傷率が高く、部位は足関節の受傷率が高いという結果が得られた。同一部位に対する再受傷も散見された事から、事前の予防のみならず再発防止も重要であると考える。今後は調査対象を地域、年齢ともに拡大し、ラグビー競技における傷害発生傾向とその対策をより具体的に考える必要がある。