耳鼻咽喉科豆知識

人工内耳

人工内耳治療の進め方

人工内耳治療の手順は大きく4段階にわけることができます。

1. 手術前の検査

【図6】
図6 人工内耳治療の手順

人工内耳を希望される方にはいくつかの検査をします。補聴器をつけたら、どの程度言葉がわかるのか聴神経には問題がないかなどの精密な聴力検査を行います。また、CT、MRIで内耳の状態を把握します。

2. 人工内耳手術

人工内耳治療の適応と判断されると、いよいよ手術になります。手術は全身麻酔で行います。傷は耳の後に10cm程度です。顕微鏡をみながらの細かな手術なので3〜4時間かかりますが、生命に危険を及ぼすような大手術ではありませんし、輸血も必要とはしません。手術当日はベットの上で安静にしてもらいますが、特に問題がなければ、次の日からは安静にする必要はありません。

3. 音入れとマッピング

【図7】 人工内耳による聴取能の向上
図7 人工内耳による聴取能の向上

手術を受けておおよそ1週間後に、傷が落ち着いてから、「音入れ」をします。まず、スピーチプロセッサをコンピューターに連結し、ひとつひとつの電極をどのように刺激するかの情報(マップ)を決めます。すべての電極の情報がそろったら、初めて音を入れてみます。このことを「音入れ」といいます。音入れによって初めて音や声が聞こえるようになるわけです。スピーチプロセッサに入っている個々の電極をどのように刺激するかの情報をマップといいます。マップはひとりひとり異なります。言葉を正確に認識するには、ひとつひとつの電極をどのように刺激するかを細かく調整しなければなりません。また、同じ人であっても人工内耳に慣れてくるうちに適正なマップは変わってきます。したがって、人工内耳挿用後も時々受診してマップを調整する必要があります。最初は月に1回程度、慣れてくると年に1〜2回で済みます。

4. (リ)ハビリーテーション

人間の脳はうまくできていて、はじめは言葉として感知できなくても、会話を楽しんでいるうちに聴覚中枢の情報処理の仕方が自然と変化していきます。リハビリーテーションとは、脳内の聴覚中枢に刺激を与え、より早く正確な情報処理能力を磨くということです。人工内耳を装用し、日常生活で積極的にいろいろな人と会話を楽しんだり、テレビを見たり、ラジオを聞いたりすることが大事なリハビリーテーションになります。まだ言語を獲得していない難聴児の場合はハビリテーションといいますが、聾学校などの療育・教育施設の先生、言語聴覚士、家族などの協力体制が重要となります。

おわりに

人工内耳を装用することにより確実に音は聞こえてきます。しかし、音が聞こえるということと言葉が聞き取れるということはイコールではありません。手術後すぐに言葉が聞き取れる方や、なかなか言葉として聞き取れない方など個人差があります。失聴期間が短い方、読話が上手な方、比較的若い年齢の方は比較的早い時期から言葉として聞こえてくるようです。はじめは言葉として感知できなくても、マップを調整したり、いろいろな音を聞いたり、おしゃべりをすすんでしていくうちに、大抵の方はよくなってきます。また、スピーチプロセッサもより良いものが開発されてきておりますので、新しいものに取り替えると見違えるように聞こえてくる場合もあります。いずれにしても、日常生活で常に装用し、人工内耳に慣れることが重要なことです。