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「自然の中から絵本ができた」

終了報告

2021年7月6日

 
 7月6日に看護職キャリア支援センターと二輪草センターの共催事業として、学生と看護職セミナーを実施しました。自分らしく生きる異色の職業人であるあべ弘士先生を講師に招いて、テーマは「自然の中から絵本ができた」です。キャリア・生きがいとは何かを考え、自分らしく生き生きと働くためのキャリアデザインを考える機会となればと企画しました。
あべ弘士先生は、1972年から25年間旭山動物園の飼育係として様々な動物を担当され、行動展示の夢を絵として残し旭山動物園復活のカギとなられました。1996年旭山動物園を退職し創作活動に専念、多くの著書を執筆されています。先生のほとんどの絵本は動物が主人公ですが、今回は『宮沢賢治「旭川。」より』をとりあげてお話しくださいました。宮沢賢治が旭川を訪れた時に残した、一編の詩「旭川。」は現在、旭川東高校に詩碑として残されていますが、先生が創作を加え、絵本となりました。
講演ではまず「旭川。」の詩を読み解説いただきました。その後、絵本をもとに、絵本作成のきっかけとなったエピソード、当時の情景を詳しく調べて忠実に描くために構想13年書き始めて3年という年月を要して完成しており、非常に苦労した思い入れのある面白い作品に仕上がったことなどをお話しいただきました。絵本の優しい朗読を聞き、状況が鮮明に浮かび上がりました。宮沢賢治が見たであろう渡り鳥のオオジシギは絵本の中で「天に思いを届け、天の声を聞いて帰ってくる使者のようだ」と表現されており、重要なキーワードとして描かれていました。実際のオオジシギの飛来と迫力ある求愛行動の映像も見せていただきました。
講演後は、質問にも答えてくださいました。@絵本に使用されている花や昆虫の意図は、登場人物が宮沢賢治だけでは面白くないので、場面構成、絵としての子役(脇役)を考え描いている。Aイラストの創作エピソードについて、動物を描くのは難しいが、死後に解剖を手伝い骨格標本まで作り自然に勉強したことが、イラストを描くもととなっていて、特に動物の目を大事に描いている。B絵本作家になったきっかけは、もともと絵描きになりたく、自然と関わる仕事がしたいと思っていた。旭山動物園で働くことになり、仕事に没頭していたが、ポスター・看板・機関紙を書いているうちにだんだん動物の絵が描けるようになった。絵描きとしては回り道だったが、動物園の25年間は絵描きになるための近道だったと思える。
講義後、「動物園も絵本も大好きで癒された」「キャリアについても可能性を感じられる良い講演でした」「温かくてほっこりする絵が大好きです」「久しぶりにのんびりと、命、動物、自然に浸ることができ心に余裕ができたような気がします」等のアンケートの感想がありました。先生のテーマは「命・動物・自然」でずっと変わっていないとお聞きし、飼育係、絵本作家と変化しても一つのものを大事に持ち続けている事はキャリア・生きがいにつながる大切なことであると実感しました。コロナの影響で延期されていた講演でしたが、参加された40名の方々はそれぞれにキャリア・生きがい・自分らしく生きることの意味を考える良い機会となったのではないでしょうか。あべ先生、お忙しい中、本当にありがとうございました。

           (看護職キャリア支援 職場適応支援 九鬼 智子)



        
        あべ弘士/BL出版 宮沢賢治「旭川。」より