その呼び方は、「水、みず:日本語」、「water:英語」、「aqua:ラテン語」、「ワッカ:アイヌ語」等々、言語によって様々ですが、生物にとって不可欠の物質であることにかわりはありません。自ら動くことのできない植物は根から摂取し、動物は水を求める中でその形態を進化させてきました。特に、人間にとっては、全体重の60〜70%程度が水分であるという事実と共に、その発展の歴史の中で、飲料水、農業・工業用水、発電(蒸気タービン)など、あらゆる局面において欠かせない物質となっています。

 19世紀初頭より、化学式で H2Oと標記されてきたこの物質は、いったいどこから地球上にもたらされたのでしょうか。かつてアポロ15号と17号が月から持ち帰った岩石を分析した結果、地球と月の「水の水素:重水素の比率」が同じであることが判明しました(2013年、NASA発表)。これは、本フォーラム誌(通算7号表紙)にて以前ご紹介した「地球と月の誕生:ジャイアント・インパクト説」を裏付けることとなりました。更に、古い隕石の組成物質の比率とも一致したのです。地球と月のみならず、太陽系全体が形成される中で、「水」が誕生していったと考えられます。数十億年をかけた、なんとも壮大なドラマです。

 通常、私たちが「水」を意識したとき思い描くのは、何でしょう? 今の季節であれば、氷、雪、あるいは、海、川、湖、雨など、固体か液体の状態が多いかと思います。しかし、ご存知のように水: H2Oには、3つの態があります。すなわち、固体:氷、液体:水、ともう一つ、気体:水蒸気(実際は目に見えない)です。この3つの状態のH2Oが存在するハビタブルゾーン(生命居住可能領域)は、太陽系では地球しかないようですが、最新の研究によると、地球と同じような環境を持つ惑星(ハビタブルゾーン)が、銀河系だけでも数十億個あるのではないかと推測されています。自分たちと同じような生命体が、どこかに存在するかもしれない。不思議な気持ちです。

 そんな想いを抱きながら本号表紙に目を移すと、大雪山を思わせる峰々に頂いた氷雪が、やがて春を待っていたかのように、溶け水となって谷を下り、木々の芽を息吹かせながら、川となって滝壺に吸い込まれていくのでした。そして、ふたたび、天日を浴びながら、空高く昇っていく水蒸気。 そんな「水:H2O(講座名群)の循環」の大パノラマが展開されていくのでした。