「それは、空気のような存在だ」という表現を時折、見聞きします。「普段あまり意識していないが、それがないと生きていけない」という意味合いかと思います。現在の地球上における地表付近大気の主な成分は、比率が高い順に、窒素:78.1%、酸素:20.95%、アルゴン:0.9%、二酸化炭素:0.04%、水蒸気:1〜4%程度、と言われています。しかし、誕生直後の地球の大気は、水素、ヘリウムなどの軽い成分であったのが、やがて強い太陽風によって数千万年の間に吹き飛ばされ、その後の火山活動により二酸化炭素とアンモニアが放出されたようです。その時点では、酸素はなかったとされています。やがて、海洋と植物の出現によって、酸素が大量に放出されていきました。そこで、何が起こっていたか? 「光合成 photosynthesis」です。光合成色素(葉緑体)を持つ生物が行う、光エネルギーを化学エネルギーに変換する生化学反応、即ち、光合成生物は、ここ数十億年にわたり、光エネルギーを使って水と空気中の二酸化炭素から、炭水化物(糖類)を合成し、酸素を放散し続けていたのです。現在、私たちが生存していられるのは、この「光合成」なしにはあり得なかったともいえます。

 しかし、人間はその旺盛な生命活動により、酸素を浪費し地球温暖化ガスである二酸化炭素を大量に産出し、現在急激な気候変動に苦しめられており、また、地球上の生命体を紫外線から守ってきたオゾン層の破壊も起きています。では、その多くなりすぎた二酸化炭素を原料にして何かできないだろうか。その視点からたどりついたのが、「人工光合成 artificial photosynthesis」です。これによって、二酸化炭素を減らし、酸素・炭水化物を生産していくことができたならば、どんなに素晴らしいことでしょう。実は近年、日本でも官(ノーベル賞受賞学者:根岸英一氏ら)・民(トヨタ、パナソニック等)の最高レベルでの研究によって、世界的にも注目すべき成果を上げつつあるとの報に接するとき、自分の血が沸き立ってくるのを感じます。

 そのような思いで、一片の葉っぱを見つめていると、主脈(旭川医科大学)から左右に広がっていく葉脈(講座名群)が互いに深く連携しながら、二酸化炭素・水を元に太陽光を一杯に浴びて、炭水化物を蓄積し酸素を放出していく姿は、未来を予感させる「熱い炎」が立ちのぼっているようにも見えてくるのでした。