今号の表紙作成にあたり、あるアイデア(idea)が浮かびました。細胞分裂していく過程の一様相(有糸分裂)を、染色体に見立てた講座名群によって描くというものです。生物の系統樹は、細菌(真正細菌)・古細菌・真核生物の3系統よりなり、生命の始まりの時期から伝えられてきた遺伝情報は染色体中のDNAに埋め込まれてきました。また、単細胞生物・多細胞生物、いずれも生物の個体は最初の一つの細胞の分裂によって形成され、その中に詰まった遺伝情報がコピーされて、新しい細胞に伝えられていく。しかも、その遺伝情報は全ての生物にとって、読み取り可能というのは、驚きです。ここ数十年におけるコンピュータの進化の過程で私達が経験してきた、「以前使用していた記録メディアが、新しいパソコンでは読めない。」、すなわち磁気テープ、フロッピーディスク、光磁気ディスク(MO)、USBメモリのような情報蓄積・伝達メディアの変遷が、数十億年にわたってなかったということです。このことは、原始の記憶(遺伝情報)の上に、更に数多の世代の記憶が連なってきたということを意味しています。(THE CELL 細胞の分子生物学, 参照 )

 アイデア(idea)という言葉が、ギリシャ哲学の世界で用いられていた「イデア」が語源であり、その時代の学校が「アカデミア Akademeia」と称されていたことに想いを巡らせながら今号の表紙を見つめていると、講座名群が互いに感応しあいながら新しい命を生み出そうとしている鼓動が、そこから聞こえてくるのでした。

旭川医科大学 研究フォーラム Vol.10 No.1