近年では、法医学領域におけるDNA多型解析はヒトDNA鑑定として知られており、広範囲に利用されるものとなっています。
しかしながら、血縁者の識別限界や微量あるいは劣化DNAにおける検出感度の問題などが知られています。
新たな個人識別法の開発を目的として各種DNA多型マーカーの個人識別能および検出技術に関する研究を行っています。
・ 混合試料に含まれる関与者推定法の開発 (混合試料のSNPハプロタイプ解析について)
・ 人工核酸を用いた高感度DNA増幅法の開発
・ DNAのメチル化を指標とした年齢推定
【北海道大学大学薬学研究院臨床薬剤学分野との共同研究 】
・ 日本人集団におけるモノカルボン酸輸送担体の遺伝子多型解析
・ 有毒植物の種および属判定におけるDNA検出法の改良
1)DNA多型マーカーの個人識別能の検討
ヒトを対象としたDNA鑑定は通常、市販の検査キットを用いて行われており、複数座位を同時に判定するAmpFlSTR Identifiler Kit(アプライドバイオシステムズ)やPowerPlex ESX17 System(プロメガ)などがあります。これらを用いて解析可能な21座位の縦列型反復配列(STR)に加えて、我々は新たに8座位のSTRの解析法を開発しました。日本人集団のアリル頻度を算出し、個人識別に優れた領域を明らかにしました。検出座位を増やすことにより、血縁関係における識別精度の向上が期待できます。
また、STR以外にも38座位の短い挿入欠失多型を用いた場合での識別力について明らかにしています(Molecular and Cellular Probes, 2014年, 28巻, P13-P18.)。
2)検出技術に関する研究
ユニバーサルプライマーを用いた核酸蛍光標識法は、多くの領域を一度に標識する安価な方法として知られています。しかしながら、領域ごとに増幅効率が異なり、微量なDNAから検出が難しい方法となっています。
我々は人工核酸Locked Nucleic Acid(LNA)に着目して、検出効率の改善を試みました。LNAはDNAの一部が架橋された構造からなり、RNAアナログとして開発されたものです(図1)。ユニバーサルプライマーに1~4塩基のLNAを導入した配列を作成し、2段階PCRを用いてDNAの蛍光標識を行いました。LNAを含まない場合に比べて、LNAを含むユニバーサルプライマーでは、蛍光標識産物の生成量が顕著に増加しており(図2)、LNAを活用した高感度増幅法を確立しました(Electrophoresis, 2013年, 34巻, P448-P455.)。