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炎症性腸疾患について

概説

炎症性腸疾患とは、クローン病や潰瘍性大腸炎に代表される、慢性に経過する疾患 です。比較的希な疾患と考えられており、難病に指定されております。しかしながら、近年、患者数は増加の一途をたどり、2009年度特定疾患医療受給者証 交付件数で、クローン病が3万人、潰瘍性大腸炎が12万人、合わせて15万人に達しております。比較的若年者に発症し、消化管に高度の炎症を呈し、再燃 (症状が悪い)と寛解(症状が軽快)を繰り返し、大変治療が難しい疾患群です。
クローン病と潰瘍性大腸炎の病態・診断・治療について概説します。

1:クローン病

1−1:クローン病の特徴

クローン病は小腸・大腸を中心に全消化管に、浮腫や潰瘍を認め、腸管狭窄や瘻孔などの病態が生じる疾患です。10歳代後半〜20歳代と若年で発症する場合 がほとんどであり、症状は腹痛、腹満、慢性の下痢、発熱、体重減少、肛門病変(痔瘻、肛門周囲膿瘍など)、腸管外症状(関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮 症、虹彩炎など)です。罹患部位(病気が起こっている部位)により、小腸型、大腸型・小腸大腸型に大別され、頻度は各々が約3割を占めます。

1−2:クローン病の診断

内視鏡検査(胃カメラ、大腸カメラ、カプセル小腸検査など)や造影検査などを行い診断します。以下のような診断基準が提唱されております(表1)。特徴 的な臨床所見である〈A〉縦走潰瘍(図1)、〈B〉敷石像、および組織学的な特徴である〈C〉非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の3所見が主要所見です。また頻度 の高い臨床所見である〈a〉消化管の広範囲に認める不整形〜類円形潰瘍またはアフタ、〈b〉特徴的な肛門病変、〈c〉特徴的な胃・十二指腸病変の3所見が 副所見です。
主要所見の〈A〉または〈B〉を有するもの、主要所見の〈C〉と副所見の〈a〉または〈b〉を有するもの、副所見の〈a〉〈b〉〈c〉すべてを有するもの が確診例となります。

↓表1 クローン病 診断基準 難治性炎症成長感障害に関する調査研究班(渡辺班)(平成25年度)
(1) 主要所見
A. 縦走潰瘍 <注7>
B. 敷石像
C. 非乾酪性類上皮細胞肉芽腫 <注8>
(2) 副所見
a. 消化管の広範囲に認める不整形〜類円形潰瘍またはアフタ <注9>
b. 特徴的な肛門病変 <注10>
c. 特徴的な胃・十二指腸病変 <注11>
確診例:
  [1]主要所見の A または B を有するもの。 <注12>
  [2]主要所見の C と副所見の a または b を有するもの。
  [3]副所見の a、b、c すべてを有するもの。
疑診例:
  [1]主要所見の C と副所見の c を有するもの。
  [2]主要所見の A または B を有するが潰瘍性大腸炎や腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、虚血性腸病変と鑑別ができないもの。
  [3]主要所見の C のみを有するもの。 <注13>
  [4]副所見のいずれか2つまたは1つのみを有するもの。
<注 7>    小腸の場合は、腸間膜付着側に好発する。
<注 8>    連続切片作成により診断率が向上する。消化管に精通した病理医の判定が望ましい。
<注 9>    典型的には縦列するが、縦列しない場合もある。また、3ヶ月以上恒存することが必要である。また、腸結核、腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、NSAIDs 潰瘍、感染性腸炎の除外が必要である。
<注10>    裂肛、cavitating ulcer、痔瘻、肛門周囲膿瘍、浮腫状皮垂など。 Crohn病肛門病変肉眼所見アトラスを参照し、クローン病に精通した肛門病専門医による診断が望ま しい。
<注11>    竹の節状外観、ノッチ様陥凹など。クローン病に精通した専門医の診断が望ましい。
<注12>    縦走潰瘍のみの場合、虚血性腸病変や潰瘍性大腸炎を除外することが必要である。敷石像のみの場合、虚血性腸病変を除外することが必要である。
<注13>    腸結核などの肉芽腫を有する炎症性疾患を除外することが必要である。
↓図1:縦走潰瘍
↓図2:敷石像
重症度の判定には、IOIBD assessment score(表2)やCrohn's Disease Activity Index(CDAI)(表3)が用いられており、これにより活動性評価や治療の効果判定を行います。

↓表2 IOIBD assessment score
1. 腹痛
2. 1日6回以上の下痢あるいは粘血便
3. 肛門部病変
4. 瘻孔
5. その他の合併症
6. 腹部腫瘤
7. 体重減少
8. 38ºC以上の発熱
9. 腹部圧痛
10. 10g/dl以下の血色素
各項目を1点とし、2点以上が活動性有りと判断します。

↓表3 CDAI
X1
過去1週間の軟便または下痢の回数
x2=y1
X2
過去1週間の腹痛
(0=なし,1=軽度,2=中等度,3=高度)
x5=y2
X3
過去1週間の主観的な一般状態
(0=良好,1=軽度不良,2=不良,3=重症,4=劇症)
x7=y3
X4
患者が現 在持っている下記項目の数
1) 関節炎/関節痛 2) 虹彩炎/ブドウ膜炎 3) 結節性紅斑/壊死性膿皮症/アフタ性口内炎 4) 裂肛、痔瘻または肛門周囲腫瘍 5) その他の瘻孔 6) 過去1週間100ºF(37.8ºC)以上の発熱
x20=y4
X5
下痢に対してlomil(Lopemin)またはopiatesの服用
(0=なし,1=あり)
x30=y5
X6
腹部腫瘤
(0=なし,2=疑い,5=確実にあり)
x10=y6
X7
ヘマトク リット(Ht)
男(47−Ht)
女(42−Ht)
x6=y7
X8
体重:標準体重;100x(1−体重/標準体重)
=y8
y1〜y8を合計し算出します。150未満:緩解,150-220:軽症,220-300:中等症,300-450:重症,450以上:激症と判断します。

1−3:クローン病の治療

未だにクローン病を完治させる治療法はないため、クローン病の活動性をコントロールし、患者さんのQOL(生活の質)を高めることが治療の原則となりま す。また、狭窄や瘻孔形成などの合併症は、患者さんのQOLに影響するため、その治療や予防が重要です。治療の際には、患者さんにクローン病がどのような 病気であるかをよく説明し、患者さん個々の社会的背景や環境を十分に考慮した上で、患者さんに治療法を提示し話し合いをしながら決定する必要があります。 重症度に応じて、以下のような治療方針に従い治療をすすめます。さらに、寛解期(症状が落ち着いている状態)であっても継続的に治療を行うことが重要です (表4)。
 主な内科的治療法としては、栄養療法と薬物療法があります。エレンタールなどの経腸栄養剤を用いる栄養療法は副作用が少ない反面、一定量 以上(1日に900ml程度を経腸チューブから、もしくは経口で内服する)を継続するためには患者さんの治療に対する理解が必要となります。
薬物療法では、5ASA製剤、抗生物質、ステロイド剤、免疫調整剤、抗TNFα抗体製剤などがあります。寛解導入するために、ステロイド剤を用いる場合も ありますが、この薬剤では寛解を長期にわたり維持することはできず、副作用が大変多い薬剤です。現状では、抗TNFα抗体製剤 (インフリキシマブやアダリムマブ)が強い寛解導入が期待でき、寛解維持にも使用できる薬剤であるため広く用いられており、当科においても積極的に導入 し、寛解導入・寛解維持に努めております。
なお、強い合併症(腸管狭窄、膿瘍、瘻孔など)を有する症例では、患者さんのQOLが著しく低下するため、外科治療を考慮します。高度の腸管狭窄症例で は、食事摂取不良・腹部膨満などの症状が出現します。このような場合、外科手術(腸管切除)を考慮する必要がありますが、切除を繰り返した場合、短腸症候 群を発症し、生存に必要な栄養摂取が困難となってしまいます。当科では、可能な限り、内視鏡的バルーン拡張術などの内科治療で狭窄症状の緩和に努め、また 病変部位の評価を適切に行い、当院消化器外科と連携の上で、適切な治療を行えるように努力しております。

↓表4 平成25年度 クローン病治療指針
クローン病治療指針


2:潰瘍性大腸炎

2−1:潰瘍性大腸炎の特徴

潰瘍性大腸炎は、びらんや潰瘍を形成する大腸の原因不明の炎症性腸疾患です。発症年齢は30〜40歳代の比較的若年層の方です。症状は、持続性・反復性 の粘血便、腹痛、発熱等です。病変の広がりにより、全大腸炎、左側大腸炎、直腸炎、右側あるいは区域性大腸炎に分類されます。臨床症状や血液検査所見によ り重症度を判定し、治療方針を決定していきます(表5)。


↓表5 潰瘍性大腸炎の重症度分類(厚労省分類)

重症
中等症
軽症
(1)排便回数
6回以上
重症と軽症との中間
4回以下
(2)顕血便
(+++)
(+)〜(-)
(3)発熱
37.5℃以上
なし
(4)頻脈
90/分以上
なし
(5)貧血
HB 10g/dl以下
なし
(6)赤沈
30mm/時 以上
正常

注:●重症とは(1)および(2)の他に全身症状である(3)または(4)のいずれかを満たし、かつ6項目のうち4項目以上を満たすものとする
  ●軽症は6項目すべてを満たすものとする
  ●劇症の診断基準:以下の5項目すべてを満たすもの
1.重症基準を満たしている、2.15回/日以上の血性下痢が続いている、3.38℃以上の持続する高熱がある、4.10,000/mm3以上の白血球増 多がある、5.強い腹痛がある

2−2:潰瘍性大腸炎の診断

2.診断
 潰瘍性大腸炎は臨床症状に加え、内視鏡検査(図3〜6)や注腸X線検査、生検組織学的検査を行い、他の炎症性腸疾患や感染性腸炎など除外して診断します (表6)。

↓表6 潰瘍性大腸炎の診断基準
a)のほか、b)のうちの1項目、およびc)を満たし、下記の疾患が除外できれば、確診となる。
a)
臨床症状:持続性または反復性の粘血・血 便、あるいはその既往がある。
b)
1. 内視鏡検査:i) 粘膜はびまん性におかされ、血管透見像は消失し、粗ぞうまたは細顆粒状を呈する。さらに、もろくて易出血性(接触出血)を伴い、粘血膿性の分泌物が付着し ているか、ii) 多発性のびらん、潰瘍あるいは偽ポリポーシスを認める。
2.注腸X線検査:i)粗ぞうまたは細顆粒状の粘膜表面のびまん性変化、ii)多発性のびらん、潰瘍、iii)偽ポリポーシスを認める。その他、ハウスト ラの消失(鉛管像)や腸管の狭小・短縮が認められる。
c)
生検組織学的検査:活動期では粘膜全層に びまん性炎症性細 胞浸潤、陰窩膿瘍、高度な杯細胞減少が認められる。いずれも非特異的所見であるので、総合的に判断する。寛解期では腺の配列異常(蛇行・分岐)、萎縮が残 存する。上記変化は通常直腸から連続性に口側にみられる。

● b) c)の検査が不十分、あるいは施行できなくとも、切除手術または剖検により、肉眼的および組織学的に本症に特徴的な所見を認める場合は、下記の疾患が除外 できれば、確診とする。
●除外すべき疾患は、細菌性赤痢、アメーバ性大腸炎、サルモネラ腸炎、キャンピロバクタ腸炎、大腸結核、クラジミア腸炎などの感染性腸炎が主体で、その他 にクローン病、放射線照射性大腸炎、薬剤性大腸炎、リンパ濾胞増殖症、虚血性大腸炎、腸型ベーチェットなどがある。
↓図3 血管透見減少・発赤
↓図4 粘膜粗ぞう・小潰瘍
↓図5 広範な潰瘍
↓図6 著明な 自然出血

2−3:潰瘍性大腸炎の治療

治療の原則は、重症度や病変の範囲・患者さんのQOLの状態などを考慮して治療を行うことであり、活動期には寛解導入治療を行い、寛解導入後は寛解維持治 療を長期にわたり継続することを目標とします(表7)。重症例や全身障害を伴う中等症例では、入院のうえ、脱水、電解質異常(特に低カリウム血症)、貧 血、低蛋白血症、栄養障害などに対する治療も行っていきます。
  劇症型は急速に悪化し生命予後に影響する危険性があるため、内科と外科の協力のもとに強力な治療を行い、短期間の間に手術が必要かを判断する必要がありま す。
中等症以上の症例では、ステロイド治療を行うことが多いのですが、長期間の使用は副作用や合併症につながるため、ステロイド使用時の初期効果判定は1〜2 週間以内に行い、効果不十分な場合は他の治療法の追加や切り替えを検討します。
 また、ステロイド抵抗例などの難治例や重症例では、血球成分除去療法やシクロスポリン点滴静注・タクロリムスの経口投与・インフリキシマブの点滴静注・ アダリムマブの皮下注射などの選択肢があります。

↓表7 潰瘍性大腸炎 治療指針(内科)

表8に示すような重症例、難治例、劇症型症例では、患者の状態、QOLの改善を考慮して時期の遅れがないように手術を行うことが重要です。
主な手術の方法は表9に示す5種類であり、現在の標準術式は(1)、(2)です。術式は患者の全身状態、年齢、腸管合併症、治療薬剤の副作用などを考慮し て選択します。当科では、当院消化器外科と密に連携しながら治療にあたり、患者にとって適切な時期に外科手術が出来るように努めております。

↓表8 潰瘍性大腸炎外科治療指針(手術適応)
(1)絶対的手術適応
1.大腸穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症
2.重症型、劇症型で強力な内科治療(ステロイド大量静注療法、血球成分除去療法、シクロスポリン持続静注療法・タクロリムス経口投与・インフリキシマブ の点滴静注・アダリムマブ皮下注射など)が無効な例
3.大腸癌およびhigh grade dysplasia(UC-IV)
〈注〉1.、2.は(準)緊急手術の適応である。
(2)相対的手術適応
1.難治例:内科的治療(ステロイド、免疫調節薬、血球成分除去療法など)で十分な効果がなく、日常生活が困難になるなどQOLが低下した例、内科的治療 (ステロイド、免疫調節剤)で重症の副作用が発現、または発現する可能性のある例
2.腸管外合併症:内科的治療に抵抗する壊疽性膿皮症、小児の成長障害など。
3.大腸合併症:狭窄、瘻孔、low-grade dysplasia(UC-III)のうち癌合併の可能性が高いと考えられる例など。

↓表9 潰瘍性大腸炎に対する術式
(1)大腸全摘、回腸嚢肛門吻合術 ( IAA : Ileoanal anastomosis )
直腸粘膜抜去を行い、病変をすべて切除し、回腸で貯留嚢を作成して肛門(歯状線)と吻合する術式で、根治性が高い。 通常は一時的回腸人工肛門を造設す る。
(2)大腸全摘、回腸嚢肛門管吻合術 ( IACA : Ileoanal canal anastomosis )
回腸嚢を肛門管と吻合して肛門管粘膜を温存する術式である。回腸嚢肛門吻合術と比べて漏便が少ないが、肛門管粘膜の炎症再燃、 癌化の可能性については今後の研究課題である。
(3)結腸全摘、回腸直腸吻合術
直腸の炎症が軽度の症例、高齢者に行うことがある。排便機能が良好であるが、残存直腸の再燃、癌化の可能性があるので、術後管理に留意する
(4)大腸全摘、回腸人工肛門造設術
肛門温存が不可能な進行下部直腸癌例だけでなく、肛門機能不良例、高齢者などに行うことがある。
(5)結腸亜全摘、回腸人工肛門造設術、S状結腸粘液瘻、またはHartmann手術
侵襲の少ないのが利点であり、全身状態不良例に対して肛門温存術を行う前の分割手術の一期目として行う。

参考資料
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業
「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(渡辺班)
平成25年度分担研究報告書