教授就任のご挨拶
旭川医科大学 生化学講座
教授  川辺淳一
Asahikawa Medical University Biochemistry

2019年6月20日付で旭川医科大学生化学講座教授を拝命いたしました。 これまで本学の心血管再生先端医療開発講座で約十年間、臨床、研究、教育に携わってまいりましたが、今後は基礎講座の立場から、臨床と基礎との連携、臨床応用にむけた基礎研究、学部学生や若い医師のサイエンス志向の醸成など 様々な想いを持ちながら再始動してまいりたいと考えております。  米国での10年の研究生活 私は、本学を1987年に卒業(9期)、第一内科講座に入局すると同時に大学院に入学し循環器内科医と共に医学研究のキャリアを開始しました。大学院卒業後、直ちに、米国Columbia大学へ留学する機会をいただき、現在もなお難治性疾患である心不全の克服を夢見て、心機能ならびに心臓の寿命に関わるカテコラミン・シグナル研究を開始しました。本シグナルの効果器である心臓型アデニル酸シクラーゼをクローニングし、これを軸として『心臓カテコラミン系の役割』について遺伝子レベルから、蛋白、細胞、そして遺伝子改変動物を用いた疾患病態モデルまで幅広く研究をしてまいりました。その間、留学生から大学職員としてHarvard大学、Pennsylvania州立大学およびNew Jersey医科歯科大学において約十年の研究生活をおくることになりました。 母校での「毛細血管」研究の始動 約十年前に母校に戻り、新しい研究をゼロから構築していくことを決断しました。『多臓器生物が維持する上で本質的なシステムとは?』の自問に、たどりついた結論が、新しい研究標的となる「毛細血管」でした。この問いの狙いは、“失われた臓器を蘇らせる”再生医学・医療の「次の一手」に必要とされる概念を打ち出せること、そして、臓器や疾患を越えた多方面の研究展開が期待できることでした。 心血管再生先端医療開発講座という活動の場を与えていただき、これまで、毛細血管形成に関わる新規因子や、毛細血管を再生する幹細胞を発見することができました。これらの知見を幹として、再生医療を含めた多くのプロジェクトが育っています。特に、臓器再生に本質的な「毛細血管」研究を行っていく中で、「再生」と表裏にある「老化」に関する重要な課題解決につながる糸口も見えてきました。現在、着実に外的競争研究費を獲得し、知的財産を創りつつ、虚血性疾患や動脈硬化などに加えて、糖尿病(ラ島の維持再生)、サルコペニア(骨格筋の維持再生)、慢性炎症などの病態解明や治療開発に向けたプロジェクトを展開しています(毛細血管プロジェクト概要参照)。    統合科学としての脈管研究の推進と将来を担う人材へのサイエンスマインド教育  本講座の分野名を「統合生命科学分野」と改名いたしました。この名称には、二つの統合・連携活動の想いを込めています。本講座の従来からの歴史あるCaポンプ蛋白機能解析研究に加えて、全身に張り巡らされる微小血管・神経に関する研究を通じて、臓器・組織間での密接な連携・統合の中での多細胞生物という観点で生命現象を解き明かし、再生医療や抗老化医療などへの臨床応用をめざすということ。もう一つは、この幅広い研究を展開する上で、臓器や疾患の枠を超えた研究活動が不可欠であり、基礎・臨床含めた講座間の垣根を超えた連携・統合研究、そして、この活動の中で幅広い視野で生命現象を理解する教育を推進していきたいということです。 現実の医療も含め、広い視野をもちながら、未知の世界を切り開くサイエンス力は、少子高齢化・AI革命の中、混沌とする未来にむけて、力強く生きていく原動力となるはずです。研修医、大学院生や若手研究者にとって、研究遂行のすべての経験がサイエンス力を身につける教育そのものです。長い臨床医としてのキャリアを持つ基礎医学講座の教官として、学部学生レベルから、(研究医、臨床医かぎらず)長い医師人生におけるサイエンスマインドの重要性を説いていきたいと思います。そして、一緒にプロジェクトを楽しみながら進める意欲ある医師、若い研究者の参画を望んでいます!